
1. はじめに ― 「序段(つれづれなるままに)」ってどんな場面?
『徒然草(つれづれぐさ)』は、鎌倉時代の末期に兼好法師(吉田兼好)が書いたとされる随筆です。随筆とは、見聞きしたことや感じたことを、筆の進むままに自由につづった文章のことです。
その『徒然草』のいちばん最初に置かれた短い文章が、この「序段」です。わずか一文ですが、「自分はなぜ、どんなふうにこの本を書いているのか」という動機が語られた、作品全体の入り口にあたる部分です。暗誦(あんしょう=そらで言えるようにすること)の課題になることも多い、定期テスト超頻出の箇所です。
2. 原文
つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
3. 現代語訳(やさしい言葉で)

することもなく退屈なのにまかせて、一日中、硯(すずり)に向かって、心に次々と浮かんでは消えていくとりとめのないことを、これというあてもなく書きつけていると、(自分でも)妙に、気が変になりそうな心地がすることだ。
「いつ(一日中)」「何をして(硯に向かって書きつけて)」「どう感じたか(妙に気が変になりそうだ)」という流れを、原文と一語ずつ対応させながら覚えると、現代語訳の問題に強くなります。
4. 重要語句・文法のポイント

覚えておきたい語句
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| つれづれなり | することがなく退屈だ・手持ちぶさただ |
| 日暮らし | 朝から晩まで・一日中 |
| 硯(すずり) | 墨をする道具 |
| よしなしごと | とりとめのないこと。「由(よし)=わけ・筋道」が「なし」+「事」という成り立ち |
| そこはかとなし | これというあてもない・とりとめもない |
| あやし | 妙だ・不思議だ |
| ものぐるほし | 気が変になりそうだ・狂おしいほどだ |
文法・表現のポイント
① 「こそ〜已然形」の係り結び 「あやしうこそものぐるほしけれ」は、係助詞「こそ」を受けて、文末がシク活用形容詞「ものぐるほし」の已然形「ものぐるほしけれ」で結ばれています。意味を強調する働きで、この序段で最大のテストポイントです。
② 已然形+「ば」(順接の確定条件) 「書きつくれば」は、「書きつく」の已然形「書きつくれ」+「ば」で、「書きつけていると」という意味です。未然形+「ば」(もし〜なら)との区別がよく問われます。
③ ウ音便 「あやしう」は、形容詞「あやし」の連用形「あやしく」の「く」が「う」に変わったウ音便です。意味は「妙に・不思議に」。
④ 「つれづれなるままに」の「なる」 形容動詞「つれづれなり」(ナリ活用)の連体形です。「つれづれなり」は「することがなく退屈だ」の意味で、「なる」はその連体形の語尾にあたります。続く「ままに」は「〜にまかせて・〜のままに」の意味で、全体で「退屈なのにまかせて」となります。
5. 主題・あらすじ・背景

あらすじ(この一文が言っていること)
退屈にまかせて一日中机に向かい、心に浮かぶとりとめのないことをあてもなく書きつけていると、自分でも不思議なくらい、気が変になりそうな心地がしてくる――。『徒然草』という本を書き始めたきっかけそのものを語った一文です。
主題
「書くこと」に夢中になっていくときの、不思議で高ぶった心の状態が主題です。結びの「ものぐるほしけれ」という強い言葉に、書くことに没頭していく作者の心が表れています。
背景 ― 書名の由来と文学史
書名『徒然草』は、書き出しの「つれづれ」から取られたと考えられています。作者の兼好法師は出家した人物なので「法師」と呼ばれます。清少納言『枕草子』・鴨長明『方丈記』と合わせて「三大随筆」と総称され、『徒然草』はその中でいちばん新しい作品です。作者・ジャンル(随筆)・時代(鎌倉時代末期)・三大随筆は、文学史問題の定番としてセットで覚えましょう。
確認クイズ(3問)
Q1. 「つれづれなるままに」の意味として最も適切なものはどれ?
ア することもなく退屈なのにまかせて イ 友人と連れだって歩きながら ウ 悲しい気持ちをこらえて
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正解:ア 解説:「つれづれ」は「することがなく退屈なさま・所在なさ」のこと。「なるままに」で「〜であるのにまかせて」となります。
Q2. 「あやしうこそものぐるほしけれ」の「ものぐるほしけれ」の活用形はどれ?
ア 終止形 イ 已然形 ウ 連体形
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正解:イ 解説:係助詞「こそ」の結びなので已然形になります。「こそ」がなければ、終止形「ものぐるほし」で終わるところです。
Q3. 『徒然草』の作者は誰?
ア 鴨長明 イ 清少納言 ウ 兼好法師
答えを見る
正解:ウ 解説:『徒然草』の作者は兼好法師(吉田兼好)です。アの鴨長明は『方丈記』、イの清少納言は『枕草子』の作者です。
6. 一語ずつ対応させる「逐語訳」トレーニング
序段はわずか一文ですが、現代語訳の問題では「どの古語がどの訳語になるか」を一語ずつ問われます。原文と訳を区切りごとに並べてみると、対応関係がはっきり見えてきます。次の表で、左の原文を右の訳とぴったり重ねながら声に出して読むと、暗記がぐっと楽になります。
- つれづれなるままに → することもなく退屈なのにまかせて
- 日暮らし → 朝から晩まで、一日中
- 硯に向かひて → 硯(すずり)に向かって
- 心にうつりゆく → 心に次々と浮かんでは消えていく
- よしなしごとを → とりとめのないことを
- そこはかとなく → これというあてもなく、とりとめもなく
- 書きつくれば → 書きつけていると
- あやしう → 妙に、不思議なほど
- こそ〜ものぐるほしけれ → (強調して)気が変になりそうな心地がすることだ
こうして区切ると、「一日中・机に向かって・心に浮かぶことを・あてもなく書いていたら・変な心地になった」という、たった一つの心の動きを順番に述べただけの文だと分かります。長く見える一文も、区切れば怖くありません。
7. もう一歩くわしい文法解説
「ものぐるほし」はシク活用の形容詞
結びの「ものぐるほし」は、シク活用の形容詞です。シク活用の已然形は「〜しけれ」の形になります。だから「こそ」を受けた結びが「ものぐるほしけれ」となるのです。もし「こそ」がなければ、文は終止形「ものぐるほし」で終わります。「こそ」があるかないかで文末の形が変わる、という点が係り結びの核心です。
「あやしう」は連用形+ウ音便
「あやしう」はもともと形容詞「あやし」の連用形「あやしく」です。その「く」が発音しやすいように「う」へ変わったものをウ音便といいます。「あやしく」→「あやしう」と頭の中で戻せると、品詞分解の問題で迷いません。ここでは続く「ものぐるほしけれ」を修飾し、「妙に(気が変になりそうだ)」という意味になります。
「うつりゆく」の連体修飾
「心にうつりゆくよしなしごと」の「うつりゆく」は、後ろの名詞「よしなしごと」をくわしく説明している連体修飾の形です。「心に次々と移り変わっていく、とりとめのないこと」とまとめて訳します。「うつる」は今の「映る」ではなく、「移る=次々に移り変わる」の意味でとらえるのがポイントです。
「に」の見分け方
「硯に向かひて」「心にうつりゆく」の「に」は、どちらも場所や方向を示す格助詞です。一方、「つれづれなるままに」の「なる」は、形容動詞「つれづれなり」(ナリ活用)の連体形の語尾であって、助詞の「に」とは別物です。さらに「ままに」の「に」は格助詞で、これとも区別します。同じ音でも働きが違うので、文の中での役割で見分けましょう。
8. つまずきやすいポイントと入試での問われ方
- 「あやし」を「あやしい=怪しい」と訳してしまう……古文の「あやし」は「妙だ・不思議だ」が基本。ここでは「(自分でも)妙に」の意味で、犯人を疑うような「怪しい」ではありません。
- 「ものぐるほし」を「物狂い=狂人」と訳してしまう……「気が変になりそうだ・狂おしいほどだ」という心の高ぶりを表す形容詞で、人を指す名詞ではありません。
- 「書きつくれば」を「もし書いたら」と訳してしまう……これは已然形+「ば」なので「書きつけていると(順接の確定条件)」。未然形+「ば」(もし〜なら、という仮定)と混同しないよう注意します。
- 係り結びの結びを見落とす……「こそ」を見つけたら、文末が已然形になっているか必ず確認します。「ものぐるほしけれ」が已然形だと答えられるかがテストの分かれ目です。
定期テストや入試では、(1)「つれづれ」「よしなしごと」「あやし」「ものぐるほし」の語句の意味、(2)「こそ〜けれ」の係り結びの説明、(3)「書きつくれば」の文法(已然形+ば=確定条件)、(4)書名『徒然草』の由来、(5)作者・ジャンル・三大随筆といった文学史、の五つがくり返し問われます。逆に言えば、この五つを押さえれば序段の問題はほぼ取りきれます。
9. ミニ練習問題(解答つき)
問1 傍線部「よしなしごと」を現代語に訳しなさい。
問2 「あやしうこそものぐるほしけれ」には係り結びが使われている。係りの助詞と、結びの語(そのままの形で)を抜き出しなさい。
問3 「書きつくれば」の「ば」は、ここでは「もし〜なら」と「〜すると」のどちらの意味か答えなさい。
問4 書名『徒然草』は、本文中のどの言葉に由来すると考えられているか、本文から抜き出しなさい。
〔解答〕
- とりとめのないこと(つまらない、たわいもないこと)。
- 係りの助詞=こそ/結びの語=ものぐるほしけれ(已然形)。
- 「〜すると(〜していると)」。已然形+「ば」なので、順接の確定条件を表す。
- つれづれ(「つれづれなるままに」の「つれづれ」)。
10. よくある質問(Q&A)
Q. 「序段」と「第一段」は同じものですか?
A. 本によって呼び方が分かれますが、この「つれづれなるままに…」の一文を、多くの教科書では「序段(じょだん)」と呼んで、本編の各段と区別しています。作品全体の前書きにあたる部分、というイメージでとらえれば大丈夫です。
Q. 「つれづれ」は「ひまでつまらない」という悪い意味ですか?
A. 「することがなく手持ちぶさただ」という状態を表す言葉で、それ自体に良い悪いの判断はありません。ここではむしろ、その静かな時間が「書く」という行いにつながっていく、落ち着いたひとときとして描かれています。
Q. 「ものぐるほしけれ」はマイナスの気持ちですか?
A. 「気が変になりそうだ」という強い言葉ですが、ここでは苦しさというより、書くことに夢中になって心が高ぶっていくさまを表しています。「われを忘れるほど熱中している」という前向きな興奮として読むのが自然です。
Q. 全部暗記しないとダメですか?
A. 序段は短く、暗誦の課題にもよく出ます。原文・現代語訳・重要語句・係り結びの四点を結びつけて覚えれば、テストのどの問われ方にも対応できます。丸暗記よりも「意味と文法をセットで」覚えるのがおすすめです。
まとめ
・序段は、『徒然草』を書く動機を語った一文。
・「つれづれ」=することがなく退屈なさま。書名の由来にもなった最重要語。
・「こそ〜已然形(ものぐるほしけれ)」の係り結びが最頻出ポイント。
・「書きつくれば」は已然形+「ば」で「書きつけていると」(順接の確定条件)。
・作者は兼好法師。ジャンルは随筆で、『枕草子』『方丈記』と合わせて三大随筆。
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