源氏物語『若紫』垣間見の場面をやさしく解説|光源氏と幼い紫の上の出会い

なぜ「若紫」の垣間見が頻出なのか

『源氏物語』の中でも、「若紫(わかむらさき)」巻の「北山の垣間見(かいまみ)」は、高校古文・大学受験で特によく出る名場面です。理由は大きく三つあります。

一つめは、のちに光源氏の最愛の妻となる「紫の上」が初めて登場する場面だから。物語全体の入り口になる、とても大切なところです。二つめは、王朝物語のお約束である「垣間見(=すきまから、のぞき見ること)」の典型例で、当時の恋のはじまり方がよくわかるから。三つめは、「うつくし」「ゆかし」「らうたし」「あてなり」といった、入試頻出の重要古語と敬語が、ぎゅっと詰まっているからです。

物語の全体像を先に知りたい人は、源氏物語のあらすじもあわせて読むと、この場面の位置づけがつかみやすくなります。

あらすじ ―― 垣間見の流れ

光源氏は、瘧病(わらはやみ=マラリアのような、発作的に熱が出る病気)にかかってしまいます。なかなか治らないので、すぐれた修行者(おこなひ人)がいるという北山(きたやま=京都の北の山)の僧坊(そうぼう=お坊さんの住まい)へ、加持祈祷(かじきとう=病気平癒のお祈り)を受けに出かけました。

治療を終えた源氏が、夕暮れどきに山の中をながめていると、ある小さな家の垣根(小柴垣=こしばがき)が目に入ります。源氏がそっと中をのぞき見(=垣間見)すると、そこには品のよい尼君(あまぎみ)と、女房(=お付きの女性)たち、そしてたいへん美しい少女がいました。これがのちの紫の上です。

少女は十歳ほど。飼っていた雀の子を、世話係の「犬君(いぬき)」という女の子が逃がしてしまい、それを泣きべそをかきながら訴えています。そのあどけない様子に、源氏はすっかり心をひかれます。しかも、その少女の顔立ちが、源氏がひそかに思いを寄せる藤壺(ふぢつぼ)の宮よく似ていたのです。藤壺への思慕(=慕う気持ち)が少女の上に重なり、源氏は「この子を引き取って、自分の手で育てたい」と強く願うようになります。

名場面の原文 ―― 短い引用と訳

少女が雀をめぐって泣くセリフが、この場面のいちばんの見せ場です。

雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠(ふせご)のうちに籠(こ)めたりつるものを。

(出典:『源氏物語』若紫巻)

現代語訳:「雀の子を、犬君が逃がしてしまったの。伏籠(=鳥や香炉にかぶせる、かご)の中に閉じこめておいたのに(…逃げてしまったわ)。」

「伏籠の中に入れておいたのに」と、過ぎたことをくやしがる気持ちが、文末の「ものを」(=…なのに)によく表れています。

続いて、少女の顔立ちと、源氏の心の動きを描く部分です。

「つらつきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり、いはけなくかいやりたる額つき、髪ざし、いみじううつくし。」

(出典:『源氏物語』若紫巻)

現代語訳:「顔つきはたいそうかわいらしく、眉のあたりはほんのりとかすんで美しく、あどけなく(手で)かき上げた額のようすや、髪の生えぐあいは、たいへんかわいらしい。」

そして、源氏が少女に目を奪われた、いちばん大事な理由が次の一文です。

限りなう心を尽くし聞こゆる人に、いとよう似奉(たてまつ)れるが、まもらるるなりけり。」

(出典:『源氏物語』若紫巻)

現代語訳:「(源氏が)この上なく心を尽くしてお慕い申し上げている方(=藤壺の宮)に、たいそうよく似申し上げているので、(少女のことが)自然とじっと見つめられるのであった。」

この「心を尽くし聞こゆる人」が藤壺の宮を指す、という読み取りが入試の定番です。源氏は「ねびゆかむさまゆかしき人かな(=これから成長していくようすを見たい人だなあ)」と、少女の将来にまで思いをはせ、目をとめるのです。

重要古語・文法ポイント

古語・文法 意味 この場面での使われ方
うつくし かわいい・いとしい 少女の顔や髪を「いみじううつくし」とほめる。現代語の「美しい」とちがい、小さく愛らしいものへの感情。
らうたし かわいい・いたわってやりたい 「らうたげ(=かわいらしいようす)」で少女の顔つきを描く。守ってあげたくなるかわいさ。
ゆかし 心がひかれる・見たい・知りたい 「ねびゆかむさまゆかし」=成長を見たい、と源氏の好奇心・関心を表す。
あてなり 上品だ・高貴だ 尼君や少女のけだかい雰囲気を表す語。「あてなる人」=身分の高い、品のよい人。
ねたし くやしい・しゃくにさわる 雀を逃がされた少女の、思いどおりにならないいまいましさにつながる感情語。
奉る(たてまつる) 謙譲の補助動詞(…申し上げる) 「似奉れる」=(藤壺に)似申し上げている。語り手が藤壺を高めている敬語。
給ふ(たまふ) 尊敬の補助動詞(…なさる) 「目とまり給ふ」=目をおとめになる。源氏を高める敬語。

「うつくし」「らうたし」「ゆかし」のような心の動きを表す形容詞は、まとめて覚えると差がつきます。くわしくは心が動く古文の形容詞を参照してください。敬語の見分け方は敬語の識別で確認できます。

テストでの問われ方

この場面では、次のような問いがくり返し出ます。

  • 古語の意味:「うつくし」「らうたげ」「ゆかし」を現代語に直す問題。「美しい」「うらやましい」などと答えると誤りになりやすいので注意。
  • 指示語・人物の特定:「限りなう心を尽くし聞こゆる人」とはだれか →藤壺の宮、と答えさせる問題。源氏が少女にひかれた理由を説明させる記述問題も定番です。
  • 敬語の識別:「奉る」「給ふ」が尊敬か謙譲か、だれからだれへの敬意か、を問う問題。「似奉れる」の敬意の方向(語り手→藤壺)はよく問われます。
  • 場面の理解:源氏が少女を見ている状況=「垣間見」だと答えさせる問題や、少女が泣いている理由(=雀を犬君に逃がされた)を説明させる問題。

まとめ

「若紫」北山の垣間見は、のちの紫の上と光源氏の出会いを描く、源氏物語の出発点です。ポイントは三つ。(1)垣間見という王朝物語のお約束の場面であること、(2)源氏の藤壺への思慕が少女の上に重なること、(3)雀を逃がして泣く少女のあどけなさです。

原文では、「うつくし」「らうたし」「ゆかし」「あてなり」「ねたし」といった心情の古語と、「奉る」「給ふ」の敬語を正しくつかめるかが勝負どころ。「雀の子を犬君が逃がしつる」という有名なセリフと、「藤壺に似ているから源氏は心をひかれた」という流れをセットで覚えておけば、テストでもこわくありません。

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