1. はじめに ― 「敬語の訳し方」はここで差がつく
古文の現代語訳で意外と差がつくのが敬語の訳し方です。文の内容が読めていても、「給ふ」「奉る」「侍り」などの敬語を訳に反映できていないと、記述問題では減点されてしまいます。
逆にいえば、敬語の訳は型(パターン)が決まっているので、覚えてしまえば確実な得点源になります。この記事では、尊敬・謙譲・丁寧それぞれの訳の型、本動詞と補助動詞での訳し分け、減点されやすいポイントまでをやさしく整理します。
2. 基本の型 ― 尊敬・謙譲・丁寧の訳のパターン
古文の敬語は3種類。それぞれ訳の形が決まっています。まずはこの表を丸ごと頭に入れましょう。
| 種類 | 敬う相手 | 訳の型 |
|---|---|---|
| 尊敬語 | 動作をする人 | お〜になる・〜なさる・いらっしゃる |
| 謙譲語 | 動作を受ける人 | お〜申し上げる・お〜する・〜いたす |
| 丁寧語 | 聞き手・読み手 | 〜です・〜ます・〜ございます |
敬語には、それだけで意味を持つ使い方(本動詞)と、ほかの動詞の下に付いて敬意だけを添える使い方(補助動詞)があります。補助動詞のときは、上の「訳の型」をそのまま使って「お読みになる」「お慰め申し上げる」のように訳します。
主な敬語動詞と訳
| 敬語動詞 | 種類 | 訳 |
|---|---|---|
| のたまふ・仰す | 尊敬 | おっしゃる |
| おはす・おはします | 尊敬 | いらっしゃる |
| 御覧ず | 尊敬 | ご覧になる |
| 思す・思しめす | 尊敬 | お思いになる |
| 申す・聞こゆ | 謙譲 | 申し上げる |
| 参る | 謙譲 | 参上する・差し上げる |
| 仕うまつる | 謙譲 | お仕えする |
| 侍り・候ふ | 丁寧 | 〜です・〜ます・〜ございます |
二重敬語(最高敬語)の訳し方
「書かせたまふ」「御覧ぜさせたまふ」のように尊敬語を二つ重ねた形を二重敬語(最高敬語)といい、天皇・皇族・摂関級など最上位の人物に使われます。
訳は「お〜になる・〜なさる」でOKです。ふつうの尊敬と同じ訳で減点されません。敬意の高さまで訳に出したいときは「お書きあそばす」「〜でいらっしゃる」といった訳し方もありますが、答案では尊敬の形がはっきり出ていれば十分です。
3. 訳すときの手順(ステップ式)
ステップ1 敬語動詞を見つけて、暗記した訳語をそのまま当てはめる(「のたまふ」→おっしゃる、「御覧ず」→ご覧になる)。
ステップ2 「給ふ」は活用をチェック。四段なら尊敬「〜なさる」、下二段なら謙譲「〜ております」(会話文・手紙文だけに現れる)。
ステップ3 「奉る」「参る」は動作の内容をチェック。衣服・食事(乗り物)に関わるときだけ尊敬「お召しになる・召し上がる」、それ以外は謙譲「差し上げる・参上する」。
ステップ4 「せたまふ・させたまふ」の二重敬語は「お〜になる・〜なさる」で統一。補助動詞は「お〜になる/〜申し上げる/〜です」の形で訳す。
この順番でチェックすれば、どの敬語も機械的に訳せます。
4. 例文5選(訳つき)
例文はすべて「敬語の訳し方」100題ドリルから取りました。
例文1 尊敬の補助動詞「給ふ」(四段)
中将、御琴をいと美しく弾き給ふ。
訳:中将が、お琴をたいそう美しくお弾きになる。
「弾き」+「給ふ」(四段)。補助動詞なので「お弾きになる」と訳します。「お与えになる」としないこと。
例文2 謙譲の本動詞「奉る」
御文を奉る。
訳:お手紙を差し上げる。
「奉る」は本動詞では「差し上げる」。お手紙を受け取る側の高貴な人への敬意を、訳の形で表します。
例文3 丁寧の「侍り」
我れも参り侍り。
訳:私も参上いたします(ございます)。
「参る」(謙譲)=参上する、「侍り」(丁寧)=〜ます・〜ございます。敬語が2つあれば、2つとも訳に反映させます。
例文4 二重敬語「せたまふ」
帝、御文書かせたまふ。
訳:帝が、お手紙をお書きになる。
「書か+せたまふ」は二重敬語。訳は「お書きになる」でOK。動作主が帝であることも、二重敬語のサインです。
例文5 下二段「給ふ」(会話文)
「我れもさ思ひたまふる」
訳:「私もそう思っております」
「たまふる」は下二段「給ふ」の連体形で、謙譲の補助動詞。会話文・手紙文だけに現れ、「〜ております・〜ます」と訳すのが定番です。
5. 本動詞と補助動詞で訳が変わる敬語
同じ語でも、本動詞か補助動詞かで訳が変わります。試験でいちばん狙われるところなので、表で整理しておきましょう。
| 語 | 本動詞の訳 | 補助動詞の訳 |
|---|---|---|
| 給ふ(四段) | お与えになる・くださる | 〜なさる・お〜になる |
| 奉る | 差し上げる(衣服・食事では尊敬「お召しになる・召し上がる」) | 〜申し上げる・お〜申し上げる |
| 侍り | お仕えする・あります(ございます) | 〜です・〜ます・〜ございます |
訳で減点されやすいポイント
・補助動詞の「給ふ」を「与える」と訳す → 補助動詞は「〜なさる・お〜になる」。
・「申す」を「言う」と訳す → 謙譲を反映して必ず「申し上げる」。
・「侍り」を「いる」と訳す → 補助動詞なら「〜です・〜ます」、本動詞でも「お仕えする・ございます」。
・二重敬語を敬語抜きで訳す → 「お〜になる・〜なさる」と尊敬の形をはっきり出す。
・会話文の「思ひたまふる」を「お思いになる」と訳す → 下二段の「給ふ」なので「思っております」。
確認クイズ(3問)
Q1. 「御文を奉る」の正しい訳はどれ?
ア お手紙をお与えになる イ お手紙を差し上げる ウ お手紙を召し上がる
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正解:イ 解説:「奉る」は本動詞では謙譲語「差し上げる」。「お与えになる」は四段「給ふ」の本動詞の訳です。
Q2. ほかの動詞の下に付いた補助動詞「給ふ」(四段)の訳はどれ?
ア 〜なさる イ お与えになる ウ いただく
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正解:ア 解説:補助動詞の「給ふ」(四段)は敬意だけを添える使い方なので「〜なさる・お〜になる」。「お与えになる」と訳すのは本動詞のときだけです。
Q3. 「我れも参り侍り」の「侍り」の訳として最も適切なのはどれ?
ア お仕えする イ いらっしゃる ウ 〜ます(〜ございます)
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正解:ウ 解説:ここの「侍り」は丁寧語で、全体の訳は「私も参上いたします(ございます)」。「お仕えする」は本動詞(謙譲)のときの訳です。
6. 「絶対敬語」と敬意の方向 ― だれがだれを敬っているか
敬語の訳でもう一歩差をつけるには、その敬語が「だれ(動作主・受け手・聞き手)への敬意か」を意識することが大切です。これを「敬意の方向」といいます。方向がわかると、訳語が自然に決まり、記述問題でも筋の通った訳が書けます。
- 尊敬語…動作をする人を敬う。例「中将弾き給ふ」→敬うのは弾く人(中将)。
- 謙譲語…動作を受ける人を敬う。例「御文を奉る」→敬うのは手紙を受け取る人。
- 丁寧語…話を聞く人・読む人を敬う。地の文では作者→読者、会話文では話し手→聞き手。
だれが敬意を向けているか(敬意の主体)は、地の文なら作者、会話文なら話している人です。たとえば「帝、御覧ず」が地の文にあれば「作者が帝を敬っている」、会話の中にあれば「話し手が帝を敬っている」と判断します。入試では「この敬語はだれからだれへの敬意か」と問われることが多いので、訳とあわせて方向もおさえておきましょう。
なお「奏す」「啓す」は特別な謙譲語で、「奏す」=天皇・上皇に申し上げる、「啓す」=中宮・皇太子に申し上げると、申し上げる相手まで決まっています。これを絶対敬語といい、訳すときも「(天皇に)申し上げる」「(中宮に)申し上げる」と補えると満点に近づきます。
7. つまずきやすいポイントと入試での問われ方
敬語は覚える型がはっきりしているぶん、ミスの出る場所も決まっています。テストでよく落とす「あるある」を先に知っておけば、同じ失点を防げます。
- 「給ふ」の四段・下二段の見分け…活用語尾で判断します。下二段はほぼ「給へ・給ふる・給ふれ」の形で、しかも会話文・手紙文にしか現れません。地の文の「給ふ」は四段(尊敬)と考えてほぼ間違いありません。
- 「奉る・参る」の尊敬・謙譲の見分け…動作の内容で決まります。衣服を着る・食事をする・乗り物に乗るの場面なら尊敬(お召しになる・召し上がる)、それ以外は謙譲(差し上げる・参上する)です。
- 敬語を訳に出し忘れる…「申す」を「言う」、「侍り」を「いる」と普通の動詞で訳してしまう失敗。記述では敬語の形を必ず残します。
- 二重敬語の訳しすぎ・訳さなすぎ…「せたまふ」は「お〜になる」で十分。敬語抜きで訳すと減点、逆に大げさにしすぎる必要もありません。
入試での問われ方としては、(1) 傍線部の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えさせる、(2) 敬意の方向(だれからだれへ)を答えさせる、(3) 傍線部を敬語まで含めて現代語訳させる、の三つが定番です。とくに(3)は「型」を正しく当てはめれば確実に得点できます。
8. もう少し例文で練習(訳つき)
型に慣れるために、本動詞・補助動詞・絶対敬語をふくむ例文をもう少し見てみましょう。原文の一節と現代語訳をならべます。
例文6 謙譲の本動詞「申す」
原文:女房、姫君に物語を申す。
訳:女房が、姫君に物語を申し上げる。
「申す」は謙譲の本動詞で「申し上げる」。話す相手の姫君を敬っています。「言う」と訳すと敬意が消えてしまい、減点されます。
例文7 尊敬の「奉る」(衣服)
原文:帝、御衣を奉る。
訳:帝が、お召し物をお召しになる。
同じ「奉る」でも、衣服の場面なので尊敬「お召しになる」。「差し上げる」と訳すと意味が逆になってしまうので要注意です。動作主が帝(高貴な人)である点も尊敬のサインです。
例文8 絶対敬語「奏す」
原文:大臣、このよし奏す。
訳:大臣が、この事情を(帝に)申し上げる。
「奏す」は天皇・上皇に申し上げるときだけ使う謙譲語。訳に「(帝に)」と補えると、敬意の相手まで示せて完璧です。
例文9 補助動詞の謙譲「奉る」
原文:姫君を慰め奉る。
訳:姫君をお慰め申し上げる。
「慰め」+「奉る」。下に付く補助動詞なので謙譲「お〜申し上げる」の型を使います。「差し上げる」とはせず、「お慰め申し上げる」とするのがポイントです。
9. ミニ練習問題(解答つき)
次の傍線部を、敬語の型を意識して現代語訳してみましょう。答えはそれぞれの下にあります。
問1 「中宮、御文を御覧ず。」の傍線部「御覧ず」を訳しなさい。
解答:ご覧になる。(尊敬の本動詞。中宮を敬う。「見る」だけでは敬意が出ません。)
問2 「われ、御供に参り候ふ。」の傍線部「参り候ふ」を訳しなさい。
解答:お供に参上いたします(ございます)。(「参る」=謙譲「参上する」、「候ふ」=丁寧「〜ます・ございます」。敬語が二つあるので両方訳します。)
問3 「『我もさ思ひ給ふれ。』」の傍線部「思ひ給ふれ」を訳しなさい。
解答:思っております。(「給ふれ」は下二段「給ふ」(謙譲の補助動詞)の已然形。会話文なので「お思いになる」ではなく「思っております」と訳します。)
問4 「君のたまはく、…」の傍線部「のたまはく」を訳しなさい。
解答:おっしゃることには。(「のたまふ」は尊敬の本動詞「おっしゃる」。「のたまはく」はそのク語法で「おっしゃることには」と訳すのが定番です。)
10. よくある質問(Q&A)
Q. 「お〜になる」と「〜なさる」はどちらで訳せばいいですか?
A. どちらも尊敬の正しい訳なので、答案ではどちらでも構いません。動詞によって言いやすい方を選べば大丈夫です(例「お弾きになる」「弾きなさる」)。大事なのは尊敬の形がはっきり出ていることです。
Q. 二重敬語は必ず「お〜あそばす」と訳さないとダメですか?
A. いいえ。「せたまふ・させたまふ」は普通の尊敬と同じ「お〜になる・〜なさる」で十分得点できます。「〜あそばす」「〜でいらっしゃる」は敬意の高さを強めたいときの選択肢で、必須ではありません。
Q. 敬語が一文に二つあるとき、両方訳すと文が不自然になりませんか?
A. 「参り候ふ=参上いたします」のように、謙譲+丁寧はひとつの言い方にまとめると自然になります。無理に二語を別々に並べる必要はなく、敬意が両方とも反映されていれば大丈夫です。
Q. 「侍り」と「候ふ」はどう違いますか?
A. どちらも丁寧語で訳は同じ「〜です・〜ます・ございます」です。時代によって主に使われる語が変わるだけ(「侍り」がやや古く、「候ふ」が後代に多い)で、訳の上では同じものと考えて構いません。本動詞のときは「お仕えする・あります」になります。
まとめ
・敬語の訳は型で覚える。尊敬「お〜になる・〜なさる・いらっしゃる」/謙譲「お〜申し上げる・〜いたす」/丁寧「〜です・〜ます・〜ございます」。
・本動詞と補助動詞で訳が変わる。「給ふ」=お与えになる/〜なさる、「奉る」=差し上げる/〜申し上げる、「侍り」=お仕えする・あります/〜です。
・「給ふ」は活用(四段=尊敬、下二段=謙譲)、「奉る・参る」は動作の内容(衣服・食事なら尊敬)で訳し分ける。
・二重敬語「せたまふ・させたまふ」は「お〜になる・〜なさる」で十分。「〜あそばす」「〜でいらっしゃる」と強めてもよい。
・「申す=申し上げる」「侍り=〜です・ます」など、敬語は必ず訳に反映させる。これが減点を防ぐ最大のコツ。
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