『伊勢物語』第六段「芥川(あくたがわ)」は、定期テストで非常によく出題される章段です。とくに和歌「白玉か何ぞ」の解釈と「なまし」の反実仮想、そして結末の「鬼一口(おにひとくち)」が何のたとえなのかは頻出ポイント。まずは本文を読んで設問に答え、最後の解答で答え合わせをして理解を確かめましょう。本文の流れがあやしい人は、先に伊勢物語『芥川』のやさしい解説を読んでから取り組むと得点しやすくなります。
本文(傍線①〜⑮)
むかし、男ありけり。女の、①え得(え)まじかりけるを、年を経て②よばひわたりけるを、③からうじて④盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川(あくたがは)といふ河を⑤率(ゐ)て行きければ、草の上に置きたりける露を、「⑥かれは何ぞ」と⑦なむ男に問ひける。
行く先多く、夜もふけにければ、鬼ある所とも⑧知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、⑨あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて、男、弓、⑩やなぐひを負ひて戸口にをり。「⑪はや夜も明けなむ」と思ひつつゐたりけるに、⑫鬼はや一口に食ひてけり。「あなや」と言ひけれど、神鳴る騒ぎに、⑬え聞かざりけり。
やうやう夜も明けゆくに、見れば、率て来し女もなし。足ずりをして泣けども、⑭かひなし。
白玉(しらたま)か何ぞと人の問ひし時露と答へて⑮消えなましものを
語注 え〜まじ=とても〜できそうにない。 よばふ=求婚する。 からうじて=やっとのことで。 率(ゐ)る=連れて行く。 なむ=係助詞。結びは連体形。 〜で=打消の接続助詞(〜ないで)。 さへ=そのうえ〜までも。 あばらなり=荒れ果てて、すきまだらけである。 やなぐひ=矢を入れて背負う道具。 あなや=ああ、大変だ。 足ずり=地団駄をふむこと。 かひなし=どうにもならない。 白玉=真珠。 なまし=反実仮想(〜だったらよかったのに)。
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使い方のおすすめ。①まず何も見ずに解く → ②解答で答え合わせ → ③まちがえた設問の番号と同じ傍線を本文で探して読み直す。
設問
A 語句の意味と読み
- ②「よばひわたりける」の意味を書け。
- ③「からうじて」の意味を書け。
- ⑨「あばらなる」の意味を書け。
- ⑩「やなぐひ」の読みと意味を書け。
- ⑭「かひなし」の意味を書け。
- ①の「え〜まじ」は、どのような意味を表すか。
B 文法
- ①の「まじ」の意味として最も適当なものを書け。(打消推量/不可能/禁止/打消意志)
- ⑤「率(ゐ)て行きければ」の「ば」は何形に接続し、どのような意味を表すか。
- ⑦で、文末が「問ひけり」ではなく「問ひける」となっているのはなぜか。文法的に説明せよ。
- ⑧「知らで」の「で」は文法的に何か。意味も書け。
- ⑪の「なむ」を文法的に説明せよ。
- ⑮「消えなましものを」の「なまし」に用いられている文法を漢字で書け。
C 主語と指す内容
- ④「盗み出でて」と⑬「え聞かざりけり」の主語をそれぞれ書け。
- ⑥の「かれ」は何を指すか。
- ⑫「鬼はや一口に食ひてけり」の「鬼」は、実際には何をたとえたものと考えられているか。
D 口語訳
- ①・②を含む「女の、え得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを」
- ⑥「かれは何ぞ」(誰が誰に言ったことばかが分かるように訳すこと)
- ⑬を含む「『あなや』と言ひけれど、神鳴る騒ぎに、え聞かざりけり」
- 和歌「白玉か何ぞと人の問ひし時露と答へて消えなましものを」
E 内容・記述
- ⑥のことばから、この女はどのような人物だと読み取れるか。簡潔に書け。
- 和歌の中の「人」とは、具体的に誰を指すか。
- 男が女を「白玉」「露」にたとえたのは、どのような効果をねらったものか。
- ⑮「消えなましものを」に表れている男の心情を、反実仮想の意味をふまえて書け。
F 文学史
- 『伊勢物語』のジャンル・主人公のモデルとされる歌人・成立した時代を書け。
- 『伊勢物語』以外の歌物語を一つ挙げよ。
- 在原業平が選ばれている、すぐれた六人の歌人の総称を漢字で書け。
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解答と解説
▼ 解答・解説を見る
A 語句の意味と読み
問1 求婚し続けていた
└ 「よばふ」=求婚する
問2 やっとのことで・かろうじて
問3 荒れ果てて、すきまだらけである
問4 やなぐい/矢を入れて背負う道具
問5 どうにもならない・かいがない
問6 とても〜できそうにない(不可能)
B 文法
問7 不可能(〜できそうにない)
└ 上に「え」があるのが手がかり
問8 已然形(「行きけれ」)に接続し、順接の確定条件(〜したところ・〜ので)を表す。
問9 係助詞「なむ」を受けて、結びが連体形になっているから(係り結び)。
問10 打消の接続助詞「で」/〜ないで
問11 他に対する願望を表す終助詞「なむ」(〜てほしい)と取るのが一般的。教科書によっては、強意(確述)の助動詞「ぬ」の未然形+意志・願望の「む」と説明することもある。
└ ★お使いの教科書の説明に合わせること
問12 反実仮想
└ 「〜ましものを」=〜だったらよかったのに
C 主語と指す内容
問13 どちらも男
問14 草の上に置いていた露
問15 女を取り返しに来た者たち(女の兄にあたる人々)。女は二条の后(藤原高子)で、兄の基経・国経が連れ戻したと伝えられている。
D 口語訳
問16 とても自分のものにできそうになかった女のもとに、何年もかけて求婚し続けていたが、
問17 (女が男に)「あれは何ですか」と。
問18 (女は)「ああ、大変」と言ったけれど、雷の鳴る騒がしさで、(男は)聞くことができなかった。
問19 (あれは)真珠なのか、何なのかとあの人が尋ねたときに、「露だ」と答えて、私も露のように消えてしまえばよかったのに。
E 内容・記述
問20 露さえ知らないほど、深窓で大切に育てられた高貴な身分の女性。
問21 連れ出した女(露を尋ねた女)
問22 美しくはかなく、すぐ消えてしまうものとして女を表し、その死のはかなさと、失った悲しみを強めている。
問23 実際には自分は生き残ってしまった。あのとき女と一緒に露のように消えてしまえばよかったのに、という深い後悔と嘆き。
F 文学史
問24 歌物語/在原業平/平安時代(前期)
問25 『大和物語』(『平中物語』でも可)
問26 六歌仙
【テスト直前チェック】この三つ
❶「なまし」=反実仮想。「消えなましものを」=「(実際には消えなかったが)消えてしまえばよかったのに」。ここが最頻出です。
❷「となむ男に問ひける」は係り結び。係助詞「なむ」を受けて、結びが連体形「ける」になっています。
❸「鬼一口」は本当の鬼ではありません。女を取り返しに来た者たちのたとえと考えられています。
現代語訳(全文)
むかし、(ある)男がいた。とても自分のものにできそうになかった女のもとに、何年もかけて求婚し続けていたが、やっとのことで盗み出して、たいそう暗いなかを連れて来た。芥川という河のほとりを連れて行ったところ、草の上に置いていた露を(見て)、「あれは何ですか」と男に尋ねた。
行く先はまだ遠く、夜もふけてしまったので、鬼のいる所とも知らないで、そのうえ雷までもたいそう激しく鳴り、雨もひどく降ったので、荒れ果てた蔵に、女を奥に押し入れて、男は弓とやなぐいを背負って戸口にいた。「早く夜も明けてほしい」と思いながら座っていたところ、鬼が女をあっという間に一口で食べてしまった。(女は)「ああ、大変」と言ったけれど、雷の鳴る騒がしさで、聞くことができなかった。
だんだんと夜も明けていくので、見ると、連れて来た女もいない。地団駄をふんで泣いたけれど、どうにもならない。
(あれは)真珠なのか、何なのかとあの人が尋ねたときに、「露だ」と答えて、私も露のように消えてしまえばよかったのに。
※この問題は誰でも古典塾のオリジナルです。本文は古典(著作権の対象外)から正確に引用しています。
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