この記事でわかること
はじめに結論からお伝えします。
『栄花物語(えいがものがたり)』は、藤原道長(ふじわらのみちなが)の栄華を、できごとの起こった順(時代順)に語っていく歴史物語で、現存する最古の歴史物語です。
「歴史物語」というのは、実際にあった歴史を、物語のように読みやすく語り直したジャンルのことです。なかでも栄花物語は、かな(ひらがな)を中心とした、やわらかい和文(女性的な文章)で書かれ、道長の一族のはなやかさを「すばらしい」とほめたたえるように描くのが大きな特徴です。
同じ歴史物語でも、もう一つの有名作品『大鏡(おおかがみ)』とは、書き方の方向性がはっきり違います。この記事では、その違いを表で見比べながら、テストに出るポイントまで、やさしく整理していきます。古文がはじめての人でも大丈夫です。一緒に読んでいきましょう。
① 栄花物語の基本データ
まずは、栄花物語がどんな作品なのか、土台になる情報をおさえましょう。むずかしい用語はあとで一つずつ説明します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ジャンル | 歴史物語(実際の歴史を物語ふうに語る作品) |
| 成立した時代 | 平安時代の後期 |
| 作者 | はっきりとはわかっていません。正編(前半)は赤染衛門(あかぞめえもん)だとする説が通説(広く認められている考え方)です |
| 構成 | 正編(せいへん)と続編(ぞくへん)の二つの部分からなります |
| 表記・文体 | かな(ひらがな)中心の和文体。やわらかく、女性的な文章 |
| 語り方 | 編年体(へんねんたい)。できごとを時代順に並べて語ります |
| えがく中心 | 藤原道長を中心とした、藤原氏のはなやかな栄華(さかえ) |
| あつかう時代 | おおよそ宇多(うだ)天皇のころから、堀河(ほりかわ)天皇のころまで |
「編年体」ってなに?
編年体(へんねんたい)とは、できごとを「起こった順番」に、時間にそって書いていく方法のことです。日記やカレンダーのように、「まずこれが起こって、次にこれが起こって……」と進んでいきます。栄花物語は、この時間の流れにそって、藤原氏のさかえる様子を順番に語っていきます。
作者は本当に赤染衛門なの?
ここは大事なところなので、正直にお伝えします。栄花物語の作者は、実ははっきりとは確定していません。ただし、前半部分(正編)については、赤染衛門が書いたとする説が古くから有力で、いまも通説とされています。赤染衛門は、和歌にすぐれた女性で、道長の妻である倫子(りんし/ともこ)に仕えた女房(宮仕えの女性)でした。そうした立場の人だからこそ、道長一族の様子をこまやかに描けた、と考えられています。
テストでも「作者は赤染衛門(とされる)」と覚えておけば大丈夫ですが、「絶対にこの人」と断言できるわけではない、ということも頭のすみに置いておくと、より正確です。
② 大鏡との違いを見比べよう
栄花物語を理解する一番のコツは、もう一つの歴史物語『大鏡』と並べて見ることです。この二作は、同じ「藤原道長の時代」をあつかいながら、語り方も雰囲気もまるで違います。表で見比べてみましょう。
| くらべるところ | 栄花物語 | 大鏡 |
|---|---|---|
| 語り方(構成) | 編年体(時代順に語る) | 紀伝体(きでんたい)(人物ごとに語る) |
| えがき方の姿勢 | 讃美的(さんびてき)。道長をほめたたえる | 批評的(ひひょうてき)。よい面も悪い面も、するどく語る |
| 文体・表記 | かな中心の女性的な和文 | 老人どうしの対話形式(会話で進む) |
| 作者(とされる人) | 赤染衛門ら(女性) | 未詳(はっきりしない) |
| あつかう天皇の範囲 | 宇多天皇〜堀河天皇のころ | 文徳(もんとく)天皇〜後一条(ごいちじょう)天皇のころ |
「紀伝体」ってなに? 編年体とのちがい
大鏡で使われる紀伝体(きでんたい)とは、「人物ごと」に区切って語る書き方です。「この天皇はこういう人」「この大臣はこういう人」と、一人ひとりに章を立てて伝記のように描いていきます。これは中国の歴史書『史記』などで使われた、本格的な歴史の書き方です。
一方、栄花物語の編年体は、さきほど説明したとおり「時代順」。「いつ何が起きたか」を流れで追うので、その時代の雰囲気や移り変わりが、物語のようにつかめます。
ざっくりまとめると、こう言えます。
- 栄花物語=時間の流れにそって、道長の栄華をうっとりとほめる、やさしい和文の物語
- 大鏡=年老いた語り手たちが、人物ごとに本音で批評する、するどい対話の歴史
同じ時代を「ほめる目線」で見たのが栄花物語、「冷静に評価する目線」で見たのが大鏡、とイメージするとわかりやすいですよ。
③ おおまかな内容の流れ
では、栄花物語が実際にどんな話を語っているのか、大きな流れを見ていきましょう。こまかい事件を全部覚える必要はありません。「藤原道長がだんだん力をつけ、頂点にのぼりつめ、そのはなやかさが描かれる」という大きな物語だ、とつかめれば十分です。
道長が頂点へのぼるまで
栄花物語の前半(正編)は、宇多天皇のころからはじまり、藤原氏がしだいに力を強めていく様子をたどります。そのなかで主役として浮かび上がってくるのが藤原道長です。
道長は、自分の娘たちをつぎつぎに天皇のきさき(妻)にすることで、天皇の祖父(おじいさん)という立場を手に入れ、強い力をにぎりました。やがて道長は御堂関白(みどうかんぱく)とも呼ばれる、当時の政治の中心人物となります。栄花物語は、その出世とはなやかな暮らしを、こまやかにほめたたえながら描いていきます。
(※「御堂関白」は道長を指す呼び名として有名ですが、道長自身が正式に「関白」という役職についていたわけではない、という点は、少しくわしい知識として知っておくと正確です。テストでは「道長=御堂関白と呼ばれた人物」とおさえれば十分です。)
栄華の頂点と「望月の歌」のころ
道長の栄華が頂点に達したことを象徴する有名な和歌に、「望月(もちづき)の歌」があります。これは道長が、三人の娘がそろって天皇のきさき(皇后)の位につき、一族の栄華がきわまった、そのお祝いの席で詠んだと伝えられる歌です。
その歌は、次のようなものです。
この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば
【現代語訳】この世は、まるで自分のためにある世だと思える。満月(望月)が少しも欠けていないように、私には足りないものが何もないと思うので。
「望月」とは満月のことです。少しも欠けていない満月のように、自分の人生には不足が何もない――という、栄華の絶頂を満月にたとえた歌です。栄花物語は、まさにこのような道長一族のかがやかしい頂点の時代を、中心にすえて描いています。
(※この「望月の歌」は、当時の貴族・藤原実資(ふじわらのさねすけ)の日記『小右記(しょうゆうき)』に書きとめられて伝わった歌です。栄花物語そのものに一字一句このまま載っているわけではありませんが、道長の栄華を語るうえで欠かせない、時代を代表する歌として広く知られています。)
後半(続編)へ
後半(続編)は、別の書き手によって書きつがれたと考えられており、道長の死後のことから、堀河天皇のころまでが語られます。栄華のはなやかさだけでなく、時の流れのなかで移り変わっていく様子もえがかれ、全体として平安貴族の世界をたっぷり味わえる作品になっています。
④ テストで問われるポイント
最後に、定期テストや入試の文学史でよく問われるところを、すっきり整理しておきましょう。ここをおさえれば、栄花物語の問題はぐっと解きやすくなります。
1. ジャンルは「歴史物語」
栄花物語は歴史物語です。「軍記物語(いくさを描く)」や「説話(短い教訓話)」などとまちがえないように。「実際の歴史を、物語ふうにやわらかく語った作品」と覚えましょう。そして現存する最古の歴史物語である点も、よく問われます。
2. 「四鏡(しきょう)」との関係
歴史物語のなかでも、題名に「鏡」がつく代表的な四作品を四鏡(しきょう)と呼びます。成立した順に、『大鏡』『今鏡(いまかがみ)』『水鏡(みずかがみ)』『増鏡(ますかがみ)』の四つです。
ここで大事なのは、栄花物語は「鏡」がつかないので、四鏡には入らないということ。栄花物語は四鏡とは別の歴史物語で、大鏡よりも先に成立したと考えられています。テストでは「四鏡=大鏡・今鏡・水鏡・増鏡」「栄花物語は四鏡に含まれない」というセットがねらわれやすいので、しっかり区別しておきましょう。
3. 大鏡との対比(編年体 ↔ 紀伝体)
この記事の②でくわしく見たとおり、栄花物語=編年体・讃美的、大鏡=紀伝体・批評的という対比は、文学史の超頻出ポイントです。次の組み合わせは、丸ごと覚えてしまうのがおすすめです。
- 栄花物語 → 編年体(時代順)/道長をほめたたえる/かな・和文/作者は赤染衛門ら(とされる)
- 大鏡 → 紀伝体(人物ごと)/批評的に語る/対話形式/作者は未詳
4. 文学史での位置づけ
栄花物語は平安時代後期に成立し、歴史物語というジャンルの出発点(最初の作品)になりました。このあと、大鏡をはじめとする四鏡へと、歴史物語の流れが続いていきます。「歴史物語は、栄花物語から始まり、大鏡などの鏡ものへ受けつがれていった」という大きな流れをおさえておくと、文学史の問題に強くなれます。
まとめ
最後に、今日のポイントをふり返りましょう。
- 栄花物語は、藤原道長の栄華を時代順(編年体)に語る、現存最古の歴史物語。
- 平安後期に成立し、作者は赤染衛門ら(とされる・通説)。正編と続編からなり、かな中心の和文体で書かれている。
- 同じ歴史物語の大鏡とは対照的。栄花物語=編年体・讃美的・和文、大鏡=紀伝体・批評的・対話形式。
- 内容は、道長が頂点にのぼりつめる流れと、「望月の歌」に象徴される栄華の絶頂を中心に描く。
- テストでは、歴史物語というジャンル/四鏡には含まれないこと/大鏡との対比/文学史での位置がよく問われる。
栄花物語と大鏡は、いわば「同じ時代を映す二枚の鏡」です。ほめる目線の栄花物語と、批評する目線の大鏡。二つをセットで覚えると、どちらの問題もすらすら解けるようになりますよ。今日はよくがんばりました。
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