古文の「せ」一文字には、まったく別の3つの正体が隠れています。どれと取り違えても文意が逆転する怖さがあります。

「せ」って何個あるの…?混乱する!

3つだけだよ。過去助動詞「き」の未然形、使役・尊敬「す」、サ変動詞「す」の未然形。直前と直後を見れば一発判定できる。
この記事では「せ」の識別を、最終確認できる早見表 → 全体像を整理する判別フローチャート → 3つの正体を一覧するSTEP 0 → 本丸のSTEP 1・2 → 例文で仕上げるSTEP 3、の順で解説します。読み終えれば「せ」の判別で迷うことはほぼなくなります。
【結論】古文「せ」の識別、これで完結

「せ」の判別は、直前と直後の2点を見るだけ。原則は2本柱、それ以外がサ変動詞「す」の未然形です。
- 直後が「ば」+後ろに「まし」 → 過去助動詞「き」の未然形(反実仮想・もし〜たならば)
- 直前が四段・ナ変・ラ変動詞の未然形+せ → 使役・尊敬の助動詞「す」(〜させる/〜なさる)
- 直前が体言・副詞・助詞 → サ変動詞「す」の未然形(〜する)
使役・尊敬の「す」は四段・ナ変・ラ変動詞の未然形にしか接続しません。それ以外の動詞には「さす」(形は「させ」)が接続するので、活用の種類とセットで覚えてください。
「せ」の識別:判別フローチャート【図解】

まず直前と直後を必ずセットで確認します。確認順は次の3分岐です。
- 直後が「ば」「まし」 → 過去助動詞「き」の未然形。訳「もし〜たならば」。反実仮想と組み合わせるのが特徴。
- 直前が四段・ナ変・ラ変の未然形 → 使役・尊敬の助動詞「す」。訳「〜させる/〜なさる」。
- 直前が体言・副詞・助詞 → サ変動詞「す」の未然形。訳「〜する」。
分岐①と②は決定打が明確(「まし」「四段ナ変ラ変未然形」)なので先に判定し、どちらにも当てはまらなければ③のサ変動詞、と機械的に振り分けるのがポイントです。
【STEP 0】「せ」の3つの正体早見表

STEP 1・2に進む前に、「せ」が取りうる3つの正体を一覧で頭に入れておきます。直前と直後をセットで確認すれば、必ずこのどれかに収まります。
- ①過去助動詞「き」未然形:直後に「ば」「まし」があるか確認。例「せましかば」
- ②使役・尊敬助動詞「す」:直前は四段・ナ変・ラ変の未然形。例「走らせ」
- ③サ変動詞「す」未然形:直前は体言・副詞・助詞。例「何もせず」
STEP 1で①、STEP 2で②を順に固め、残った③は最後にまとめて押さえます。①→②→残りはサ変、という確認順がいちばん速く判定できる流れです。
【STEP 1】「ば」「まし」を見たら過去「き」未然形

過去助動詞「き」の未然形「せ」は、「せ+ば」の形で、後ろに反実仮想の助動詞「まし」を伴うときに使われます。直後に「ば」「まし」を見たら、もうそれ以上迷わず過去助動詞「き」の未然形と即決できます。
- 訳:もし〜たならば(反実仮想・現実と逆の仮定)
- 典型形:「〜せましかば〜まし」「〜せましものを」
- 直後:「ば」または「まし」が必須
例:「せましかば」は「もしそうであったならば」、「せましものを」は「そうしておけばよかったのに」というニュアンス。「まし」とセットで使われる「せ」は、後悔・残念・現実と逆の仮定を表す重要表現です。
「せば」だけ見て決めない
サ変「す」の未然形+接続助詞「ば」も「せば」になります。後ろに「まし」があるかどうかで決定。「まし」があれば過去助動詞、なければサ変。
【STEP 2】四段ナ変ラ変未然形+せ=使役・尊敬の「す」

直前が四段・ナ変・ラ変動詞の未然形(ア段の音)なら、その「せ」は使役・尊敬の助動詞「す」です。意味は使役(〜させる)か尊敬(〜なさる)のどちらか。
- 訳:〜させる/〜なさる
- 主体が貴人で、二重尊敬の形(〜せ給ふ)なら尊敬(使役の対象がない)
- 使役の対象(誰に〜させる)が文脈にあるなら使役
例文:「走らせ給ふ」(尊敬「お走りになる」)、「折らせ給ふ」(使役「折らせる」)、「あらせ給ふ」(尊敬「いらっしゃる」/文脈により「お置きになる」「もうけられる」と訳す場合あり)。使役か尊敬かは主体(誰の動作か)で判断します。
未然形か連用形かの区別は直後の語で判定します。直後が「ず」なら未然形(「せず」)、「て・けり・つ」なら連用形(「せて」「せけり」)。
「す」と「さす」の使い分け
「す」は四段・ナ変・ラ変のみ接続。それ以外の動詞(上一段・上二段・下一段・下二段・カ変)には「さす」が接続し、形は「させ」になります。
もうひとつの正体:サ変動詞「す」の未然形
STEP 1・STEP 2のどちらにも当てはまらない「せ」は、サ変動詞「す」の未然形です。「す」は現代語の「する」にあたり、活用は「せ/し/す/する/すれ/せよ」。未然形が「せ」です。
- 「何もせず」 → 何もしないで
- 「かくせん」 → こうしよう
- 「つゆもせで」 → 少しもしないで
直前が体言(名詞)・副詞・助詞でSTEP 1・STEP 2に該当しなければ、サ変動詞「す」の未然形と判断します。「せ」の3つの正体のなかでももっとも素直な用法です。
【STEP 3】例文5選で総仕上げ

3つの正体を5つの例文で一気に確認します。直前と直後を1つずつセットで見て、過去助動詞・使役尊敬・サ変動詞のどれかを瞬時に判定しましょう。
例文1:せ『まし』かば嬉し
正体:過去助動詞「き」の未然形 訳:もし〜たならば嬉しい
直後に「まし」あり。反実仮想の典型形。過去助動詞「き」の未然形+ば+まし=「もし〜たならば」。
例文2:歌詠ま『せ』給ふ
正体:使役・尊敬助動詞「す」 訳:歌をお詠みになる
「詠ま」は四段動詞「詠む」の未然形。四段未然形+せ=使役・尊敬の助動詞「す」。後ろに尊敬「給ふ」を伴うので、ここは尊敬の用法。
例文3:何も『せ』ず
正体:サ変動詞「す」の未然形 訳:何もしない
直前は係助詞「も」。STEP 1・STEP 2に該当しないので、サ変動詞「す」の未然形+打消助動詞「ず」と判定。
例文4:あら『せ』給ふ
正体:使役・尊敬助動詞「す」 訳:(〜を)お置きになる/お設けになる
「あら」はラ変動詞「あり」の未然形。ラ変未然形+せ=使役・尊敬の「す」。「あらせ給ふ」は文脈により「(〜を)お置きになる」「お設けになる」など使役で訳すのが基本。安易に尊敬と断定しないこと。
例文5:つゆも『せ』で
正体:サ変動詞「す」の未然形 訳:少しもしないで
「つゆも」は副詞「つゆ」+係助詞「も」。直前が副詞・助詞のためサ変動詞「す」の未然形+打消「で」と判定。「つゆ」は打消と呼応して「少しも〜ない」の意味になる定番の副詞。
テスト直前|「せ」3秒チェックリスト
- □ 直後に「ば」+後ろに「まし」? → 過去助動詞「き」の未然形(反実仮想)
- □ 直前の動詞は四段・ナ変・ラ変の未然形(ア段)? → 使役・尊敬「す」
- □ 直後が「ず」なら未然形、「て・けり」なら連用形
- □ 直前が体言・副詞・助詞? → サ変動詞「す」の未然形
- □ 上一段・上二段・下二段・カ変の後ろは「させ」(「さす」)になる
3つの「せ」を活用表で見比べる
「せ」が3つの正体に分かれる根っこは、それぞれが別々の単語の、別々の活用形だからです。同じ「せ」という音でも、もとの単語の活用表を並べてみると、どこに位置する「せ」なのかがはっきりします。下の3つを見比べてみましょう。
- 過去の助動詞「き」:せ/〇/き/し/しか/〇(未然・連用・終止・連体・已然・命令)。活用が特殊で、未然形が「せ」、連体形が「し」、已然形が「しか」。このうち未然形「せ」は反実仮想以外ではまず使われません。
- 使役・尊敬の助動詞「す」:せ/せ/す/する/すれ/せよ(下二段型)。未然形も連用形も「せ」で同じ形なので、どちらかは直後の語で見分けます。
- サ変動詞「す」:せ/し/す/する/すれ/せよ。未然形が「せ」。現代語の「する」にあたる、いちばん身近な「せ」です。
こうして並べると、3つの「せ」はすべて未然形(または使役・尊敬では未然形・連用形)に集中していることが分かります。だからこそ「せ」の直後には未然形・連用形に続く語(「ば」「ず」「給ふ」「て」など)が来やすく、その直後の語が見分けの大きな手がかりになるのです。
なぜ反実仮想だけ「き」の未然形が出るのか
過去の助動詞「き」は、ふだんは「き(終止)」「し(連体)」「しか(已然)」の形でよく出てきます。「来し方(こしかた)」「ありしままに」などはその例です。ところが未然形「せ」だけは、ほぼ反実仮想(事実に反する仮定)の表現に限られます。これは、未然形が接続助詞「ば」と結びついて「もし〜たならば」という、現実とは逆の仮定を作るからです。
反実仮想は「もし〜だったら、〜だっただろうに(実際はそうでなかった)」という、後悔や残念さをにじませる言い回しです。古文では「ませば〜まし」「せば〜まし」「ましかば〜まし」の3つの型が代表的で、「き」の未然形「せ」はこのうち「せば〜まし」の前半をになっています。「まし」とセットになっているかどうかが、過去の「き」かどうかを決める最大の決め手だと覚えておきましょう。
- 世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし(古今集・在原業平)…「もしこの世にまったく桜がなかったならば、春を過ごす人の心はのどかであっただろうに」。「なかりせば〜まし」の典型です。
この一首は反実仮想の代表例として入試でもよく取り上げられます。「なかりせば」の「せ」が過去の助動詞「き」の未然形だと見抜けるかどうかが問われます。後ろに「まし」(のどけからまし)があるのが決め手です。
入試・定期テストでの問われ方
「せ」は文法問題の定番です。実際の試験では、次のような形で問われます。出題パターンを知っておけば、どこに注目すればよいかが先に分かります。
- 文法的意味・品詞を答えさせる:傍線部の「せ」が「助動詞か動詞か」「助動詞なら何の助動詞の何形か」を問う形。直前と直後を確認して答えます。
- 使役か尊敬かを答えさせる:四段・ナ変・ラ変未然形+「せ給ふ」の形で、その「す」が使役か尊敬かを問う形。動作の主体が貴人で、させる相手がいなければ尊敬、誰かにさせている文脈なら使役と判断します。
- 現代語訳・反実仮想の理解:「せば〜まし」を含む和歌や一文の口語訳を求める形。「もし〜たならば、〜だっただろうに」と訳せるかがカギです。
とくに②の「使役か尊敬か」は差がつきやすいポイントです。「せ給ふ」「させ給ふ」の形は二重尊敬(最高敬語)として、天皇や中宮など特別に身分の高い人物の動作に使われることが多く、その場合は尊敬です。一方、家来や女房など別の人に動作をさせていることが文脈から読み取れれば使役です。迷ったら「誰が・誰に・何をさせているか」を文の前後から探しましょう。
つまずきやすいポイント3つ
「せ」の識別でつまずく原因はだいたい決まっています。次の3点を意識すると、ケアレスミスがぐっと減ります。
- 「せば」だけで過去と決めつける:サ変「す」の未然形+接続助詞「ば」も「せば」になります(例「何もせば」)。後ろに「まし」があるかを必ず確認しましょう。「まし」がなければ過去の「き」ではありません。
- 「す」と「さす」を混同する:使役・尊敬の「す」は四段・ナ変・ラ変にしか付きません。それ以外(上一段・上二段・下一段・下二段・カ変)には「さす」が付き、形は「させ」になります。「見させ給ふ」「受けさせ給ふ」のように、直前の動詞の種類で「せ」か「させ」かが変わります。
- サ変「す」を見落とす:①②に当てはまらない「せ」はサ変動詞の未然形です。直前が体言・副詞・助詞のときは、まずサ変を疑いましょう。「ものせ」「具せ」などサ変を含む複合語も同じ扱いです。
ミニ練習問題(解答つき)
ここまでの内容を、3問で確認しましょう。まず自分で正体を考えてから、解答を見てください。
- 帝、笛吹かせ給ふ。…傍線部「せ」の文法的意味は?
- かばかりにせば足りなまし。…傍線部「せ」は何の何形か?
- われは何もせで日を暮らす。…傍線部「せ」は何の何形か?
- 使役・尊敬の助動詞「す」。直前「吹か」は四段動詞「吹く」の未然形。後ろに尊敬「給ふ」があり、主体が貴人(帝)なので尊敬(笛をお吹きになる)と取るのが自然。
- 過去の助動詞「き」の未然形。後ろに「まし」(足りなまし)があるので反実仮想。「これくらいにしておけば足りただろうに」。
- サ変動詞「す」の未然形。直前が係助詞「も」で、後ろに「まし」もなく、四段等の未然形でもない。「何もしないで」。
よくある質問(Q&A)
Q. 「せ」と「させ」はどう違うのですか?
A. もとになる助動詞が違います。「せ」は使役・尊敬「す」の形で、四段・ナ変・ラ変の動詞に付きます。「させ」は使役・尊敬「さす」の形で、それ以外の動詞(上一段・上二段・下一段・下二段・カ変)に付きます。直前の動詞の種類で自動的に決まると考えてください。
Q. 使役か尊敬かを見分ける一番のコツは?
A. 「させる相手(使役の対象)」が文中にいるかどうかです。「家来に〜せ給ふ」のように動作をさせる相手がいれば使役、相手がおらず貴人自身の動作なら尊敬です。「せ給ふ」「させ給ふ」の二重尊敬は、天皇や中宮など最高位の人物に使われることが多いと覚えておくと判断しやすくなります。
Q. 過去の「き」の未然形「せ」は反実仮想以外に出ませんか?
A. 高校古文で出会う範囲では、未然形「せ」はほぼ反実仮想「せば〜まし」に限られます。終止形「き」・連体形「し」・已然形「しか」はふつうの過去でよく使われますが、未然形「せ」を見たら「まし」とのセットをまず探すのが正解です。
まとめ|「せ」は3つの正体を順に確認
「せ」の識別は3ステップ。①後ろに「まし」? ②直前は四段・ナ変・ラ変の未然形? ③どちらでもなければサ変動詞「す」。この順で機械的に判定すれば迷いません。
特に頻出は「せましかば〜まし」の反実仮想と、四段未然形+使役・尊敬の「せ」。この2つだけで入試出題のほとんどをカバーできます。
例文を声に出して何度も読み、「直前→直後→正体」の反応を体に染み込ませてください。テスト直前のチェックリストを見直せば、本番で迷うことはありません。
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