1. はじめに ― 「鶏口牛後」とは
「鶏口牛後(けいこうぎゅうご)」は、「鶏口となるも牛後となるなかれ」という言葉で知られる故事成語です。大きな集団の末端にいるより、小さな集団でもその長になるほうがよい、という意味で使われます。出典は『史記』蘇秦(そしん)列伝と『戦国策』で、遊説家の蘇秦が韓王を説得した言葉に基づきます。
定期テストでは、「寧(むし)ろ〜となるとも、〜となること無(な)かれ」という句法(願望・禁止)の読みと、成語の意味、出典がよく問われます。

2. 白文・訓読文
臣聞鄙諺曰、寧為鶏口、無為牛後。
今西面交臂而臣事秦、何異於牛後乎。
3. 書き下し文
臣聞く、鄙諺(ひげん)に曰(い)はく、「寧(むし)ろ鶏口(けいこう)と為(な)るとも、牛後(ぎゅうご)と為る無(な)かれ」と。
今西面(せいめん)し臂(ひぢ)を交へて秦に臣事(しんじ)せば、何ぞ牛後に異(こと)ならんや。
4. 現代語訳
私(蘇秦)はこう聞いております。世間のことわざに、「いっそ(小さくとも)鶏のくちばし(=一団の頭)となっても、(大きくとも)牛の尻(=一団の末端)にはなるな」と。
今、西を向き腕組みをして秦に臣下として仕えるとすれば、どうして牛の尻(牛後)と異なることがありましょうか、いや、同じことです。
5. 句法・重要語のポイント
① 「寧ろ〜とも、〜無かれ」=願望・禁止
「寧ろ鶏口と為るとも、牛後と為る無かれ」は、「いっそ〜であっても、〜であってはならない」という意味です。「寧ろ〜とも」で一方を望ましいものとしてすすめ(願望・選択)、「〜無かれ」でもう一方を禁じる(禁止)、二つを組み合わせた言い方です。書き下し文の問題で最頻出の部分です。
② 「何ぞ〜んや」=反語
「何ぞ牛後に異ならんや」は、疑問の形をとりながら強く言い切る反語の表現です。「どうして牛後と異なることがあろうか、いや、同じことだ」、つまり「秦に従うのは牛後そのものだ」と強調しています。
③ 「而」=置き字
「今西面交臂而臣事秦」の「而」は置き字として読みません。「臂を交へて」は腕組みをして、なすがままに従うさま、つまり消極的・屈従的な態度を表します。
覚えておきたい語句
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 臣 | 家臣。ここでは蘇秦が韓王に対して自分をへりくだって言う語 |
| 鄙諺(ひげん) | 俗世間のことわざ |
| 鶏口 | 鶏のくち。小さくとも一団の長のたとえ |
| 牛後 | 牛の尻。大きくとも一団の末端のたとえ |
| 西面(せいめん) | 西を向くこと。西方の強国・秦に仕えることを表す |
| 臣事(しんじ) | 臣下(家来)として仕えること |
背景も大切です。蘇秦は、東方の六国(韓・魏・趙・燕・斉・楚)が同盟して西の秦に対抗する「合従(がっしょう)」の策をすすめました。「韓は小国でも独立を保って鶏口であるべきで、秦に屈服して牛後となるな」というのが蘇秦の主張です。
6. 故事の意味と現代での使い方
「鶏口牛後」は、大きな組織の下っ端でいるより、小さな組織でもその長になるほうがよいことのたとえです。反対の発想のことわざに「寄らば大樹の陰」(頼るなら大きく勢力のあるものがよい)があります。セットで覚えておくと記述問題に強くなります。
例文1:大企業で埋もれるより、鶏口牛後で小さな会社の社長を目指すことにした。
例文2:彼は鶏口牛後の精神で、大手をやめて自分の店を開いた。
確認クイズ(3問)
Q1. 「鶏口」は何をたとえた言葉ですか。
ア 大きな集団の末端にいること イ 小さくても一つの集団の長であること ウ 強い者に守られていること
答えを見る
正解:イ 解説:鶏の口(くちばし)は小さいが体の先頭にあることから、小さな集団の長のたとえ。牛後はその逆で、大きな集団の末端のたとえです。
Q2. 「何ぞ牛後に異ならんや」は、どのような表現ですか。
ア 疑問の形をとりながら、強く言い切る反語の表現 イ 相手にていねいにたずねる疑問の表現 ウ 仮定を表す表現
答えを見る
正解:ア 解説:「どうして牛後と異なろうか、いや、同じことだ」と、秦に従うことは牛後そのものだと強く言い切っています。
Q3. 蘇秦がすすめた、六国が同盟して秦に対抗する外交策を何といいますか。
ア 連衡 イ 遠交近攻 ウ 合従
答えを見る
正解:ウ 解説:合従(がっしょう)。これに対し、各国を個別に秦と結ばせる張儀の策を「連衡(れんこう)」といいます。
7. 故事の背景 ― 蘇秦と「合従連衡」
この言葉が生まれたのは、中国の戦国時代です。当時の中国は、秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓という七つの大きな国(「戦国の七雄(しちゆう)」)が、たがいに勢力を争っていました。なかでも西方の秦がぐんぐん強くなり、ほかの六つの国(韓・魏・趙・燕・斉・楚)は、それぞれ単独では秦にかなわず、いつ攻め取られるかわからない状況に置かれていました。
そこに登場するのが、弁舌(べんぜつ)で各国の王を動かした遊説家(ゆうぜいか)の蘇秦(そしん)です。蘇秦は、「六つの国がばらばらでいたら、強い秦に一つずつ食い荒らされてしまう。ならば六国が縦に手を結び、力を合わせて秦に立ち向かうべきだ」と説いて回りました。この「六国が同盟して秦に対抗する策」を合従(がっしょう)といいます。「従(縦)」は南北に縦につらなる六国が結びつくことを表しています。
これに対して、のちに蘇秦のライバルとなる張儀(ちょうぎ)は、「秦と個別に手を結んだほうが安全だ」と各国に説いて、合従をくずそうとしました。秦と各国が横に結びつくこの策を連衡(れんこう)といいます。合従と連衡を合わせて「合従連衡」といい、利害によって離れたり結びついたりする外交のかけひきを表す言葉として、今も使われています。
「鶏口牛後」の言葉は、蘇秦が小国・韓(かん)の王を説得した場面で出てきます。「韓は小さな国だが、独立を保てば一団の頭(鶏口)でいられる。秦に屈服して言いなりになれば、それは大きな牛の尻(牛後)にすぎない。どちらが誇りある生き方か」――こう問いかけて、韓王に合従への参加を決意させたのです。つまり「鶏口牛後」は、ただのことわざではなく、韓王を動かすための強い説得の決め台詞だったわけです。背景を知っておくと、本文の現代語訳もぐっと理解しやすくなります。
8. 句法をもっとくわしく
「寧ろА(とも)、Вなかれ」の形をおさえる
この一文のいちばんの山場は、「寧ろ鶏口と為るとも、牛後と為る無かれ」という句法です。これは「いっそАであっても、Вであってはならない」と、二つを比べて一方をすすめ、もう一方を強く禁じる言い方です。「寧」という字は「むしろ」と読み、「あれよりは、いっそこちらのほうがよい」という選択・願望の気持ちを表します。文末の「無かれ」は「〜してはならない」という禁止です。テストでは、この「寧ろ」と「無かれ」を正しく送り仮名つきで書き下せるかが問われます。
「無かれ」を「なかれ」とひらがなで読むこと、「為る」を「なる」と読むこと(「す」ではない点に注意)を、セットで覚えておきましょう。
反語「何ぞ〜んや」は文脈で訳す
「何ぞ牛後に異ならんや」は、形は疑問文ですが、中身は「言うまでもなく同じだ」という強い断定です。これが反語です。反語は「どうして〜だろうか、いや、〜ない(同じだ)」と、後ろにかくれた答えまで含めて訳すのがコツです。ここでは「秦に臣下として仕えるのは、牛後とどう違うのか。いや、まったく同じだ(=それこそ牛後そのものだ)」という意味になります。直前の「臣事(しんじ)=家来として仕える」という屈従的なふるまいを、はげしく否定しているのです。
置き字「而」を見落とさない
「今西面交臂而臣事秦」の「而」は、読まずにそえる置き字です。「而」は前後をつなぐはたらきをしますが、書き下し文では字を書かず、上の語の送り仮名(ここでは「交へて」)にその意味を含ませます。置き字には「而・於・于・乎」などがあり、漢文では「読まない字」として頻出です。「臂(ひぢ)を交へて」は腕組みをするさまで、なすがままに身をまかせる、消極的で屈従的な態度を表しています。
9. つまずきやすいポイント
- 「鶏口」と「牛後」を取りちがえる…「鶏口=小さくても頭(よいほう)」「牛後=大きくても尻(よくないほう)」です。どちらがすすめられているのかを必ず確認しましょう。小さくても頭でいよ、というのがこの故事の主張です。
- 意味を「大きい集団に入れ」と逆に覚える…正しくは「大きな集団の末端より、小さくても長になれ」です。似た形の「寄らば大樹の陰」とは正反対なので、混同に注意します。
- 反語を疑問のまま訳す…「何ぞ〜んや」を「どうして〜か?」とだけ訳すと不十分。「いや、同じだ」までふみこんで訳します。
- 「為る」を「す」と読む…ここは「なる」と読みます。「鶏口と為る=鶏口になる」です。
- 合従と連衡を入れちがえる…六国が同盟=合従(蘇秦)、秦と個別に結ぶ=連衡(張儀)。「縦(従)の同盟、横(衡)の連合」とイメージすると整理できます。
10. 入試・定期テストでの問われ方
この単元では、次のような形で出題されることが多いです。出題のパターンを知っておくと、対策がしやすくなります。
- 書き下し文…「寧為鶏口、無為牛後」を、送り仮名・ひらがなの使い方まで含めて正しく書き下せるか。最頻出です。
- 現代語訳…「寧ろ〜とも、〜無かれ」「何ぞ〜んや(反語)」をふまえて、自然な日本語に訳せるか。
- 句法の名称…「無かれ」が禁止、「何ぞ〜んや」が反語であると答えさせる問題。
- 成語の意味…「鶏口牛後」の意味を説明させる、または選択肢から選ばせる問題。
- 文学史・背景…出典(『史記』蘇秦列伝・『戦国策』)、蘇秦の策(合従)、対する張儀の策(連衡)を問う問題。
11. ミニ練習問題(解答つき)
問1 次の白文を書き下し文に直しなさい。
「寧為鶏口、無為牛後。」
問2 傍線部「何ぞ牛後に異ならんや」を、句法の名前を明らかにしたうえで現代語訳しなさい。
問3 「鶏口牛後」と反対の発想を表すことわざを一つ答えなさい。
問4 蘇秦がすすめた、六国が同盟して秦に対抗する外交策の名前を漢字二字で答えなさい。
【解答】
- 問1…寧(むし)ろ鶏口と為(な)るとも、牛後と為る無(な)かれ。
- 問2…句法は反語。訳「どうして牛の尻(牛後)と違うことがあろうか、いや、まったく同じことだ。」
- 問3…寄らば大樹の陰(頼るなら勢力の大きいものがよい、の意)。
- 問4…合従(がっしょう)。これに対する張儀の策は連衡(れんこう)。
12. よくある質問(Q&A)
Q. なぜ「鶏の口」と「牛の後ろ」でたとえるのですか。
A. 鶏は牛にくらべればずっと小さい動物ですが、その「口(くちばし)」は体の先頭にあります。一方、牛は大きいけれど「後(尻)」は体の末端です。「小さくても先頭か、大きくても末端か」という対比を、身近な動物で分かりやすく表したのがこの言葉です。
Q. 「鶏口牛後」は省略された言い方ですか。
A. はい。もとの言葉「寧ろ鶏口と為るとも、牛後と為る無かれ」から、要点の四字「鶏口」「牛後」を取り出して四字熟語にしたものです。テストでは元の文と四字熟語の両方を結びつけて覚えておくと安心です。
Q. 「寄らば大樹の陰」とどう違うのですか。
A. 「鶏口牛後」は「小さくても自分が長になれ」という考え方、「寄らば大樹の陰」は「頼るなら大きく勢力のあるものがよい」という考え方で、正反対の価値観です。記述問題では、この二つを対比させて説明できると高得点につながります。
Q. 出典の『史記』と『戦国策』はどんな本ですか。
A. 『史記』は前漢の司馬遷(しばせん)がまとめた中国の歴史書で、「蘇秦列伝」に蘇秦の活躍が記されています。『戦国策』は戦国時代の遊説家たちの言葉や策略を集めた書物です。どちらにもこの故事がのっており、出典として問われることがあります。
まとめ
・「鶏口牛後」=大きな集団の末端より、小さな集団でも長になるほうがよい
・出典は『史記』蘇秦列伝・『戦国策』。蘇秦が韓王を説得した言葉
・「寧ろ〜とも、〜無かれ」は願望・禁止の句法
・「何ぞ〜んや」は反語
・反対の発想は「寄らば大樹の陰」、蘇秦の策は「合従」
📗 参考書・問題集で対策するなら|塾長が古文・漢文の市販教材を目的別に正直レビューしています。目的別おすすめを見る →
[広告・PR]
動画で授業を受けたい人へ
誰でも古典塾は「読んで覚える」無料テキスト専門で、動画授業はありません。「文字だけだと入りにくい」「授業を聞いて理解したい」人は、動画授業のスタディサプリ(古文・漢文=岡本梨奈先生)が相棒になります。


コメント