否定の文では、否定語(不・未など)と副詞(常・必・尽・倶など)の語順によって意味が大きく変わります。否定語が副詞の上に来る「不常〜(つねニハ〜ず)」「不必〜(かならずシモ〜ず)」は、「いつも〜とは限らない」「必ずしも〜とは限らない」という部分否定になります。これに対して、副詞が否定語の上に来る「常不〜(つねニ〜ず)」「必不〜(かならズ〜ず)」は、「いつも〜ない」「きっと〜ない」という全部否定(完全否定)になります。「不尽(ことごとくハ〜ず=すべてが〜とは限らない)」「不倶(ともニハ〜ず=両方そろっては〜ない)」も部分否定の代表です。否定語と副詞のどちらが上にあるかに注目して読み分けましょう。次の各例文について、後の問いに答えよ。
本文
※例文は学習用です。
① 家貧不二常得一レ油。(家貧シクシテ常ニハ油ヲ得ず。)
② 君子常不レ憂。(君子ハ常ニ憂ヘず。)
③ 富貴不二必有一レ徳。(富貴ナレドモ必ズシモ徳有ラず。)
④ 小人必不レ譲。(小人ハ必ズ譲ラず。)
⑤ 智者千慮、必有二一失一。(智者モ千慮スレドモ、必ズ一失有リ。)
⑥ 良薬未二必苦一レ口。(良薬モ未ダ必ズシモ口ニ苦カラず。)
⑦ 賢者不二尽富一。(賢者モ尽クハ富マず。)
⑧ 善人尽不レ為レ悪。(善人ハ尽ク悪ヲ為サず。)
⑨ 二者不二倶得一。(二者ハ倶ニハ得ず。)
⑩ 忠臣倶不レ欺レ君。(忠臣ハ倶ニ君ヲ欺カず。)
⑪ 名士不二必皆有一レ才。(名士モ必ズシモ皆才有ラず。)
⑫ 老者常不レ忘レ旧。(老者ハ常ニ旧ヲ忘レず。)
設問
- 次の傍線部は部分否定・全部否定のどちらか答えよ。
- ①の「不常得」
- ②の「常不憂」
- ①「不常得油」と②「常不憂」では、「常」と否定語の語順がどう違うことで意味が変わるか、簡潔に説明せよ。
- 次の傍線部の読み(送り仮名・返り点に従った訓読)を、ひらがなで答えよ。
- ①「不常得」
- ③「不必有」
- 次の日本語の意味になるよう、( )に入る適切な否定の形を「不常」「常不」から選べ。
- 「彼はいつも家にいるとは限らない」… 彼( )在家。
- 「彼はいつも家にいない」… 彼( )在家。
- 次の傍線部を現代語訳せよ。
- ①「家貧シクシテ常ニハ油ヲ得ず。」
- 次の傍線部は部分否定・全部否定のどちらか答えよ。
- ③の「不必有」
- ④の「必不譲」
- 「不必有徳」と「必不譲」の意味の違いを、それぞれ現代語で説明せよ。
- 次の日本語の意味になるよう、( )に入る適切な否定の形を「不必」「必不」から選べ。
- 「金持ちが必ずしも幸福とは限らない」… 富者( )幸。
- 「悪人はきっと反省しない」… 悪人( )悔。
- ⑤「智者千慮、必有一失」を現代語訳せよ。また、この「必有」は部分否定か全部否定かを考え、なぜそう判断できるかを一言添えよ。
- ⑥の「未必」、⑪の「不必」は部分否定・全部否定のどちらか、それぞれ答えよ。
- 次の傍線部の読みを、ひらがなで答えよ。
- ⑥「未必」
- ⑨「不倶」
- 次の傍線部を現代語訳せよ。
- ⑥「良薬モ未ダ必ズシモ口ニ苦カラず。」
- 次の傍線部は部分否定・全部否定のどちらか答えよ。
- ⑦の「不尽富」
- ⑧の「尽不為」
- 次の傍線部を現代語訳せよ。
- ⑦「賢者モ尽クハ富マず。」
- 次の傍線部は部分否定・全部否定のどちらか答えよ。
- ⑨の「不倶得」
- ⑩の「倶不欺」
- 次の傍線部を現代語訳せよ。
- ⑨「二者ハ倶ニハ得ず。」
- ⑫「老者常不忘旧」を現代語訳せよ。傍線部「常不忘」が部分否定でない理由も簡潔に述べよ。
- 次の例文を書き下し文に直せ。
- ③ 富貴不必有徳。
- 次の例文を書き下し文に直せ。
- ⑥ 良薬未必苦口。
- 次の例文を書き下し文に直せ。
- ⑨ 二者不倶得。
- 「部分否定」と「全部否定」は、否定語と副詞のどちらの語順によって決まるか。「副詞」「否定語」の二語を用いて、見分け方のルールを一文で説明せよ。
▼ 解答・解説を見る
問1 ①「不常得」=部分否定(不+常で「いつも〜とは限らない」)/②「常不憂」=全部否定(常+不で「いつも〜ない」)。否定語が上=部分、副詞が上=全部。
問2 ①は否定語「不」が副詞「常」の上にあり「常ニハ〜ず(いつも〜とは限らない)」の部分否定。②は副詞「常」が否定語「不」の上にあり「常ニ〜ず(いつも〜ない)」の全部否定。否定語と「常」の上下が入れ替わることで意味が反転する。
問3 ①「不常得」=つねにはえ(ず)/③「不必有」=かならずしもあら(ず)。
問4 「彼はいつも家にいるとは限らない」→ 彼不常在家。/「彼はいつも家にいない」→ 彼常不在家。
問5 (家が貧しくて)いつも油を手に入れられるとは限らない(手に入らないこともある)。
問6 ③「不必有」=部分否定(必ずしも〜とは限らない)/④「必不譲」=全部否定(きっと〜しない)。
問7 「不必有徳」=富貴であっても必ずしも徳があるとは限らない(徳のない場合もある)。「必不譲」=(小人は)きっと(決して)譲ろうとしない。前者は一部例外を認める部分否定、後者は例外なく否定する全部否定。
問8 「必ずしも幸福とは限らない」→ 富者不必幸。/「きっと反省しない」→ 悪人必不悔。
問9 訳:賢い人でも、千回考えれば必ず一つは失敗がある(どんな賢者にも誤りはある)。判断:これは全部否定・部分否定の対象外で、否定語を伴わない肯定の「必有(必ず〜がある)」。「不必(部分否定)」とは異なり、否定語がないため「必ず〜がある」と完全肯定で読む点に注意。
問10 ⑥「未必」=部分否定(必ずしも〜とは限らない)/⑪「不必」=部分否定(必ずしも皆が〜というわけではない)。いずれも否定語が「必」の上にある形。
問11 ⑥「未必」=いまだかならずしも/⑨「不倶」=ともには。
問12 よく効く薬も、必ずしも口に苦いとは限らない。
問13 ⑦「不尽富」=部分否定(すべてが〜とは限らない)/⑧「尽不為」=全部否定(ことごとく〜しない=一人残らずしない)。
問14 賢い人でも、すべてが(みな一様に)金持ちであるとは限らない。
問15 ⑨「不倶得」=部分否定(両方そろっては得られない=どちらか一方しか得られない)/⑩「倶不欺」=全部否定(みな一様に〜しない)。
問16 二つのものは、両方そろっては手に入れられない(どちらか一方しか得られない)。
問17 訳:年老いた者はいつも昔(のこと)を忘れない。理由:副詞「常」が否定語「不」の上にある「常+不」の語順なので、部分否定ではなく全部否定(いつも〜ない)になるから。
問18 ③ 富貴ナレドモ必ズシモ徳有ラず。
問19 ⑥ 良薬モ未ダ必ズシモ口ニ苦カラず。
問20 ⑨ 二者ハ倶ニハ得ず。
問21 否定語が副詞の上に来れば部分否定、副詞が否定語の上に来れば全部否定になる(=否定語と副詞の上下の語順で決まる)。
※この問題は誰でも古典塾オリジナルです。
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