1. はじめに ― 「画竜点睛」とは
「がりょうてんせい」と読みます。最後の大切な仕上げのたとえで、ふつう「画竜点睛を欠く」(肝心の仕上げが足りない)の形で使われます。出典は唐の張彦遠『歴代名画記』。南朝梁の絵師・張僧繇(ちょうそうよう)が寺の壁に描いた竜の伝説です。
2. 白文・訓読文(核心部分)
金陵安楽寺四白竜、不点眼睛。毎云、「点睛即飛去。」人以為妄誕、固請点之。須臾雷電破壁、両竜乗雲騰去上天。二竜未点眼者見在。
3. 書き下し文
金陵の安楽寺の四白竜は、眼睛を点ぜず。毎に云ふ、「睛を点ぜば即ち飛び去らん。」と。人以て妄誕と為し、固く之を点ぜんことを請ふ。須臾にして雷電壁を破り、両竜雲に乗り、騰去して天に上る。二竜の未だ眼を点ぜざる者は、見在す。
4. 現代語訳
金陵(今の南京)の安楽寺に描かれた四匹の白い竜は、ひとみが描き入れられていなかった。(張僧繇は)いつも「ひとみを描き入れたら、たちまち飛び去ってしまうだろう」と言っていた。人々はでたらめだと思い、ぜひ描き入れてほしいと強く求めた。(描き入れると)たちまち雷鳴と稲妻が壁を破り、二匹の竜は雲に乗って天に昇っていった。ひとみを描き入れなかった二匹の竜は、今も残っている。
5. 句法・重要語のポイント
①「不レ点」——否定「ず」。「点ぜず」=描き入れない。
②「点ぜば即ち飛び去らん」——未然形+「ば」の仮定条件+「即ち」(すぐに)+推量「ん」。「もし描けば、すぐ飛び去るだろう」。
③「以為(おもへらく/以て〜と為す)」——「〜だと思う」。「妄誕(でたらめ)と為し」。
④「須臾(しゅゆ)」——「ほんの少しの間・たちまち」。頻出の重要語です。
⑤「未レ点」——再読文字「未」。「いまダ〜ず」と二度読み、「まだ〜していない」。この話のオチを支える句法です。
6. 故事の意味と現代での使い方
ひとみ(睛)を点じた竜だけが天に昇った——つまり最後のひと筆が作品に命を吹き込む、という話です。そこから「物事を完成させる最後の大切な仕上げ」を「点睛」と呼びます。
例文①:素晴らしい演奏だったが、最後の一音のミスが画竜点睛を欠いた。
例文②:このレポートは結論が弱く、画竜点睛を欠くのが惜しい。
確認クイズ(3問)
Q1. 「未点眼者」の「未」の読み方は?
ア いまダ〜ず(再読文字) イ つひニ ウ すなはチ
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正解:ア 解説:再読文字「未」。「未だ眼を点ぜざる者」と二度読みます。
Q2. ひとみを描き入れた竜はどうなった?
ア 壁から消えた イ 雲に乗って天に昇った ウ 池に飛び込んだ
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正解:イ 解説:雷電が壁を破り、二匹の竜は雲に乗って昇天しました。
Q3. 「画竜点睛を欠く」の意味として正しいものは?
ア 最後の仕上げが足りない イ 出だしでつまずく ウ 念には念を入れる
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正解:ア 解説:肝心の最後のひと筆=仕上げが欠けている、という意味で使います。
7. 出典『歴代名画記』をもっと知ろう
この故事が伝わるもとになった書物は、唐の時代に張彦遠(ちょうげんえん)が著した『歴代名画記(れきだいめいがき)』です。中国の古い絵画の歴史や、画家たちの逸話を集めた本で、絵画史の名著として知られています。「画竜点睛」の話も、この本に記された数多くのエピソードの一つです。
主人公の張僧繇(ちょうそうよう)は、南朝の梁(りょう)という国に仕えた、たいへん腕のよい絵師でした。とくに人物や仏画、竜などを描くのが得意だったと伝えられています。「竜を描いてひとみを入れたら飛んで行ってしまった」という、いかにも伝説らしい話が生まれたのも、彼の絵がそれほど生き生きとしていた、という評判があったからこそでしょう。物語そのものは事実かどうか分かりませんが、「優れた仕上げが作品に命を与える」という教えとして長く語り継がれてきました。
舞台となった金陵(きんりょう)は、今の中国・南京(ナンキン)のことです。古くから都が置かれた由緒ある土地で、安楽寺もこの地にあった寺とされています。地名や時代背景まで押さえておくと、本文の読み取りがぐっと楽になります。
8. 一文ずつ、ていねいに読む
本文は短いですが、一文ずつ区切って読むと流れがよく分かります。原文(白文)・書き下し文・現代語訳をセットで確認しましょう。
第一文
原文:金陵安楽寺四白竜、不点眼睛。
書き下し:金陵の安楽寺の四白竜は、眼睛を点ぜず。
現代語訳:金陵の安楽寺に描かれた四匹の白い竜は、ひとみが描き入れられていなかった。
第二文
原文:毎云、「点睛即飛去。」
書き下し:毎に云ふ、「睛を点ぜば即ち飛び去らん。」と。
現代語訳:(張僧繇は)いつも「ひとみを描き入れたら、すぐに飛び去ってしまうだろう」と言っていた。
第三文
原文:人以為妄誕、固請点之。
書き下し:人以て妄誕と為し、固く之を点ぜんことを請ふ。
現代語訳:人々はでたらめだと思い、ぜひ(ひとみを)描き入れてほしいと強く求めた。
第四文
原文:須臾雷電破壁、両竜乗雲騰去上天。
書き下し:須臾にして雷電壁を破り、両竜雲に乗り、騰去して天に上る。
現代語訳:たちまち雷鳴と稲妻が壁を破り、二匹の竜は雲に乗り、勢いよく天へ昇っていった。
第五文
原文:二竜未点眼者見在。
書き下し:二竜の未だ眼を点ぜざる者は、見在す。
現代語訳:ひとみを描き入れなかった二匹の竜は、今も(壁に)残っている。
「ひとみを入れた竜は飛び去り、入れなかった竜は残った」という対比が、この話のいちばんの読みどころです。最後の第五文の「未(いまだ〜ず)」がオチを決めているので、ここを訳しそこねないようにしましょう。
9. 重要語句の整理
テストでよく問われる語を、読みと意味でまとめておきます。
- 点睛(てんせい)……ひとみ(睛)を描き入れること。「点」は「ちょんと打つ・描き入れる」、「睛」は「ひとみ・黒目」を指します。
- 毎(つねに)……「いつも・そのたびに」。書き下しでは「毎に」と読みます。
- 妄誕(もうたん)……でたらめ。根拠のないうそ。「妄」も「誕」も「いつわり」の意味です。
- 固(かたく)……強く・しきりに。「固く請ふ」で「強く求める」。
- 須臾(しゅゆ)……ほんの少しの間。「たちまち・すぐに」と訳すことが多い頻出語です。
- 騰去(とうきょ)……勢いよく舞い上がって去ること。「騰」は「上がる・はね上がる」。
- 見在(けんざい)……今も現に存在すること。「見」はここでは「現」と同じ意味で使われ(現に・今もなお)、「現在もある」の意味になります。
10. つまずきやすいポイントと入試での問われ方
短い文章ですが、テストでねらわれる「落とし穴」がいくつかあります。あらかじめ知っておけば、確実に得点できます。
- 再読文字「未」の処理……「未点眼者」を「いまだ眼を点ぜざる者」と二度読みできるかが最大のポイント。一度しか読まない、送り仮名を付け忘れる、というミスが多発します。書き下し問題で頻出です。
- 「点睛即飛去」の仮定……「点ぜば」と未然形+「ば」で「もし〜ならば」という仮定の意味になります。「点じて(〜して)」と確定の訳にしないよう注意しましょう。
- 「以為」の読み……「以て〜と為す(おもへらく)」で「〜だと思う・みなす」。返り点と送り仮名をつける問題で問われます。
- 「見在」の「見」……「見在(けんざい)」は「みる」という意味ではなく、「見」が「現」と同じはたらきをして「今も存在する・現にある」の意味になります。知らないと誤訳しやすい箇所です。
- 慣用句の意味……「画竜点睛を欠く」の意味(最後の大切な仕上げが足りない)を選ぶ問題は、現代文・漢文の両方で出ます。「出だしの失敗」などと取り違えないように。
11. ミニ練習問題(解答つき)
本文の理解を確かめましょう。まず自分で考えてから、解答を読んでください。
- 「四白竜」とは、何が四匹いたということですか。やさしく説明しなさい。
- 「点睛即飛去」を現代語訳しなさい。
- ひとみを描き入れた竜が二匹だけだったのはなぜですか。本文に即して答えなさい。
- 「画竜点睛を欠く」を使った短い文を一つ作りなさい。
【解答】
- 安楽寺の壁に描かれた、白い竜の絵が四匹いたということ。(実際の竜ではなく「絵」である点がポイント)
- 「ひとみを描き入れたら、すぐに飛び去ってしまうだろう。」(「即」=すぐに、「飛去」=飛び去る、を訳に出す)
- 人々の求めに応じてひとみを描き入れた二匹は天に昇ってしまい、描き入れなかった残りの二匹だけが壁に残ったから。
- (例)この作品は構成は見事だが、結末が物足りず、画竜点睛を欠いている。
12. よくある質問(Q&A)
Q. 「画竜点睛」と「画竜点睛を欠く」はどう違うのですか。
A. 「画竜点睛」はもともと「最後の大切な仕上げ」というよい意味の言葉です。一方、日常では「画竜点睛を欠く」(その仕上げが足りない=惜しい)という形で使うことがほとんどです。テストでも「欠く」の形で意味を問われることが多いので、セットで覚えましょう。
Q. 「がりゅうてんせい」と読んでも正しいですか。
A. 一般的な読みは「がりょうてんせい」です。「竜」を「りゅう」と読んで「がりゅう…」とする人もいますが、辞書の見出しとしては「がりょうてんせい」が標準とされています。テストでは「がりょうてんせい」と答えるのが安全です。
Q. なぜ「ひとみを入れると飛んで行く」という話になっているのですか。
A. ひとみ(黒目)は、絵に生命感を与える最後の一点だからです。目が描き込まれて初めて竜が「生きた」ように見える――その仕上げの大切さを、竜が飛び立つという劇的な形で表したのがこの物語です。だからこそ「点睛」が「命を吹き込む最後のひと筆」の意味になりました。
13. まとめ
「画竜点睛」は、唐の張彦遠『歴代名画記』に伝わる、絵師・張僧繇の竜の物語からできた言葉です。ひとみを描き入れた竜だけが天に昇ったことから、物事を完成させる最後の大切な仕上げを意味します。日常では「画竜点睛を欠く(仕上げが足りなくて惜しい)」の形でよく使われます。
漢文としての学習ポイントは、第一に再読文字「未(いまだ〜ず)」、第二に未然形+「ば」の仮定(点ぜば=もし描けば)、第三に「以為(〜と思う)」「須臾(たちまち)」「見在(今も存在する)」などの重要語です。この三つを押さえれば、書き下しも現代語訳も自信を持って答えられます。最後に確認テストで仕上げの「点睛」をしておきましょう。
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