1. はじめに ― 「まほし・たし」はここで差がつく
「まほし」と「たし」は、どちらも希望(願望)「〜たい・〜てほしい」を表す助動詞です。意味がほとんど同じだからこそ、定期テストでねらわれるのは「意味・接続・活用」の三点セット、なかでも接続の違いです。
結論を先に言うと、「まほし」は未然形に接続、「たし」は連用形に接続します。この一点をおさえるだけで、識別問題の大半は解けます。例文といっしょに10分で整理しましょう。

2. 意味と接続・活用
| 項目 | まほし | たし |
|---|---|---|
| 意味 | 希望「〜たい・〜てほしい」 | 希望「〜たい・〜てほしい」 |
| 接続 | 未然形(例:あら+まほし=あらまほし) | 連用形(例:見+たし=見たし) |
| 活用の型 | シク活用型(形容詞と同じ) | ク活用型(形容詞と同じ) |
| 使われ方 | 古めかしく優美な文章 | 後の時代の口語的な文章 |
活用表は次のとおりです(「○」はその形がないことを表します)。
| 基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| まほし | まほしく・まほしから | まほしく | まほし | まほしき | まほしけれ | ○ |
| たし | たく・たから | たく | たし | たき | たけれ | ○ |
打消の「ず」につなげるときは、「散らまほしからぬ(=散ってほしくない)」のように「〜から」の形を使います。また、連用形「まほしく」の「く」が「う」に変わって「聞かまほしう思へど」のようになることがあります(ウ音便)。もとの形は「まほしく」です。
3. 見分け方(ステップ式)
ステップ1 「〜たい」と訳せたら希望の助動詞
文中の「まほし」「たし」(活用した「まほしき・まほしけれ・たく・たき・たけれ」なども含む)を見つけたら、「〜たい・〜てほしい」と訳せるか確かめます。
ステップ2 直前の活用形で「まほし」か「たし」かを確認
「住ま+まほし」の「住ま」は四段動詞「住む」の未然形、「乗り+たし」の「乗り」は四段動詞「乗る」の連用形です。未然形+まほし/連用形+たしという接続の違いが、両者を見分ける決め手になります。
ステップ3 だれの希望かを確かめる
基本は自己(話し手自身)の希望「〜たい」ですが、ときに「〜てほしい」と他への願望を表します。「先達はあらまほし」のように自分以外の人の存在を願う場合は、「いてほしい」と訳します。
ステップ4 活用形は「下に続く語」で判断
形容詞と同じ型なので、下に体言が続けば連体形(あらまほしき事)、係助詞「こそ」の結びなら已然形(こそ〜住ままほしけれ)、接続助詞「ど」の上も已然形(見たけれど)です。
4. 例文5選(訳つき)
例文1 先達はあらまほしき事なり。(まほし)
少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。(『徒然草』第五十二段)
訳:ちょっとしたことであっても、案内してくれる先導者(指導者)はいてほしいものだ。
ポイント:ラ行変格活用動詞「あり」の未然形「あら」+「まほし」。下に体言「事」が続くので連体形「まほしき」です。自分以外の「先達」の存在を願う、他への願望の代表例です。
例文2 心しづかに住ままほしけれ。(まほし)
深き山の奥にこそ、心しづかに住ままほしけれ。
訳:(できることなら)深い山の奥にこそ、心静かに住みたいものだ。
ポイント:「住ま」は四段動詞「住む」の未然形。係助詞「こそ」の結びで已然形「まほしけれ」になっています(係り結び)。
例文3 聞かまほしう思へど。(まほし・ウ音便)
いかで都の便りを聞かまほしう思へど、たより絶えてなし。
訳:なんとかして都の便りを聞きたいと思うけれど、便りはまったくない。
ポイント:「まほしう」は連用形「まほしく」のウ音便。「聞か」はもちろん未然形です。
例文4 その舟に乗りたし。(たし)
われもその舟に乗りたしと申ししかど、許されず。
訳:私もその舟に乗りたいと申し上げたけれど、許されなかった。
ポイント:「乗り」は四段動詞「乗る」の連用形。連用形に付いているので「たし」だと確認できます。
例文5 われは故郷へ帰りたし。(たし)
われは故郷へ帰りたし。されど世のしがらみ多くして、え帰らず。
訳:私は故郷へ帰りたい。けれども世の中のしがらみが多くて、帰ることができない。
ポイント:話し手自身の希望(自己の希望)です。「え〜ず」は「〜できない」という呼応の表現もテストで問われます。
5. 似ているものとの違い
「まほし」と「たし」の違い ― ここが核心
意味はどちらも希望でほぼ同じ。違いは接続と使われる時代・文体の二点です。
| 項目 | まほし | たし |
|---|---|---|
| 接続 | 未然形 | 連用形 |
| 時代・文体 | 古めかしく優美な文章 | 後の時代の口語的な文章 |
| 活用の型 | シク活用型 | ク活用型 |
記述で「両者の違いを説明せよ」と問われたら、「接続(未然形か連用形か)」と「時代・文体」の二点を書けば答案として十分です。
希望の終助詞「ばや」「てしがな」との違い
同じ「〜たい」でも、「ばや」「てしがな」は文末で言い切る終助詞です。例文にも「いかでこのかぐや姫を得てしがな、見まほしと」「いま一度見ばや」のように、「まほし」と並んで登場します。「まほし・たし」は助動詞なので、形を変えながら文中でも使える点が違います。
現代語「あらまほしい」とのつながり
「あら(ラ変「あり」の未然形)+まほし」=「あってほしい・あるのが望ましい」が、現代語の「あらまほしい(理想的だ・好ましい)」のもとになりました。単語の組み立てごと覚えておくと、「まほし=未然形接続」も一緒に思い出せます。
確認クイズ(3問)
Q1. 助動詞「まほし」の接続として正しいものはどれ?
ア 連用形 イ 終止形 ウ 未然形
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正解:ウ 解説:「まほし」は未然形接続です。「あら(未然形)+まほし」「住ま(未然形)+まほし」のように使われます。
Q2. 「乗りたし」の「乗り」の活用形として正しいものはどれ?
ア 連用形 イ 未然形 ウ 已然形
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正解:ア 解説:「たし」は連用形接続なので、「乗り」は四段動詞「乗る」の連用形です。
Q3. 「深き山の奥にこそ、心しづかに住ままほしけれ」の「まほしけれ」が已然形になっている理由はどれ?
ア 下に体言が続くから イ 係助詞「こそ」の結びだから ウ 命令の意味を表すから
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正解:イ 解説:係助詞「こそ」があると文末は已然形で結びます(係り結び)。そのため「まほしけれ」と已然形になっています。
6. 「まほし」の活用をもっとくわしく
「まほし」は形容詞のシク活用と同じ型で活用します。未然形と連用形には「まほしく」と「まほしから」の二系統があり、これは形容詞の「本活用(〜く・〜き・〜けれ)」と「補助活用(カリ活用:〜から・〜かり・〜かる・〜かれ)」にあたります。ねらいによって使い分けるので、両方を覚えておくと安心です。
- 本活用(まほしく・まほし・まほしき・まほしけれ)…下に用言・助詞などが続くときに使う
- 補助活用(カリ活用)(まほしから・まほしかり・まほしかる)…下に助動詞「ず・けり・べし」などが続くときに使う
たとえば、打消の助動詞「ず」をつなぐときは本活用の連用形ではなく補助活用を使い、「散らまほしからず(=散ってほしくない)」となります。推量の「べし」を下につけるときも「住ままほしかるべし」のように補助活用「まほしかる」を使います。「ず」や「べし」が下に来たら『カリ活用(〜から・〜かる)』と覚えておくと、活用形を選ぶ問題で迷いません。
「たし」もまったく同じしくみで、こちらは形容詞のク活用と同じ型です。本活用(たく・たし・たき・たけれ)と補助活用(たから・たかり・たかる)の二系統があり、「帰りたからず(=帰りたくない)」「行きたかりけり(=行きたかった)」のように使われます。シク活用かク活用かという一字の違いだけで、活用のしくみは「まほし」とそっくりです。
7. 例文をさらに3つ(訳つき)
例文6 いづくにか身をも隠さまほしき(まほし)
- 原文の一節:いづくにか身をも隠さまほしき。
- 現代語訳:いったいどこに我が身を隠したいのだろうか(隠したいものだ)。
ポイント:「隠さ」は四段動詞「隠す」の未然形。下に体言の働きをする「まほしき」(連体形)が来て、疑問の「か」を受けています。未然形+まほし、という基本どおりの形です。
例文7 いま一度逢ひ見まほしう侍り(まほし・ウ音便)
- 原文の一節:いま一度逢ひ見まほしう侍り。
- 現代語訳:もう一度お逢いしたく存じます。
ポイント:「見」は上一段動詞「見る」の未然形。連用形「まほしく」がウ音便で「まほしう」となり、丁寧の補助動詞「侍り」につながっています。会話文や手紙文でよく見られる、やわらかい言い方です。
例文8 この事人に知られたからず(たし)
- 原文の一節:この事、人に知られたからず。
- 現代語訳:このことを、人に知られたくない。
ポイント:「知られ」は受身の助動詞「る」の連用形で、その下に「たし」の補助活用「たから」+打消「ず」が続いています。「知られたからず」で「知られたくない」という否定の希望を表します。連用形+たし、の形が崩れていないことを確認しましょう。
8. つまずきやすいポイント
- 接続を逆に覚えてしまう…「まほし」の「ま」を「未然形」の「未」とむすびつけ、「たし」は連用形と覚えると混乱しません。未然形+まほし/連用形+たし、です。
- 形容詞そのものと取りちがえる…「まほしき」「たき」を形容詞の活用語尾と勘ちがいしやすいですが、直前が動詞などの活用形になっていれば助動詞です。
- 「まほしう」の原形を見失う…ウ音便「まほしう」は連用形「まほしく」がもと。終止形を「まほしう」と書かないように注意します。
- 已然形と命令形を混同する…「まほし」「たし」に命令形はありません。「まほしけれ・たけれ」は已然形で、係助詞「こそ」の結びや接続助詞「ど・ども」の上で使われます。
9. 入試・テストでの問われ方
定期テストや入試では、次のような形で問われます。出題のパターンを知っておくだけで、得点しやすくなります。
- 文法的意味を答える問題…「まほし」「たし」を含む傍線部について「希望(願望)」と答えます。「〜たい・〜てほしい」と訳せることが根拠です。
- 接続を問う問題…「傍線部の直前の活用形を答えよ」「まほしの接続を答えよ」など。未然形・連用形をはっきり区別して答えます。
- 活用形を問う問題…下に続く語から判断します。体言が続けば連体形、「こそ」の結びや「ど」の上なら已然形です。
- 両者の違いを説明する記述問題…「接続(まほしは未然形、たしは連用形)」と「使われる時代・文体」の二点を書けば十分です。
- 現代語訳の問題…自己の希望か他への願望かを見極め、「〜たい」「〜てほしい」を訳し分けます。
10. ミニ練習問題(解答つき)
次の各問に答えましょう。答えはそれぞれの下にあります。
問1 「家にありたき調度ども」の「あり」の活用形を答えなさい。
→ 連用形。「たし」は連用形接続なので、ラ変動詞「あり」の連用形「あり」です。「たき」は下に体言「調度」が続くので連体形です。
問2 「見まほしからず」を現代語訳しなさい。
→ 見たくない。「まほしから」は補助活用の未然形、「ず」は打消です。否定の希望になります。
問3 「いかで聞かまほしけれ」の「まほしけれ」が已然形である理由を答えなさい。
→ 文中に係助詞「こそ」があり、その結びとして已然形になっている(係り結び)。※「いかで〜こそ」のように「こそ」を補って読む文脈です。
問4 「まほし」と「たし」の活用の型を、それぞれ形容詞の何活用と同じか答えなさい。
→ まほし=シク活用型、たし=ク活用型。
11. よくある質問(Q&A)
Q. 「まほし」と「たし」は意味が同じなら、どちらを使ってもいいのですか?
A. 意味はほぼ同じですが、文体に差があります。「まほし」は平安時代以来の古めかしく優美な文章で多く使われ、「たし」はそれより後の時代の、やや口語的な文章に多く現れます。読解では文章の時代や雰囲気をつかむヒントにもなります。
Q. 「あらまほし」はなぜ「いてほしい・あるのが望ましい」と訳すのですか?
A. ラ変動詞「あり」の未然形「あら」に「まほし」が付いた形だからです。「あってほしい」が中心の意味で、人や物が存在することを願う言い方になります。現代語の「あらまほしい(理想的だ)」のもとでもあります。
Q. 命令形が「○」になっているのはどういう意味ですか?
A. その活用形が存在しない、ということです。希望を表す助動詞に命令の形は必要ないため、「まほし」「たし」には命令形がありません。表の「○」は「この形はない」という印だと覚えておきましょう。
Q. 「〜たい」と訳せても希望の助動詞でないことはありますか?
A. あります。終助詞「ばや」「てしがな」「もがな」なども「〜たい・〜であればなあ」と願望を表します。これらは文末で言い切る終助詞で、動詞などのように活用しません。形が「まほし・たし」かどうか、直前の接続もあわせて確認しましょう。
まとめ
- 意味はどちらも希望「〜たい・〜てほしい」。基本は自己の希望、ときに他への願望。
- 接続は未然形+まほし/連用形+たし。ここが最大の見分けどころ。
- 活用は形容詞と同じ。まほし=シク活用型/たし=ク活用型。本活用と補助活用(カリ活用)の二系統がある。
- 「ず・べし」などが下に続くときは補助活用(〜から・〜かる)を使う。
- 命令形はない。「まほしけれ・たけれ」は已然形(こそ・ど・どもとともに)。
- 「まほしう」は連用形「まほしく」のウ音便。原形を見失わない。
接続の違い一点をしっかり押さえれば、「まほし・たし」はテストで確実に得点できる単元です。例文を声に出して読み、未然形+まほし/連用形+たしのリズムを体になじませておきましょう。
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