二方向への敬語をやさしく解説|謙譲+尊敬で2人に敬意を払う形

古文 二方向への敬語 図解(中央に敬意、左に謙譲=受け手を高める、右に尊敬=動作主を高める) 古典文法

敬語の中でも多くの受験生がつまずくのが「二方向への敬語(二方面の敬語)」です。1つの動作に尊敬語と謙譲語が同時に使われ、2人の人物に同時に敬意を表す——という形。やさしく整理しました。先に敬語の基本(尊敬・謙譲・丁寧)を読むと理解が早いです。

生徒
生徒「申し給ふ」みたいに敬語が二つ重なると、もうどっちがどっちかわからなくなります……。
先生
先生大丈夫。コツはたった一つ、謙譲は受け手へ・尊敬はする人へと分けるだけ。今日はそこを徹底的にやろう。
二方向への敬語とは 謙譲+尊敬で2人に敬意 図解

二方向の敬語とは?

申し給ふの分解 謙譲は受け手へ 尊敬はする人へ 図解

たとえば「申し給ふ」という言葉。

種類誰への敬意?
申し(謙譲語)謙譲動作の受け手(言われる側)へ
給ふ(尊敬語)尊敬動作のする人(言う側)へ

つまり「申し給ふ」=「(受け手を敬って)申し上げ+(する人を敬って)なさる」。[1つの動作で2人に敬意]を払っているのです。

見分けの3ステップ

二方向の敬語 見分けの3ステップ 図解
  1. 語を分解する:「謙譲語+尊敬語」の組み合わせを探す(例:申し+給ふ、聞こえ+させ+給ふ)。
  2. 謙譲語は「動作の受け手」への敬意 → 誰に向かう動作かを確認。
  3. 尊敬語は「動作主(する人)」への敬意 → 主語が誰かを確認。

よくある形:聞こえさせ給ふ/申させ給ふ/奏し給ふ など。とくに天皇・中宮が関わる場面で頻出です。

先生
先生迷ったら、まず語を分解。謙譲語と尊敬語を切り離せば、向き先は自然に見えてくるよ。

例で確認

奏し給ふの例 中納言が帝に申し上げなさる 図解

「中納言、帝に奏し給ふ。」

  • 奏し(謙譲=天皇に申し上げる)→ 受け手のへの敬意
  • 給ふ(尊敬)→ 動作主の中納言への敬意

=「中納言が帝に申し上げなさる」。書き手が[中納言と帝の両方を敬っている]わけです。

よくある間違い

二方向の敬語のよくある間違い2つ 図解
生徒
生徒謙譲なのに、つい主語のほうへ敬意を向けて答えちゃいそうです。

テスト直前チェック

  • 二方向の敬語=謙譲語+尊敬語2人に同時に敬意
  • 謙譲=受け手へ/尊敬=動作主
  • 代表形=奏し給ふ・聞こえさせ給ふ・申させ給ふ

そもそも「敬語の3種類」をおさらい

二方向の敬語を理解する前に、敬語の三つの種類をもう一度整理しておきましょう。敬語は「だれを高めるか」で次の三つに分かれます。ここがあいまいだと、二方向の敬語は必ずつまずきます。

  • 尊敬語……動作を「する人(動作主・主語)」を高める言い方。代表は「給ふ(四段)・おはす・おはします・のたまふ・召す・思す(おぼす)」など。
  • 謙譲語……動作の「受け手(相手・対象)」を高めるために、動作主をへりくだらせる言い方。代表は「申す・聞こゆ・奉る(たてまつる)・参る・侍り(謙譲のとき)・給ふ(下二段)」など。
  • 丁寧語……話の「聞き手・読み手」に対して丁寧に述べる言い方。代表は「侍り・候ふ(さぶらふ・さうらふ)」。

二方向の敬語に関わるのは、このうち尊敬語謙譲語の二つです。「尊敬=する人へ」「謙譲=受け手へ」という[敬意の向き先のちがい]さえ押さえれば、二つを重ねたときに自然と「二人へ敬意」になることが見えてきます。

なぜ「謙譲+尊敬」の順番なのか

二方向の敬語は、必ず「謙譲語が先、尊敬語が後」という順番になります。これは偶然ではなく、日本語の語の組み立て方に理由があります。

古文でも現代語でも、敬語は動詞の本体に近いところほど「内容(だれに対する動作か)」を表し、外側ほど「だれが言っているか・する人への敬意」を表すという性質があります。「申し上げ」という謙譲は動作そのものの中身(=相手にへりくだって申す)を表すので動詞に近い内側に来ます。一方「給ふ・なさる」という尊敬は、その動作をする人を高める言葉なので外側に来ます。だから「申し(謙譲)+給ふ(尊敬)」の順になるのです。

現代語で言えば「先生に申し上げなさる」のような形です。「申し上げる」で相手(先生)を立て、「なさる」でその動作をする人を立てています。古文の「申し給ふ」とまったく同じ仕組みだと考えると[わかりやすい]でしょう。

先生
先生「先生に申し上げなさる」――現代語のこの言い方が、そのまま「申し給ふ」の仕組みなんだ。

例文で確かめる(原文・現代語訳つき)

実際の形にふれて、敬意の向き先を一つずつ確認しましょう。どれも「謙譲=受け手」「尊敬=動作主」に分けて読むのがコツです。

例1:女御、帝に聞こえさせ給ふ

  • 聞こえ(謙譲=「言ふ」のへりくだり)→ 受け手のへの敬意
  • させ給ふ(尊敬の最高敬語)→ 動作主の女御(にょうご)への敬意

現代語訳:女御が帝に申し上げなさる。書き手は、申し上げる相手(帝)と、申し上げる人(女御)の両方を敬っています。

例2:大臣、宮に御文奉り給ふ

  • 奉り(謙譲=「与ふ」のへりくだり、差し上げる)→ 受け手のへの敬意
  • 給ふ(尊敬)→ 動作主の大臣への敬意

現代語訳:大臣が宮にお手紙を差し上げなさる。「差し上げる」で受け手の宮を、「なさる」で大臣を、同時に高めています。

例3:大納言、東宮に啓し給ふ

  • 啓し(謙譲=中宮・皇太子に「申し上げる」専用の語)→ 受け手の東宮(とうぐう=皇太子)への敬意
  • 給ふ(尊敬)→ 動作主の大納言への敬意

現代語訳:大納言が東宮(皇太子)に申し上げなさる。「啓す」は中宮や皇太子に申し上げるときだけ使う特別な謙譲語なので、受け手の身分が語そのものから分かります。なお天皇に申し上げるときは「啓す」ではなく「奏す」を使います。

覚えておきたい「絶対敬語」――奏す・啓す

二方向の敬語でよく出る謙譲語のうち、相手が決まっている特別な語を「絶対敬語」と呼ぶことがあります。受け手がだれかを覚えておくと、訳す相手を一発で判断できます。

  • 奏す(そうす)……天皇(帝・上皇)に申し上げる、専用の謙譲語。「奏し給ふ」なら受け手は必ず天皇です。
  • 啓す(けいす)……中宮(皇后)・皇太子に申し上げる、専用の謙譲語。「啓し給ふ」なら受け手は中宮や皇太子です。

この二語は、文中に受け手がはっきり書かれていなくても「だれに申し上げているか」が決まるので、[設問でとても狙われます]。「奏す=天皇へ/啓す=中宮・東宮へ」とセットで暗記しておきましょう。なお「東宮(とうぐう)」は皇太子のことです。「奏し給ふ」「啓し給ふ」を見たら、受け手の身分がそれだけで確定すると覚えておくと、訳すときに迷いません。

このほか、謙譲語の代表として覚えておきたいのが「参る・まうづ(参上する)」「給はる(いただく)」「うけたまはる(お聞きする)」などです。これらに尊敬の「給ふ」が付けば、やはり二方向の敬語になります。動詞の意味(だれに対する動作か)を押さえておくと、受け手をすぐ特定できます。

生徒
生徒「奏す=天皇へ」「啓す=中宮・皇太子へ」――これは受け手が書いてなくても決まるんですね!

つまずきやすいポイントと入試での問われ方

二方向の敬語は、定期テストでも入試でも「傍線部の敬語はだれへの敬意か」という形で必ず問われます。つまずきやすいところを先につぶしておきましょう。

  • 謙譲の向き先を「主語」と取りちがえる。謙譲語が高めるのはあくまで動作の受け手です。「だれがしたか」ではなく「だれに対してしたか」を探しましょう。
  • 「給ふ」を全部尊敬と決めつける。「給ふ」には四段(尊敬)と下二段(謙譲)の二つがあります。下二段の「給ふ」は会話文で「思ひ給ふ・見給ふ」のように使われ、自分の動作をへりくだる謙譲です。活用と文脈で見分けます。
  • 「させ・せ」を使役と決めつける。「聞こえさせ給ふ」の「させ」は使役ではなく、尊敬を強める助動詞です。下に尊敬語「給ふ」が続くときは、ほぼ尊敬(最高敬語)と判断できます。
  • 敬意の出どころ(だれが敬っているか)を取りちがえる。地の文の敬語は書き手(作者)からの敬意、会話文の敬語は話し手からの敬意です。「だれから・だれへ」の二つをセットで答えるのが入試の型です。

入試では「二重傍線部Aの敬語について、敬意の主体(だれから)と客体(だれへ)を答えよ」という記述問題が定番です。二方向の敬語なら答えは二組――謙譲は「書き手→受け手」、尊敬は「書き手→動作主」――になります。[両方をもれなく書けるように練習しましょう。

ミニ練習問題(解答つき)

次の傍線部の敬語を分解し、それぞれ「だれへの敬意か」を答えてみましょう。すべて地の文(作者の語り)とします。

  1. 大納言、帝に奏し給ふ
  2. 母上、姫君に文を聞こえ給ふ
  3. 女房、中宮に啓し給ふ

解答・解説:

  1. 「奏し」=謙譲(天皇へ申し上げる専用語)→ 受け手のへの敬意。「給ふ」=尊敬 → 動作主の大納言への敬意。訳「大納言が帝に申し上げなさる」。
  2. 「聞こえ」=謙譲(「言ふ」のへりくだり)→ 受け手の姫君への敬意。「給ふ」=尊敬 → 動作主の母上への敬意。訳「母上が姫君にお手紙を申し上げなさる」。
  3. 「啓し」=謙譲(中宮・皇太子へ申し上げる専用語)→ 受け手の中宮への敬意。「給ふ」=尊敬 → 動作主の女房への敬意。訳「女房が中宮に申し上げなさる」。

三問とも「謙譲=受け手へ/尊敬=動作主へ」という同じ型で解けています。形が変わっても考え方は一つだと確認できましたね。

先生
先生形が変わっても考え方は一つ。謙譲=受け手へ、尊敬=動作主へ。ここまで来れば、もう怖くないよ。

よくある質問(Q&A)

Q1:二方向の敬語は「三方向」になることもありますか?

A:あります。謙譲語+尊敬語+丁寧語が重なると、受け手・動作主・聞き手の三人に敬意が向きます。たとえば「申し給ひ侍り」なら、謙譲「申し」が受け手へ、尊敬「給ひ」が動作主へ、丁寧「侍り」が聞き手(読み手)へ、と三方向になります。ただし入試で中心に問われるのは二方向の形なので、まずは二方向を確実にしましょう。

Q2:「給ふ」が尊敬か謙譲か、すばやく見分けるコツは?

A:活用で見分けます。四段活用(給は・給ひ・給ふ・給ふ・給へ・給へ)なら尊敬、下二段活用(給へ・給へ・給ふ・給ふる・給ふれ・給へよ)なら謙譲です。下二段の「給ふ」は「思ひ給ふる」「見給へ」のように会話文・心内文で自分の動作に使われるのが目印です。

Q3:「聞こえさせ給ふ」の「させ」は使役ですか?

A:使役ではなく、尊敬を強める用法です。「す・さす・しむ」は使役にも尊敬にもなりますが、下に「給ふ」などの尊敬語が続くときは、ほぼ尊敬(最高敬語=より高い敬意)と判断します。「聞こえさせ給ふ」全体で「申し上げなさる」と訳します。

まとめ

最後に、二方向の敬語の要点をもう一度まとめます。ここだけ覚えれば、初めて見る文でも落ち着いて解けます。

  • 二方向の敬語=謙譲語+尊敬語で、一つの動作で二人に同時に敬意を払う形。
  • 順番は必ず謙譲(内側)→尊敬(外側)。「申し給ふ」「聞こえさせ給ふ」「奏し給ふ」が代表。
  • 敬意の向き先は謙譲=受け手(相手)/尊敬=動作主(主語)
  • 「奏す=天皇へ」「啓す=中宮・皇太子へ」は受け手が決まる絶対敬語。
  • 入試では「だれから・だれへ」をセットで答える。二方向なら答えも二組。

仕組みさえつかめば、二方向の敬語は決して難しくありません。あとは数をこなして、見た瞬間に分解できるようにしていきましょう。

先生
先生仕組みはもうつかめたはず。あとは数をこなすだけ。見た瞬間に分解できるようになれば、きみの勝ちだよ。

二方向の敬語は「謙譲(受け手へ)+尊敬(する人へ)」と分解すれば必ず解けます。敬意の方向は敬意の方向ドリルで練習すると定着します。源氏物語など宮中が舞台の作品で特に重要です。

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