導入:なぜ『高名の木登り』はテストに出るのか
『徒然草』の中でも、この高名の木登り(高名の木のぼり)は、定期テスト・入試でくり返しねらわれる定番です。話そのものは短く、登場人物も「木登りの名人」と「作者(兼好法師)」だけ。それでも問われるのは、名人がなぜ高い所では何も言わず、低い所まで降りてから注意したのかという一点に尽きます。つまり油断したときにこそ失敗は起こるという教訓を、文章のどこから読み取るか――ここがまるごと設問になります。短いからこそ、一文一文の意味とつながりを正確に押さえておけば確実に得点できる場面です。
先生と生徒の会話でイメージをつかむ
生徒:先生、木登りの名人が、危ない高い所では黙っていて、もう安全そうな低い所で「気をつけろ」って言うんですよね。順番が逆じゃないですか?
先生:いい所に気づいたね。実はそこがこの話のすべてなんだ。高い所では、本人が怖がって自分から用心している。だから何も言う必要がない。
生徒:あっ、じゃあ低い所は……もう大丈夫だと思って気がゆるむ。
先生:その通り。失敗は「もう安心だ」と思った所で必ず起こる。名人は身分こそ低いけれど、その言葉は聖人の教えにかなっている、と兼好は感心しているんだよ。
原文
高名(かうみやう)の木登りといひしをのこ、人を掟(おき)てて、高き木に登せて梢(こずゑ)を切らせしに、いと危(あやふ)く見えしほどは言ふこともなくて、降(お)るるときに、軒長(のきたけ)ばかりになりて、「あやまちすな。心して降りよ」と言葉をかけ侍りしを、「かばかりになりては、飛び降るとも降りなん。いかにかく言ふぞ」と申し侍りしかば、「その事に候ふ。目くるめき、枝危きほどは、おのれが恐れ侍れば申さず。あやまちは、安き所になりて、必ず仕(つかまつ)ることに候ふ」と言ふ。
あやしき下臈(げらふ)なれども、聖人の戒めにかなへり。鞠(まり)も、難(かた)き所を蹴出(けいだ)して後(のち)、やすく思へば、必ず落つと侍るやらん。
現代語訳
木登りの名人といわれた男が、人に指図して、高い木に登らせて梢を切らせたときに、(その男が)たいそう危なく見えたあいだは何も言わないで、(木を)降りるときに、軒の高さほど(の所)になって、「しくじるな。気をつけて降りよ」と言葉をかけましたので、「これくらいの高さになっては、飛び降りても降りられるだろう。どうしてそんなことを言うのか」と(私が)申しましたところ、「そのことでございます。目がくらむほど高く、枝が危ない間は、本人が(自分で)恐れておりますから、(私は)申しません。失敗は、安全な所になって、必ずいたすものでございます」と言う。
(この男は)身分の低い者であるけれども、その言葉は聖人の戒めにかなっている。蹴鞠(けまり)でも、難しい所をうまく蹴り出した後、(もう)たやすいと思うと、必ず(鞠を)落とすと言うようだ。
重要語句
| 語 | 意味 |
|---|---|
| 高名(かうみやう) | 名高いこと。「名人」の意味 |
| をのこ | 男。男性 |
| 掟(おき)つ | 指図する。指示して命じる |
| 梢(こずゑ) | 木の枝の先のほう |
| いと | たいそう。非常に |
| 軒長(のきたけ) | 家の軒(のき)ほどの高さ |
| あやまち | 失敗。しくじり |
| 心す | 注意する。気をつける |
| 目くるめく | 目がくらむ。めまいがする |
| おのれ | 自分自身。本人 |
| 安し(やすし) | 安全だ。危なくない |
| 仕(つかまつ)る | 「する」の謙譲語。いたす |
| 下臈(げらふ) | 身分の低い者 |
| 聖人(せいじん) | 徳の高いりっぱな人。賢人 |
| 鞠(まり) | 蹴鞠(けまり)。当時の貴族の遊び |
読解のポイント
① 名人が「黙る所」と「注意する所」が逆な理由
名人は高くて危ない所では何も言いません。なぜなら、本人が「おのれが恐れ侍れば(自分で怖がっているので)」自然と用心しているからです。一方、軒ほどの低さまで降りて「もう大丈夫」と思える所でこそ声をかける。この黙る/注意するの逆転に、教訓のすべてが込められています。「順番がおかしい」と感じさせて、読み手にハッとさせる構成です。
② キーワードは「安き所」
「あやまちは、安き所になりて、必ず仕ることに候ふ」が、この章段の結論の一文です。失敗は危険な所ではなく、「安心だ」と気をゆるめた所で起こる。現代でいう「油断大敵」「気のゆるみ」です。設問では、この一文を抜き出させたり、現代語訳させたりするのが典型です。
③ 兼好の評価と「鞠」のたとえ
後半で兼好は、名人を「あやしき下臈なれども、聖人の戒めにかなへり」(身分は低いが、その言葉は聖人の教えにかなう)と評価します。さらに蹴鞠を例に出し、「難しい所を蹴った後で楽だと思うと必ず落とす」と添える。身近な遊びにも同じ法則があると示すことで、教訓の普遍性を強めています。「身分が低い=言葉も軽い」とは限らない、という兼好の見方も問われやすい点です。
作品紹介
作品名:徒然草(つれづれぐさ)/この章段は第百九段「高名の木登り」。
ジャンル:随筆(作者が見聞きしたことや感想を、形式にとらわれず書きつづった文章)。鎌倉時代末期の成立とされます。
作者:兼好法師(けんこうほうし)。俗名は卜部兼好(うらべのかねよし)とも。出家した僧で、宮廷にも仕えた経歴をもつ人物として知られます。
特徴:『枕草子』『方丈記』と並ぶ日本三大随筆の一つ。人生・自然・人間観察についての鋭い見方を、短い段(だん)の積み重ねで描きます。「高名の木登り」のように、身近な出来事から教訓を引き出す段が多いのが魅力です。
定期テストで問われやすい点
- 名人が高い所では注意せず、軒ほどの低さで「あやまちすな。心して降りよ」と言ったのはなぜか(→高い所は本人が恐れて用心しているから)
- 「あやまちは、安き所になりて、必ず仕ることに候ふ」の現代語訳と、これが表す教訓(油断・気のゆるみへの戒め)
- 「おのれが恐れ侍れば」の「おのれ」は誰を指すか(→木に登っている本人)
- 「仕る」「侍り」などの敬語の種類(謙譲語・丁寧語)と、誰から誰への敬意か
- 「あやしき下臈なれども、聖人の戒めにかなへり」に込めた作者の評価
- 蹴鞠(鞠)のたとえが何のために添えられているか(教訓の普遍性を示すため)
- この話の主題を一言で(→油断したときにこそ失敗は起こる)
まとめ
『高名の木登り』のメッセージは、たった一文に凝縮されています。「あやまちは、安き所になりて、必ず仕ることに候ふ」――失敗は危機のさなかではなく、「もう大丈夫」と気をゆるめた瞬間に起こる。木登りの名人も、蹴鞠の名手も、そして私たちの勉強や日常も同じです。テストでは、黙る所と注意する所が逆になっている理由と「安き所」という結論の一文の二つを軸に押さえれば、設問のほとんどに答えられます。短い章段だからこそ、原文・現代語訳・教訓をセットで丸ごと覚えてしまいましょう。
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