1. はじめに ― 「江雪」とは
『江雪(こうせつ)』は、唐の詩人・柳宗元(りゅうそうげん)(七七三〜八一九)が詠んだ漢詩です。雪に閉ざされて鳥も人影も絶えた静寂の中、たった一人で釣り糸を垂れる漁翁(老人)の姿を、わずか二十字で鮮やかに切り取った名詩です。政治的に不遇であった柳宗元自身の、世間から隔絶されてもなお屈しない心境が重ねられているとも読まれます。
2. 白文
江雪 柳宗元
千山鳥飛絶
万径人蹤滅
孤舟蓑笠翁
独釣寒江雪
3. 書き下し文
千山(せんざん)鳥(とり)飛ぶこと絶(た)え
万径(ばんけい)人蹤(じんしょう)滅(めっ)す
孤舟(こしゅう)蓑笠(さりふ)の翁(おきな)
独(ひと)り釣(つ)る寒江(かんこう)の雪
4. 現代語訳
多くの山々には、鳥の飛ぶ姿もすっかり絶えてしまい、
無数の小道からは、人の足跡も消えてなくなってしまった。
ぽつんと浮かぶ一艘の小舟に、蓑(みの)と笠(かさ)を身につけた老人がいて、
雪の降る寒々とした川で、その老人がたった一人、釣り糸を垂れている。
おさえておきたい語句
| 語句 | 意味 |
| 千山 | 数えきれないほど多くの山々。「千」は具体的な数ではなく「非常に多い」意 |
| 万径 | 無数の小道。「径」は細い道 |
| 人蹤 | 人の足跡。「蹤」は「踪」とも書く |
| 蓑笠 | みのとかさ。雨や雪をしのぐ装い |
| 寒江 | 冷えきった川 |

5. 詩のきまり(詩型・押韻・対句)
詩型 ― 五言絶句
一句が五字(漢字五文字)で、全体が四句から成る詩なので五言絶句です。一句の字数が五字=「五言」、句の数が四句=「絶句」と覚えましょう。
押韻 ― 絶・滅・雪
押韻している字は「絶」「滅」「雪」の三字です。五言絶句では、ふつう偶数句の末字(第二句末と第四句末)で韻を踏み、第一句末は踏まないのが原則です。ところが『江雪』では、第二句末「滅」・第四句末「雪」に加えて第一句末「絶」でも韻を踏んでおり、第一・二・四句の句末すべてで押韻している点が特徴です。
対句 ― 第一句と第二句
第一句「千山鳥飛絶」と第二句「万径人蹤滅」は、語の構成や意味の上で互いに対応する対句(ついく)になっています。「千山」⇔「万径」、「鳥飛」⇔「人蹤」、「絶」⇔「滅」が、それぞれきれいに対応しています。
各句の頭の字 ― 「千万孤独」
各句の頭の字を上から順に並べると「千・万・孤・独」。「千万孤独(この上ない孤独)」という言葉が読み取れるとも言われ、詩全体にただよう孤独感と響き合っています。
6. 鑑賞のポイント
広い遠景から、一点の人物へ
前半二句(第一・二句)は、鳥も人も絶えた、生き物の気配のない広大な雪景色(背景となる世界全体)をえがいています。後半二句(第三・四句)は、その中にぽつんといる蓑笠の老人が独り釣りをする姿(一点の人物)をえがきます。広い遠景から一点の人物へと、焦点が絞られていく構成です。
静寂の世界
鳥の姿も人の足跡も消え、物音ひとつしない雪の世界が広がる、一面の静寂に包まれた情景です。その静寂を破るものは何もなく、ただ一人の漁翁の姿だけが置かれています。
「孤高」の人物像
鳥も人も絶えた極寒の世界に動じることなく、たった一人で静かに釣りを続ける漁翁の姿には、世間から隔絶されてもなお信念を曲げず超然としている、孤高で気高い人物像が表現されています。そこに、政治的に不遇だった作者自身の心境が重ねられていると読まれます。「独釣」の「独」の一字が、極限の孤独・静寂と、その中でも平然と釣りを続ける超然とした姿を際立たせています。
「動」の詩との対比・作者について
同じ唐代の王之渙(おうしかん)の五言絶句「登鸛鵲楼(とうかんじゃくろう)」が、太陽が山に沈み、黄河が海へ流れこむ雄大な「動」の世界をえがくのに対し、『江雪』は動きの乏しい「静」の世界をえがいており、対照的な詩としてよく比べられます。また柳宗元は、同じ唐代の文章家・韓愈(かんゆ)とともに古文復興(古文運動)を唱えたことで知られ、二人あわせて「韓柳(かんりゅう)」とよばれます。
確認クイズ(3問)
Q1. 『江雪』で押韻している字の組み合わせはどれ?
ア 絶・滅・雪 イ 山・径・舟 ウ 翁・雪・江
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正解:ア 解説:第一句末「絶」・第二句末「滅」・第四句末「雪」の三字で韻を踏んでいます。原則(第二・四句末)より一か所多く、第一句末でも押韻している点が特徴です。
Q2. 第一句「千山鳥飛絶」と第二句「万径人蹤滅」のように、語の構成や意味が対応する二句の関係を何という?
ア 押韻 イ 対句 ウ 起承転結
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正解:イ 解説:「千山」⇔「万径」、「鳥飛」⇔「人蹤」、「絶」⇔「滅」が対応する対句です。
Q3. 各句の頭の字を上から順に並べたものはどれ?
ア 千・万・舟・釣 イ 山・径・蓑・寒 ウ 千・万・孤・独
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正解:ウ 解説:「千山」「万径」「孤舟」「独釣」の頭の字で「千・万・孤・独」。「千万孤独」と読み取れるとも言われます。
まとめ
・『江雪』は唐の柳宗元の五言絶句。柳宗元は韓愈とともに「韓柳」と並称される。
・押韻は「絶」「滅」「雪」。原則の第二・四句末に加え、第一句末でも韻を踏む。
・第一句と第二句は対句(千山⇔万径、鳥飛⇔人蹤、絶⇔滅)。
・各句の頭の字は「千・万・孤・独」=「千万孤独」と読めるとも言われる。
・静寂の雪景色の中で独り釣る漁翁に、孤高で動じない心境(作者自身の姿)が重ねられている。


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