はじめに ―― なぜ「春はあけぼの」は超頻出・暗誦の定番なのか
清少納言『枕草子』の冒頭、第一段「春はあけぼの」は、古文を学ぶ中高生・大学受験生なら必ず一度は出会う「冒頭の名文」です。教科書では中学・高校のどちらでも採用率がきわめて高く、定期テストでは原文の暗誦・空欄補充・現代語訳・古語の意味がそのまま問われます。大学入試でも、『枕草子』を代表する一段として、「をかし」の美意識を説明させる記述問題や、四季の対応を問う問題が頻出します。
この段が愛されるのは、まずリズムが良く、暗誦しやすいこと。「春はあけぼの。」とたった一文で言い切る簡潔さ、四季を「時間帯」で切り取る発想の鮮やかさが、千年読み継がれてきた理由です。そして内容面でも、清少納言独自の明るく知的な美意識「をかし」が凝縮されています。本記事では、四季の原文を一つずつ区切り、語釈→現代語訳→鑑賞の順に、定期テスト・入試の頻出ポイントを添えながら、かなり詳しく読み解いていきます。
作品全体の流れをつかみたい人は、先に枕草子のあらすじに目を通しておくと、この第一段の位置づけがよく分かります。
春の段 ―― 「春はあけぼの」
【原文】
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
【語釈】
- あけぼの=夜がほのぼのと明けはじめる頃。明け方。「曙」。
- やうやう=だんだん。しだいに。(歴史的仮名遣い「やうやう」、発音は「ようよう」)
- 山ぎは=山の稜線に接した空の部分。「際(きは)」は境目。「山の端(は)」(=空に接した山の部分=山側)とは指す側が逆なので要注意。
- あかりて=明るくなって。動詞「あかる」の連用形+「て」。
- 紫だちたる=紫がかっている。「〜だつ」=〜の色・様子を帯びる。
- たなびきたる=(雲が横に)長く引いている。「たなびく」の連用形+存続「たる」。
【現代語訳】
春は明け方(が趣深い)。だんだんと白んでゆく山ぎわのあたりが、少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいている(のがよい)。
【鑑賞】
冒頭は「春はあけぼの。」と述語(良いとする中身)を省いて言い切るのが最大の特徴です。「あけぼのがをかし(=趣がある)」という言葉をあえて言わないことで、かえって余韻が生まれます。色彩にも注目しましょう。夜の闇から「白く」明け、やがて雲が「紫」を帯びる――白から紫への淡い色の移ろいを、清少納言は静かに見つめています。声高に「美しい」と言わず、明け方の微妙な変化に趣を見いだす――これこそ『枕草子』の「をかし」(明るく繊細で知的な美)です。
〈テスト頻出ポイント〉
- 「やうやう」の読み(ようよう)と意味(だんだん)は超頻出。仮名遣いの書き取りも要注意。
- 「山ぎは」と「山の端」の違い。山ぎは=空側、山の端=山側。逆に書くと×。
- 「春は( )。」の空欄補充で「あけぼの」を答えさせる問題が定番。
- 述語が省略されていること(=「をかし」等が省かれている)を説明させる記述。
夏の段 ―― 「夏は夜」
【原文】
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
【語釈】
- 月のころ=月の(美しく出ている)頃。月夜。
- さらなり=言うまでもない。改めて言うまでもなく(よい)。「言へばさらなり/さらにもいはず」と同系で、頻出の重要古語。
- 闇=月のない暗い夜。
- なほ=やはり。それでもやはり。
- 飛びちがひたる=(蛍が)入り乱れて飛んでいる。「飛び交ふ」の連用形+「たる」。
- ほのかにうち光りて=かすかにちらっと光って。「うち」は語調を整える接頭語。
- をかし=趣がある。風情がある。心ひかれる。
【現代語訳】
夏は夜(が趣深い)。月の(美しい)頃は言うまでもない。闇夜もやはり、蛍がたくさん入り乱れて飛んでいる(のがよい)。また、ほんの一つ二つなどと、かすかに光って飛んでいくのも趣がある。雨などが降るのも趣がある。
【鑑賞】
夏は「夜」。しかも月夜の明るさだけでなく、月のない「闇」の夜まで良いとするところに、清少納言の感性の細やかさがあります。月夜は「さらなり(言うまでもない)」と軽く流し、むしろ闇に光る蛍――「多く飛びちがふ」群れの華やかさと、「ただ一つ二つ」のかすかな光の両方を愛でる。さらに「雨など降るもをかし」と、ふつう興ざめになりそうな雨夜まで趣に取り込みます。明るい美しさだけを良しとせず、暗さ・静けさにも美を見いだす――「をかし」の幅広さがよく表れた段です。
〈テスト頻出ポイント〉
- 「さらなり」=「言うまでもない」。意味を問う問題・現代語訳ともに最頻出。
- 「をかし」がこの段で繰り返されること。何が「をかし」なのか(蛍・かすかな光・雨)を正確に。
- 「なほ」=やはりの意味。
- 月夜だけでなく闇夜も良いとしている点を読み取らせる記述問題。
秋の段 ―― 「秋は夕暮れ」
【原文】
秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛びいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。
【語釈】
- 山の端=空に接した山の部分(=山側)。春の段の「山ぎは」と対(つい)で覚える。
- いと近うなりたるに=とても近くなっているときに。「近う」は「近く」のウ音便。
- 烏(からす)=カラス。
- 寝どころ=ねぐら。寝る場所。
- 〜とて=〜というので。〜と思って。
- さへ=〜までも。(添加。「〜さえ」)
- あはれなり=しみじみと心打たれる。情趣深い。しんみりした感動を表す。
- まいて=まして。いっそう。(「まして」のイ音便)
- 雁(かり)=渡り鳥のガン。秋に列をなして飛ぶ。
- つらねたる=列をなしている。連ねている。
- はた=また。これもまた。
- いふべきにあらず=言うまでもない。言葉で言い表せないほどだ。
【現代語訳】
秋は夕暮れ(が趣深い)。夕日がさして山の端にたいそう近くなっている時に、烏がねぐらへ帰ろうとして、三羽四羽、二羽三羽と、急いで飛んでいくのまでもがしみじみと趣深い。まして雁などが列をつくっているのが、たいそう小さく見えるのは、とても趣がある。日がすっかり沈んでしまって、風の音や虫の音などが(聞こえてくるのは)、これもまた言うまでもない(ほどよい)。
【鑑賞】
秋は「夕暮れ」。ここは入試で最も狙われる段です。理由は、「あはれ」と「をかし」が一段の中で対象を変えて使い分けられているから。烏がねぐらへ急ぐ姿は「あはれなり」(しみじみとした情趣)、雁が列をなして小さく見えるのは「をかし」(知的な面白さ・興趣)。同じ夕暮れの鳥でも、身近で生活感のある烏には「あはれ」、遠く整然と並ぶ雁には「をかし」と、感情の質を描き分けています。さらに日没後は視覚から聴覚へ転じ、「風の音、虫の音」を「いふべきにあらず」と締める。視覚→聴覚という感覚の移り変わりも見事です。
〈テスト最重要ポイント〉
- 「あはれなり」の対象=烏、「をかし」の対象=雁。ここを逆にすると即×。入試・テスト最頻出の引っかけ。
- 「まいて」=まして(イ音便)の読みと意味。
- 「さへ」=〜までも。「だに」「すら」との違いに注意(さへ=添加)。
- 「山の端」と「山ぎは」を逆に説明させる対比問題。
- 「あはれなり」「をかし」の意味の違いを説明させる記述。
「あはれ」と「をかし」の違いそのものをもっと深く知りたい人は、「あはれ」と「をかし」の違いの解説も読んでおくと、この秋の段の読みが一段と確かになります。
冬の段 ―― 「冬はつとめて」
【原文】
冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も白き灰がちになりて、わろし。
【語釈】
- つとめて=早朝。(また「翌朝」の意もあるが、ここは早朝)。頻出最重要古語。
- 言ふべきにもあらず=言うまでもない。
- さらでも=そうでなくても。(雪や霜が降りていなくても)
- 火など急ぎおこして=炭火などを急いでおこして。
- 炭もて渡る=炭を持って(廊下などを)運んでいく。「もて」=持って。
- つきづきし=似つかわしい。いかにも(冬の朝に)ふさわしい。調和している。頻出の重要古語。
- ぬるくゆるびもていけば=(寒さが)ぬるくゆるんでいくと。「もていく」=だんだん〜していく。
- 火桶=木製の丸い火鉢。
- 灰がち=灰ばかりの状態。「〜がち」=〜が多い。
- わろし=よくない。感心しない。(「悪し(あし)」ほど強くない、「いまひとつだ」の意)。頻出。
【現代語訳】
冬は早朝(が趣深い)。雪が降っているのは言うまでもない。霜がたいそう白いのも、またそうでなくてもとても寒い朝に、火などを急いでおこして、炭を持って(廊下を)運んでいくのも、いかにも(冬の朝に)ふさわしい。(ところが)昼になって、(寒さが)ゆるんでいくと、火桶の火も白い灰ばかりになって、よくない。
【鑑賞】
冬は「つとめて(早朝)」。雪・霜の白さという視覚の美から始まり、寒い朝に炭火を急いでおこして運ぶ人の営みを「つきづきし(似つかわしい)」と評価します。ここが清少納言らしいところで、自然の景色だけでなく人の暮らしの所作にも趣を見いだすのです。そして最後に視点を反転させ、昼になって火が白い灰になっていく様子を「わろし(よくない)」とはっきり否定して締める。良いものを並べるだけでなく、「だめなもの」を最後に一つ置くことで、文章にメリハリと正直さが生まれています。この「つきづきし」⇔「わろし」の対比が冬の段の核心です。
〈テスト頻出ポイント〉
- 「つとめて」=早朝。意味を問う問題が超頻出。「翌朝」の意味も併せて押さえる。
- 「つきづきし」=似つかわしい・ふさわしい。何が「つきづきし」なのか(炭火を運ぶ営み)を正確に。
- 「わろし」=よくない。何が「わろし」なのか(昼の白い灰)を答えさせる問題。「あし」との程度の違いも問われる。
- 冬の段だけ否定的評価で終わる構成上の特徴を説明させる記述。
重要古語・文法のまとめ
この第一段でテスト・入試に出る重要語と文法を一覧にしました。意味の暗記+「対象」の確認がセットで問われます。
| 語・文法 | 意味 | 出る箇所・ポイント |
|---|---|---|
| あけぼの | 明け方・夜明け | 春の段。空欄補充の定番 |
| やうやう | だんだん・しだいに | 読みは「ようよう」。仮名遣い注意 |
| 山ぎは | 山に接した空の部分 | 「山の端」と逆。対比で頻出 |
| さらなり | 言うまでもない | 夏の段「月のころはさらなり」 |
| なほ | やはり | 夏の段「闇もなほ」 |
| をかし | 趣がある・風情がある | 全段の基調。雁=をかし |
| あはれなり | しみじみと心打たれる | 秋の段。烏=あはれ |
| さへ | 〜までも(添加) | 秋の段「飛びいそぐさへ」 |
| まいて | まして・いっそう | 「まして」のイ音便。秋の段 |
| つとめて | 早朝(・翌朝) | 冬の段。意味問題が頻出 |
| つきづきし | 似つかわしい・ふさわしい | 冬の段。炭火を運ぶ営み |
| わろし | よくない・感心しない | 冬の段。「あし」より弱い否定 |
【文法のツボ:係り結び】
この段では係助詞による係り結びを意識しましょう。たとえば「いとをかし」のように形容詞で言い切る形が多いですが、係助詞「ぞ・なむ・や・か」があれば文末は連体形、「こそ」があれば已然形に結びます。テストでは「結びの語の活用形」を答えさせる問題が出るので、係助詞を見つけたら文末の活用形をセットで確認する習慣をつけましょう。また「たなびきたる」「飛びちがひたる」「降りたる」などの存続・完了の助動詞「たり」(連体形「たる」)も頻出。「〜している(状態)」と訳します。
「をかし」と「あはれ」の使い分け ―― ここが理解の核心
『枕草子』を読むうえで絶対に外せないのが、「をかし」と「あはれ」の違いです。両者は似ているようで、感動の質が異なります。
- をかし=対象を少し離れて眺め、「おもしろい」「興趣がある」と感じる明るく知的な美意識。理知的で、軽やかで、好奇心に近い感動。『枕草子』全体の基調。
- あはれ=対象に心が寄り添い、しみじみと深く動かされる情緒的な感動。しんみりとした、胸にしみる感情。『源氏物語』の基調としても有名。
第一段でこの違いが最もはっきり出るのが、くり返しになりますが秋の段です。烏が「あはれ」、雁が「をかし」――身近でせわしない烏の営みには心が寄り添って「あはれ」、遠くに整然と列をなす雁の眺めには知的な興趣として「をかし」。この対象と感情の対応を正しく言えるかどうかが、入試・テストでの差になります。
清少納言の「をかし」は、暗く沈むのではなく、どんな情景にも明るく前向きに「おもしろさ」を見つけ出す感性です。だからこそ春の淡い色、夏の闇の蛍、冬の炭火の営みまで、すべてを生き生きと切り取れたのです。この美意識を一言で説明できるようにしておきましょう。なお、清少納言の「をかし」の魅力がよく分かる別の名場面として、中納言参りたまひての解説も合わせて読むのがおすすめです。
入試・定期テスト対策 ―― 設問例と解答ヒント
実際に問われやすい形式で、設問例と解答のヒントをまとめます。赤シートで隠して練習するつもりで活用してください。
設問例1(空欄補充)
「春は( )。やうやう白くなりゆく山ぎは……」の空欄に入る語を答えよ。
→ヒント:答えはあけぼの。四季の対応「春=あけぼの/夏=夜/秋=夕暮れ/冬=つとめて」はセットで暗記。
設問例2(古語の意味)
傍線部「やうやう」「さらなり」「つとめて」「わろし」の意味をそれぞれ答えよ。
→ヒント:順にだんだん/言うまでもない/早朝/よくない。上の古語表で確認。
設問例3(対象の特定・最重要)
秋の段で、「あはれなり」とされているものと、「をかし」とされているものを、それぞれ本文中の語で答えよ。
→ヒント:「あはれなり」=烏(が寝どころへ飛び急ぐ姿)、「をかし」=雁(が列をなして小さく見える様子)。逆にしないこと。最頻出の引っかけ。
設問例4(現代語訳)
「炭もて渡るも、いとつきづきし。」を現代語訳せよ。
→ヒント:「炭を持って運んでいくのも、たいそう(冬の朝に)似つかわしい。」――「つきづきし=似つかわしい」を外さない。
設問例5(対比の読解・記述)
「山ぎは」と「山の端」は、それぞれ何を指すか。違いが分かるように説明せよ。
→ヒント:「山ぎは」=山に接した空の部分(空側)、「山の端」=空に接した山の部分(山側)。境目を挟んでどちら側かを明示するのがコツ。
設問例6(美意識の説明・記述)
冬の段が最後に「わろし」で終わることには、どのような効果があるか説明せよ。
→ヒント:良いものを並べた後に「よくないもの」を一つ置くことで、対比によるメリハリが生まれ、作者の率直な観察眼が際立つ、という方向でまとめる。
設問例7(文法)
「紫だちたる雲」の「たる」、「飛びちがひたる」の「たる」の文法的意味を答えよ。
→ヒント:いずれも存続(完了)の助動詞「たり」の連体形。「〜している」と訳す。
まとめ ―― 「春はあけぼの」で押さえるべきこと
最後に、この第一段で必ず覚えておくべき要点を整理します。
- 四季×時間帯の対応:春=あけぼの(明け方)/夏=夜/秋=夕暮れ/冬=つとめて(早朝)。暗誦で丸ごと言えるように。
- 各季節の情景:春=紫だつ雲のたなびき/夏=闇に飛ぶ蛍・雨/秋=烏と雁・風と虫の音/冬=雪・霜・炭火の営み。
- 「をかし」と「あはれ」:をかし=明るく知的な趣/あはれ=しみじみした情趣。秋は烏=あはれ、雁=をかし。
- 重要古語:やうやう・さらなり・なほ・さへ・まいて・つとめて・つきづきし・わろし。
- 対比の視点:山ぎは⇔山の端、つきづきし⇔わろし。
「春はあけぼの」は、暗誦・古語・現代語訳・対象の特定と、出題のしどころが詰まった一段です。原文をリズムごと声に出して覚え、上の古語表と「をかし/あはれ」の使い分けをセットで頭に入れておけば、定期テストでも入試でも大きな得点源になります。ぜひ何度も音読して、清少納言の明るく知的な「をかし」の眼を味わってください。

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