さらぬ別れの定期テスト対策問題です。本文を読み、設問に答えてみましょう。問題用紙で解きたい人は下のPDFをどうぞ。解答は記事末尾で確認できます。
本文
むかし、男ありけり。身はいやし〔①〕ながら、母なむ宮なりける〔②〕。その母、長岡といふ所に住み給ひけり。子は京に宮仕へ〔③〕しければ、まうづ〔④〕としけれど、しばしばえまうでず〔⑤〕。一つ子にさへ〔⑥〕ありければ、いとかなしうし給ひけり〔⑦〕。さるに、師走ばかりに、とみのこと〔⑧〕とて御文あり。おどろきて〔⑨〕見れば、歌あり。
老いぬれば さらぬ別れ〔⑩〕の ありといへば いよいよ見まくほしき君かな〔⑪〕
かの子、いたううち泣きてよめる。
世の中に さらぬ別れの なくもがな〔⑫〕 千代もと祈る 人の子のため〔⑬〕
設問
1. 現代語訳
1. 傍線部⑤「しばしばえまうでず」を現代語訳しなさい。
2. 傍線部⑦「いとかなしうし給ひけり」を現代語訳しなさい。
3. 母の歌(傍線部⑪をふくむ歌)「老いぬれば さらぬ別れの ありといへば いよいよ見まくほしき君かな」を現代語訳しなさい。
4. 子の歌「世の中に さらぬ別れの なくもがな 千代もと祈る 人の子のため」を現代語訳しなさい。
2. 文法・敬語
5. 傍線部②「母なむ宮なりける」について、「なむ」は何か(品詞)。また、それを受けて文末が「ける」となっているのはなぜか、文法的に説明しなさい。
6. 傍線部⑤「えまうでず」の「え……ず」は、どのような意味を表すか答えなさい。
7. 傍線部⑪「見まくほしき」の「まく」は何か。文法的に説明しなさい。
8. 傍線部⑫「なくもがな」の「もがな」の文法的意味(はたらき)を答えなさい。
3. 語句
9. 傍線部①「いやし」、傍線部⑩「さらぬ別れ」の、ここでの意味をそれぞれ答えなさい。
10. 傍線部⑥「一つ子にさへ」の「さへ」の意味を答えなさい。
11. 傍線部⑧「とみのこと」の意味を答えなさい。
4. 内容理解
12. 傍線部②「宮」とは、ここでは具体的にどのような人を指すか答えなさい。また、それによってこの「男」がどのような身の上であることがわかるか、簡潔に説明しなさい。
13. 傍線部⑬「人の子」とは、だれを指すか。歌の内容をふまえて答えなさい。
14. 母の歌と子の歌は、ともに「さらぬ別れ」を詠んでいるが、両者にこめられた心情はどのように違うか。説明しなさい。
5. 文学史
15. 『伊勢物語』のように、和歌を中心にすえて、その歌が詠まれた事情を物語る形式の作品を何というか答えなさい。また、『伊勢物語』の主人公とされる実在の歌人の名を答えなさい。
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解答・解説
1. 現代語訳
1. たびたび(母のもとへ)参上することができない。 「しばしば」は「たびたび・何度も」。「え……ず」は不可能を表し、「え参で(まうで)ず」で「参上することができない」。「まうづ」は「参上する」(行くの謙譲語)で、ここは身分の高い母のもとへ訪れることをいう。
2. たいそういとおしくお思いになって(かわいがって)いらっしゃった。 「かなしうす」は「かなしくす」のウ音便で、「かわいがる・いとおしむ」の意。古文の「かなし」は「いとおしい・かわいい」で、「悲しい」ではない点に注意。「給ふ」は尊敬の補助動詞で、母に対する敬意を表す。
3. (私も)年をとってしまったので、避けることのできない別れ(=死別)があるというから、ますます会いたいと思うあなたですよ。 「老いぬれば」は「老ゆ+ぬ(完了)+ば(已然形+ば=順接確定条件)」で「年をとってしまったので」。「見まくほし」は「会いたい」、「君」は子(男)を指す。死期が近づくほど、いっそう子に会いたいという母の歌。
4. この世の中に、避けることのできない別れ(=死別)などなければよいのになあ。(親に)千年も生きてほしいと祈る、子のために。 「なくもがな」は「なくあってほしい→なければよいのに」という願望。「千代もと祈る」は「千年も(生きてほしい)と祈る」。死別がなければよい、親に長生きしてほしいと願う、子の返歌。
2. 文法・敬語
5. 「なむ」は係助詞(強意)。係助詞「なむ」を受けて、係り結びの法則により文末が連体形「ける」になっている。 「母なむ宮なりける」は「母は(ほかでもなく)皇女であった」と強調する言い方。係助詞「なむ」は連体形で結ぶので、過去の助動詞「けり」が連体形「ける」となっている。
6. 不可能(~することができない)の意味。 副詞「え」は、下に打消の語(ず・じ・で など)を伴って「~できない」という不可能の意を表す。「えまうでず」=「参上することができない」。
7. 「まく」は、推量の助動詞「む」のク語法(「む」+接尾語「く」)で、「~(し)ようとすること」「~(する)こと」を名詞化したもの。 「見まくほし」は「見ること+ほし(希望)」=「見たい・会いたい」。ク語法はほかに「言はく」「思はく」などがある。
8. 「もがな」は願望を表す終助詞で、「~があればよいのに・~であってほしい」の意。 「なくもがな」は形容詞「なし」の連用形「なく」+「もがな」で「(さらぬ別れが)なければよいのになあ」。実現しにくい事柄への願望をこめる。
3. 語句
9. 「いやし」=(身分が)低い・卑しい。「さらぬ別れ」=避けることのできない別れ。=死別のこと。 「身はいやしながら」は「(男自身の)身分は低いけれども」。「さらぬ」は「避ら(さら)ぬ」で「避けられない」、「さらぬ別れ」は死別の婉曲表現。
10. 「さへ」=(添加)~までも。 「一つ子にさへありければ」で「(その上)一人っ子でさえあったので」。母の愛情が深い理由として、一人っ子であることが付け加えられている。
11. 「とみのこと」=急な用事・急ぎの用件。 「とみ」は「頓(とみ)」で「急なこと」。「とみのこととて御文あり」は「急ぎの用事だといって、お手紙がある」。
4. 内容理解
12. 「宮」は皇女(天皇の娘)を指す。母が皇女である一方、本文冒頭で男自身の「身はいやし(身分は低い)」とあることから、この男は、母方は高貴な血筋でありながら、自身の身分は低いという境遇であることがわかる。 父方の血筋によって本人の身分は高くなく、母だけが皇女という設定。『伊勢物語』では主人公を在原業平に擬し、母を伊都(いと)内親王とする説がある。
13. 「人の子」は、この歌を詠んだ子自身(男=子)を指す。 「千代もと祈る人の子のため」=「親に千年も生きてほしいと祈る、子であるこの私のために」。親の長寿を願う子(人の子)の立場から詠んでいる。
14. 母の歌は、自分が老いて死別の時が近づいたからこそ、いっそう子に会いたいという、わが子への思慕の情を詠む。一方、子の歌は、その死別などこの世になければよい、親には千年も生きてほしいと、親の長寿を願う情を詠む。母は「会いたい」と自らの願いを述べ、子は「別れが来ないでほしい・長生きしてほしい」と相手(親)の無事を願っており、同じ「さらぬ別れ」をめぐりながら、向き合う相手への深い愛情が互いに詠み交わされている。 母=死を前にして子に会いたいという思い、子=親の死別を否定し長寿を祈る思い。立場は違っても、たがいを思いやる親子の情愛で響き合っている。
5. 文学史
15. 歌物語。主人公とされる実在の歌人=在原業平。 『伊勢物語』は平安時代前期に成立した歌物語で、和歌を中心に「むかし、男ありけり」と語り出される章段を連ねる。主人公の「男」は六歌仙の一人・在原業平に擬せられている。同種の歌物語に『大和物語』『平中物語』がある。


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