1. はじめに ― 「うつくしきもの」ってどんな場面?
「うつくしきもの」は、清少納言(せいしょうなごん)が随筆『枕草子』の中で、自分が「かわいい」と感じる小さなものを次々に書き並べた章段です。瓜に描いた子どもの顔、ねずみの鳴きまねに寄ってくる雀の子……と、まるで千年前の「かわいいもの図鑑」のような一段です。
最大のポイントは、古語「うつくし」が現代語の「美しい」ではなく「かわいい」という意味であること。定期テストでも入試でもくり返し問われる最重要語です。
2. 原文
うつくしきもの。瓜にかきたるちごの顔。雀の子の、ねず鳴きするにをどり来る。二つ三つばかりなるちごの、いそぎてはひ来る道に、いとちひさき塵のありけるを目ざとに見つけて、いとをかしげなるおよびにとらへて、大人などに見せたる、いとうつくし。頭はあまそぎなるちごの、目に髪のおほへるをかきはやらで、うちかたぶきて物など見たるも、うつくし。
3. 現代語訳(やさしい言葉で)
うつくしきもの。瓜にかきたるちごの顔。
→ かわいらしいもの。瓜に描いた、幼い子どもの顔。
雀の子の、ねず鳴きするにをどり来る。
→ 雀の子が、(人が)ねずみの鳴きまねをすると、飛びはねるようにしてやって来る(様子)。
二つ三つばかりなるちごの、いそぎてはひ来る道に、いとちひさき塵のありけるを目ざとに見つけて、いとをかしげなるおよびにとらへて、大人などに見せたる、いとうつくし。
→ 二、三歳ぐらいの幼い子どもが、急いではってくる途中で、とても小さなごみがあったのをすばやく見つけて、とてもかわいらしい指でつまんで、大人などに見せた(そのしぐさ)は、とてもかわいい。
頭はあまそぎなるちごの、目に髪のおほへるをかきはやらで、うちかたぶきて物など見たるも、うつくし。
→ 髪を肩のあたりで切りそろえた幼い子どもが、目に髪がかぶさっているのをかき払いもしないで、首をちょっとかたむけて物などを見ているのも、かわいい。
4. 重要語句・文法のポイント
覚えておきたい語句
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| うつくし | かわいい・愛らしい(現代語の「美しい」ではない) |
| ちご | 幼い子ども・赤ん坊 |
| ねず鳴き | ねずみの鳴き声に似せて口を鳴らすこと |
| ばかり | 〜ぐらい(おおよその程度を表す) |
| 目ざとし | すばやく見つける・目が早い |
| をかしげなり | いかにもかわいらしい様子だ |
| および | 指 |
| あまそぎ | 肩のあたりで切りそろえた子どもの髪型 |
文法・表現のポイント
① 「ありけるを」の「ける」=過去の助動詞「けり」の連体形 「小さなごみがあったのを」の意味です。下の「を」に続くため、終止形「けり」ではなく連体形「ける」になっています。
② 「見せたる」の「たる」=完了の助動詞「たり」の連体形 「(大人などに)見せた(その様子)」。動作が完了して、その状態が続いていることを表します。
③ 「かきはやらで」の「で」=打消の接続(〜ないで) 「かき払わないで」の意味です。「で」を「〜ないで」と訳せるかは、頻出のポイントです。
④ 「いと」=とても 程度のはなはだしさを表す副詞です。下に打消の語を伴って「いと〜ず」となると、「たいして〜ない」の意味に変わる点もあわせて覚えましょう。
5. 主題・あらすじ・背景
あらすじ(この章段の内容)
清少納言が「かわいい」と感じるものを順に挙げています。①瓜に描いた幼い子どもの顔、②ねずみの鳴きまねに飛びはねて来る雀の子、③小さなごみを見つけて大人に見せる幼児、④髪が目にかかったまま首をかしげて物を見る子ども、です。
主題
挙げられているものはどれも「小さくて、幼くて、あどけない」という共通点を持っています。小さなものの一瞬のしぐさを見逃さない、清少納言の鋭い観察眼が光る章段です。
背景
『枕草子』は、平安時代中期に清少納言が書いた随筆で、日本最初の随筆とされます。章段には、「春はあけぼの」のように感想をつづる随想的章段、宮中でのできごとを記す日記的章段、そしてこの「うつくしきもの」のように同じ種類のものを集めて並べる「ものづくし」(類聚的章段)の三種類があります。この章段は「ものづくし」の代表例として、テストの文学史問題でもよく問われます。
確認クイズ(3問)
Q1. 古語「うつくし」の意味として最も適当なものはどれですか。
ア 美しい イ 立派だ ウ かわいい
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正解:ウ 解説:古語「うつくし」は「かわいい・愛らしい」の意味で、小さなもの・幼いものへのいとおしい気持ちを表します。現代語の「美しい」と意味が違う、テスト最頻出の語です。
Q2. 本文で、雀の子は(人が)どうすると飛びはねるようにやって来ますか。
ア ねずみの鳴きまねをすると イ えさをまくと ウ 手をたたくと
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正解:ア 解説:本文に「雀の子の、ねず鳴きするにをどり来る」とあります。「ねず鳴き」は、ねずみの鳴き声に似せて口を鳴らすことです。
Q3. 「いとをかしげなるおよびにとらへて」の「および」とは何のことですか。
ア 髪 イ 指 ウ ほお
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正解:イ 解説:「および」は「指」のことです。小さなごみをかわいらしい指でつまんで大人に見せる、幼児のあどけないしぐさを描いています。
6. 一文ずつ深掘り ― なぜ「かわいい」のか



ここでは本文の四つの例を一つずつ取り上げ、「なぜ清少納言はこれをかわいいと感じたのか」を、表現に注目しながら読み解きます。理由まで言葉にできると、記述問題でぐっと差がつきます。
① 瓜にかきたるちごの顔
「瓜」は当時よく食べられた野菜・果物で、その表面に幼い子ども(ちご)の顔を描いたものを指します。本物の子どもではなく、瓜に描かれた小さな顔。そのたどたどしい、あどけない表情そのものに「かわいい」と感じているのです。ものに描かれた絵にまで愛らしさを見いだすところに、清少納言の感性の細やかさがよく表れています。
② 雀の子の、ねず鳴きするにをどり来る
「ねず鳴き」は、人が口で「チュッチュッ」とねずみの鳴き声に似せた音を立てること。すると雀のひなが、その音にさそわれて飛びはねるように寄ってくる、というのです。「をどり来る」の「をどる」は「はねる・とびあがる」の意で、雀のひなが小さな体ではずむように近づく様子が目に浮かびます。小さな生きものの一生けんめいなしぐさが「かわいい」のですね。
③ 塵を見つけて大人に見せるちご
二、三歳ほどの幼児が、はって進む途中で、ごく小さなごみ(塵)を「目ざとく(=すばやく)」見つけ、かわいらしい指でつまんで大人に見せる――この一連のしぐさが、この章段のいちばんの見どころです。大人なら気にもとめない小さなごみを大発見のように得意げに見せる、そのあどけなさと得意顔に、清少納言は思わず目を細めています。観察の細かさが光る部分です。
④ 髪が目にかかったまま物を見るちご
「あまそぎ」は、肩のあたりで切りそろえた幼児の髪型。その前髪が目にかぶさっているのに、かき払いもしないで、首をちょっとかたむけて何かをじっと見ている――そのむじゃきで無防備な姿がかわいい、というのです。髪を払わないところに、まだ身づくろいを気にしない幼さがにじみ、いっそう愛らしく感じられます。
7. もう一歩くわしい語句・文法
テストで差がつく、少し細かい言葉や文法のはたらきをまとめます。
「をかしげなり」のかたち
「をかしげなり」は形容動詞(ナリ活用)で、「いかにもかわいらしい様子だ・趣がありそうだ」の意味です。「をかし」に「〜げ(〜らしい・〜そう)」がついた形で、「いとをかしげなるおよび(とてもかわいらしい指)」のように使われています。「をかし」は『枕草子』全体のキーワードで、「趣がある・すばらしい・かわいらしい」など文脈で訳し分けます。
「ねず鳴きするに」の「に」
「ねず鳴きするに」の「に」は、「〜すると・〜したところ」という意味を表します(活用語の連体形+接続助詞「に」)。「人がねずみの鳴きまねをすると、それに合わせて雀の子がやって来る」という前後のつながりを作っています。「に」を放置せず「〜すると」と訳せるかがポイントです。
「をどり来る」「はひ来る」の組み立て
「をどり来る(をどる+来)」「はひ来る(はふ=はう+来)」は、二つの動詞が結びついた複合動詞です。「をどる」「はふ」が動作のしかたを、「来」が移動の方向を表し、「はねるようにして来る」「はうようにして来る」と、しぐさを生き生きと伝えています。
言い切りの形と「体言止め」
この章段は「うつくし」「うつくし」と同じ言葉でリズムよく言い切るのが特徴です。さらに冒頭は「うつくしきもの。瓜にかきたるちごの顔。」と、名詞(体言)で文を止める体言止めが用いられています。説明を省いて短く区切ることで、テンポよく次々と「かわいいもの」が並べられ、まるでスケッチを重ねるような軽やかさが生まれています。
8. つまずきやすいポイントと入試での問われ方
つまずきやすいポイント
- 「うつくし」を「美しい」と訳してしまう……古語では「かわいい・愛らしい」。ここを誤ると章段全体の主題を取りちがえます。
- 「ちご」を「稚児(お寺の少年)」と早合点する……ここでの「ちご」は「幼い子ども・赤ん坊」。文脈で意味を判断しましょう。
- 「目ざとし」を「目障りだ」と勘ちがいする……「目ざとし」は「すばやく見つける・目が早い」というプラスの意味です。
- 「で」を見落とす……「かきはやらで」の「で」は打消で「〜ないで」。「で」を無視すると訳が逆になります。
入試・定期テストでの問われ方
- 語義……「うつくし」「をかし」「目ざとし」「ちご」「および」などの意味を選ばせる・記述させる問題。最頻出は「うつくし=かわいい」。
- 文法……傍線部「ける」「たる」「で」の文法的説明(助動詞の意味と活用形、接続助詞の意味)。
- 内容理解……「清少納言が挙げた『うつくしきもの』に共通する点を答えよ」という記述。答えは「小さくて幼く、あどけないもの」。
- 文学史……作者(清少納言)・成立時代(平安時代中期)・ジャンル(随筆)・章段の種類(ものづくし=類聚的章段)。
9. ミニ練習問題(解答つき)
本文をもう一度思い出しながら、自分の力で答えてみましょう。答えはそれぞれの下にあります。
問1 傍線部「いとちひさき塵のありけるを」の「ける」は、どの助動詞の何形ですか。文法的に説明しなさい。
解答 過去の助動詞「けり」の連体形。下に「を」が続くため、終止形「けり」ではなく連体形「ける」になっている。
問2 「かきはやらで」を現代語訳しなさい。
解答 (髪を)かき払いもしないで。※「で」は打消の接続助詞で「〜ないで」と訳す。
問3 清少納言が「うつくし」と感じたものに共通する性質を、十五字程度で答えなさい。
解答例 小さくて幼く、あどけないもの(の一瞬のしぐさ)。
問4 「をどり来る」の「をどる」の意味として最も適当なものを選びなさい。
ア おどりを舞う イ はねる・とびあがる ウ おどろく
解答 イ(はねる・とびあがる)。雀の子がはずむように近づく様子を表す。
10. よくある質問(Q&A)
Q. 「うつくし」と「をかし」はどう違うのですか。
A. 「うつくし」は小さなもの・幼いものに対する「かわいい・愛らしい」という気持ちを表します。一方「をかし」は「趣がある・すばらしい・興味深い」など、感心したり心ひかれたりする気持ち全般を表す、もっと広い言葉です。この章段では「をかしげなる(指)」のように「かわいらしい様子の」という意味で使われています。
Q. 『枕草子』と『源氏物語』はどう違うのですか。
A. 『枕草子』は清少納言が書いた随筆(自分の感想や見聞を自由につづる文章)、『源氏物語』は紫式部が書いた長編の物語(作り物語)です。どちらも平安時代中期に成立しましたが、ジャンルがまったく異なります。「随筆=枕草子・清少納言」「物語=源氏物語・紫式部」とセットで覚えておくと、文学史でまちがえません。
Q. 「ものづくし」とは何ですか。
A. 同じ種類のものを次々に書き並べる『枕草子』の章段の型です。「うつくしきもの」「にくきもの(しゃくにさわるもの)」「すさまじきもの(興ざめなもの)」などがあり、清少納言の好き・きらいや鋭い観察眼がよく表れます。「類聚的(るいじゅうてき)章段」とも呼ばれます。
Q. 「ちご」はいつも赤ちゃんの意味ですか。
A. いいえ。「ちご」は基本的に「幼い子ども・赤ん坊」を指しますが、文脈によっては寺院に仕える少年(稚児)を指すこともあります。この章段ではすべて「幼い子ども」の意味です。前後の内容から判断しましょう。
11. 学習のまとめ(おさらい)
- 章段の主役は「小さくて、幼くて、あどけないもの」。そのひとときのしぐさを清少納言が切り取っている。
- 最重要語は「うつくし=かわいい」。「美しい」と訳さない。
- 「をかし(をかしげなり)」「目ざとし」「ちご」「および(指)」「あまそぎ」「ねず鳴き」もまとめて確認。
- 文法は「ける(過去・連体形)」「たる(完了・連体形)」「で(〜ないで)」「に(〜すると)」をおさえる。
- 表現面では体言止めと「うつくし」のくり返しが生むリズムに注目。
- 文学史は「清少納言・平安中期・随筆・ものづくし(類聚的章段)」をセットで暗記。
まとめ
・「うつくし」=かわいい・愛らしい。現代語の「美しい」と混同しない。
・「ちご」「ねず鳴き」「あまそぎ」「および(指)」など、この章段ならではの語句をおさえる。
・文法は「ける」(過去・連体形)、「たる」(完了・連体形)、「で」(〜ないで)が頻出。
・挙げられたものの共通点は「小さくて幼く、あどけない」こと。
・『枕草子』は平安時代中期の随筆。この章段は「ものづくし」(類聚的章段)。

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