1. はじめに ― 「守株」とは
「守株(しゅしゅ)」は、古い習慣やかつての成功体験にいつまでもこだわり、進歩のないことをいう故事成語です。「株を守る」ともいい、童謡「待ちぼうけ」もこの故事をもとにしています。出典は『韓非子』の五蠹(ごと)という篇です。
定期テストでは、書き下し文・現代語訳に加えて、「冀」「釈」「身」などの重要語の意味、「不可」の句法、そして「守株」が現在どのような意味で使われるかがよく問われます。短い文章なので、一文ずつ確実におさえましょう。
2. 白文
白文とは、訓点(返り点や送り仮名)のついていない元の漢文のことです。
宋人有耕田者。田中有株。兔走触株、折頸而死。因釈其耒而守株、冀復得兔。兔不可復得、而身為宋国笑。
3. 書き下し文
宋人(そうひと)に田を耕す者有り。田中に株有り。兔(うさぎ)走りて株に触れ、頸(くび)を折りて死す。因(よ)りて其の耒(らい)を釈(す)てて株を守り、復(ま)た兔を得んことを冀(こひねが)ふ。兔復た得べからずして、身は宋国の笑ひと為る。
4. 現代語訳
宋の国の人に、田を耕す者がいました。田の中に切り株がありました。あるとき兔が駆けてきて切り株にぶつかり、首の骨を折って死にました。そこで農夫は自分のすき(耒)を放り出して切り株を見守り、もう一度兔を手に入れたいと願いました。しかし兔は二度とは手に入れることができず、農夫自身は宋の国じゅうの笑い者となったのでした。
5. 句法・重要語のポイント
① 「不可」 ― ~することができない(不可能)
「兔不可復得(兔復た得べからず)」の「不可」は、「…することができない」という不可能の意味。「兔は二度と得ることはできない」となります。
② 「冀ふ」 ― 願う・こいねがう
「冀復得兔(復た兔を得んことを冀ふ)」の「冀」は「願う。こいねがう」。「得ん」の「ん(む)」は意志・願望を表します。
③ 「身は~と為る」 ― わが身は~となる
「身為宋国笑(身は宋国の笑ひと為る)」は「わが身は宋国じゅうの笑い者となった」という意味。「身」はわが身・その人自身のことで、ここでは田を耕していた宋の農夫を指します。「誰を指すか」と問われやすい語です。
覚えておきたい語句
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 株 | 切り株 |
| 因(よ)りて | そこで。それがもとで |
| 釈(す)つ | 手放す。放り出す |
| 耒(らい) | すき。農具 |
| 復(ま)た | ふたたび。もう一度 |
| 身 | わが身。その人自身(ここでは農夫) |
6. 故事の意味と現代での使い方
「守株」は、古い習慣や過去の成功体験にいつまでも固執して、状況の変化に応じた工夫をせず、進歩がないことを意味します。
この農夫の誤りは、まじめに田畑を耕し続けたことではありません。たまたま起きた幸運を、いつも起こることと思い込んだことです。一度きりの偶然の幸運をあてにして同じ行動を繰り返し、本業の耕作まで放り出してしまったため、笑い者になったのです。別名の「株を守る」「待ちぼうけ」も、一度きりの幸運をあてにして同じことを繰り返し、無駄に待つさまをいいます。
たまたまの幸運をあてにして同じ方法に固執していては、変化する現実に対応できず失敗する――現代にも通じる教訓です。
・昔うまくいった営業のやり方を、状況が変わっても見直さないのは守株そのものだ。
・かつての成功体験にしがみつくのは守株だと反省し、勉強法を見直した。
確認クイズ(3問)
Q1. 農夫が耒(すき)を放り出して切り株を見守ったのはなぜか。
ア また兔が切り株にぶつかって手に入ると期待したから イ 切り株を畑から取り除くため ウ 死んだ兔を弔うため
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正解:ア 解説:偶然、兔が切り株にぶつかって死に、労せずに兔を手に入れられたので、「復た兔を得んことを冀ふ」=また同じように得られると期待したのです。
Q2. 「兔不可復得」の「不可」の意味はどれか。
ア ~してはいけない(禁止) イ ~することができない(不可能) ウ ~にちがいない(推量)
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正解:イ 解説:「復た得べからず」で「二度と得ることはできない」という不可能の意味を表します。
Q3. 切り株を見守り続けた農夫は、最後にどうなったか。
ア 多くの兔を手に入れた イ 田を立派に耕し直した ウ 宋の国じゅうの笑い者になった
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正解:ウ 解説:本文の結びは「身は宋国の笑ひと為る」。兔は二度と手に入らず、わが身は宋国じゅうの笑い者となりました。
7. 出典『韓非子』五蠹について
「守株」の出典は『韓非子(かんぴし)』の五蠹(ごと)という篇です。『韓非子』は、中国の戦国時代末期の思想家・韓非(かんぴ)の考えをまとめた書物で、法律と君主の権力によって国を治めるべきだと説く「法家(ほうか)」を代表する書です。「五蠹」とは「国をむしばむ五種類の害虫」という意味で、世の中の役に立たないのに利益だけを得ている人々を、木を食い荒らす虫(蠹)にたとえた篇名です。
韓非がこの「守株」のたとえで本当に言いたかったのは、農夫の失敗そのものではありません。「昔の聖人がうまくいったやり方を、時代が変わった今もそのまま守ろうとするのは、切り株を見守る農夫と同じで愚かだ」という主張です。つまり「昔のよいやり方をまねしさえすればうまくいく」という考えを批判し、時代に合わせて政治の方法も変えるべきだと説くためのたとえ話なのです。物語の表面の意味と作者の主張の両方をおさえると、内容を問う問題に強くなります。
8. 一文ずつていねいに読む
短い文章ですが、一文ずつ「白文→書き下し文→現代語訳」の順に確認すると、返り点や送り仮名のはたらきがよくわかります。
第一文「宋人有耕田者」
- 白文:宋人有耕田者
- 書き下し文:宋人に田を耕す者有り
- 現代語訳:宋の国の人に、田を耕す者がいた
「有」は「(…が)ある・いる」と読む字で、ここでは「宋人に…有り」と返って読みます。「耕田者(田を耕す者)」のように、「動詞+目的語+者」で「…する人」というまとまりを作るのは漢文の基本の形です。
第二文・第三文「田中有株。兔走触株、折頸而死」
- 書き下し文:田中に株有り。兔走りて株に触れ、頸を折りて死す
- 現代語訳:田の中に切り株があった。兔が走ってきて切り株にぶつかり、首の骨を折って死んだ
ここで注意したいのが接続の働きをする「而(じ)」です。「折頸而死」の「而」は、前の動作(頸を折る)から後の動作(死ぬ)へと、なめらかにつなぐ働きをします。書き下すときは「折りて死す」と「て」になり、「而」そのものは読まない(置き字)のがふつうです。「走りて」「触れ」のように、動作が次々と続いていく様子をつかみましょう。
第四文「因釈其耒而守株、冀復得兔」
- 書き下し文:因りて其の耒を釈てて株を守り、復た兔を得んことを冀ふ
- 現代語訳:そこで(農夫は)自分のすきを放り出して切り株を見守り、もう一度兔を手に入れたいと願った
「因りて」は「そこで・それがもとで」と、前の出来事を受けて次の行動につなぐ言葉です。「其の耒」の「其」は「自分の・その」という意味で、農夫自身のすきを指します。「冀復得兔」は「復た兔を得ん(=また兔を手に入れよう)」という願いの内容を、「冀ふ(願う)」が受ける形になっています。
第五文「兔不可復得、而身為宋国笑」
- 書き下し文:兔復た得べからずして、身は宋国の笑ひと為る
- 現代語訳:兔は二度と手に入れることができず、わが身は宋の国じゅうの笑い者となった
結びの一文です。「不可復得」は「復た得べからず(二度と得ることはできない)」という不可能の表現。ここでも「而」は前後をつなぐ働きをしており、「(兔は得られず)、そして身は…」と訳します。「為(…と為る)」は「…になる」という変化を表します。
9. つまずきやすいポイント・入試での問われ方
「守株」は短い文章なので、語句の意味や句法がそのまま設問になりやすい教材です。次のような点が問われます。
- 「不可」の意味…「禁止(してはいけない)」と「不可能(できない)」を取りちがえないこと。ここは文脈から「二度と得ることはできない」という不可能です。
- 「身」が誰を指すか…「身は宋国の笑ひと為る」の「身」は田を耕していた宋の農夫自身。「誰のことか」「何を指すか」と問われたら農夫と答えます。
- 「而」のはたらき…書き下しで「て」「して」と読み、字そのものは読まない置き字。返り点と合わせて、読む字・読まない字を区別できるようにしておきましょう。
- 故事成語の意味…「古い習慣や過去の成功体験に固執して進歩がないこと」。表面の「偶然をあてにする愚かさ」だけでなく、ここまで答えられると満点に近づきます。
- 農夫の誤りの本質…「まじめに耕したこと」ではなく「一度きりの偶然を、いつも起こることと思い込み、本業を放り出したこと」。記述問題で問われやすいポイントです。
10. ミニ練習問題(解答つき)
本文を見ないで答えられるか、力試しをしてみましょう。
問1 次の白文を書き下し文に直しなさい。
「折頸而死」
問2 「因釈其耒而守株」とあるが、農夫がすきを放り出したのはなぜか。簡潔に説明しなさい。
問3 「身為宋国笑」の「身」とは、具体的に誰のことか。
問4 この話から生まれた故事成語「守株」は、どのような意味で使われるか。十五字以内で答えなさい。
――――――――――(解答)――――――――――
- 頸(くび)を折りて死す。(「而」は読まず「て」とつなぐ)
- 偶然、兔が切り株にぶつかって死に、苦労せずに兔を手に入れられたので、また同じように兔が手に入ると期待したから。
- 田を耕していた宋の農夫(自分自身)。
- (例)古い習慣にこだわり進歩がないこと。
11. よくある質問(Q&A)
Q. 「守株」と「待ちぼうけ」は同じ意味ですか。
A. もとは同じ故事から来た言葉です。「待ちぼうけ」は、一度うまくいったことをあてにして、何もせずにただ待ち続けるさまをいい、童謡にもなっています。どちらも「一度きりの幸運をあてにして、同じことをむなしく繰り返す」点が共通しています。
Q. 農夫はなぜ笑い者になったのですか。まじめに働いていたのに気の毒では?
A. ポイントは、農夫が本業の耕作をやめてしまったことです。たまたま起きた幸運(兔が切り株にぶつかる)を「いつも起こること」と思い込み、確実な仕事を捨てて、起こるかどうかわからない幸運を待ち続けた――その判断のまずさが笑われたのです。努力そのものではなく、努力の向け方を誤った点が批判されています。
Q. 「冀ふ」と「願ふ」はどう違いますか。
A. どちらも「ねがう」という意味ですが、「冀ふ(こひねがふ)」はとくに「強く望む・心待ちにする」という気持ちのこもった言い方です。ここでは「また兔が手に入ってほしい」と強く期待している農夫の心情が表れています。
Q. 「宋人」は「そうひと」と「そうじん」のどちらで読みますか。
A. 一般には「そうひと」と読みます。「宋(そう)」は中国の国の名で、当時は「行動が間が抜けている人々」のたとえとして物語に登場することが多く、この話もその一例です。
まとめ
・「守株」=古い習慣や過去の成功体験に固執して、進歩がないこと。「株を守る」「待ちぼうけ」とも。
・偶然の幸運(兔が切り株にぶつかる)をあてにして耕作をやめた農夫は、兔を二度と得られず笑い者になった。
・誤りの本質は「たまたま起きた幸運を、いつも起こることと思い込んだこと」。
・「不可(~できない)」「冀ふ(願う)」「釈つ(手放す)」「因りて(そこで)」「身(わが身)」が頻出。
・出典は『韓非子』五蠹。
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