なぜ古文の敬語が入試で大事なのか
古文の敬語は、入試でも定期テストでもとてもよくねらわれるところです。理由は大きく2つあります。
1つめは、敬語が「だれの動作か」「だれがえらいか」を教えてくれるからです。古文は主語(だれが、の部分)がよく省略されます。「言ふ」ではなく「のたまふ」と書いてあれば、それだけで「身分の高い人が言った」とわかります。つまり敬語は、省略された主語をさがすための大きなヒントになるのです。
2つめは、敬語そのものをたずねる問題が定番だからです。「この敬語の種類は?」「だれからだれへの敬意か(=敬意の方向)?」といった設問は、入試・定期テストの両方で毎年のように出ます。
敬語には大きく3種類あります。尊敬語(動作をする人を高める)、謙譲語(動作を受ける相手を高める)、丁寧語(聞き手・読み手を高める)です。さらに、それ自体で動詞になる本動詞(「言ふ」のかわりに「のたまふ」)と、ほかの動詞のうしろにくっつく補助動詞(「申し給ふ」の「給ふ」)のちがいも重要です。この記事では、入試で出る本動詞を中心に、3種類に分けて一覧で整理します。最後に補助動詞・最高敬語・絶対敬語もまとめます。
※敬語の種類を見分けるコツは敬語の識別、だれからだれへの敬意かは二方向への敬語でくわしく説明しています。あわせて読むと理解が深まります。
尊敬語の本動詞(動作をする人を高める)
尊敬語は、その動作をする人(主語)をうやまう言い方です。「いらっしゃる」「おっしゃる」のように、えらい人の動作をワンランク上の言葉で表します。古文を読むときは、尊敬語が出てきたら「主語は身分の高い人だな」と考えるのがポイントです。
| 敬語動詞 | もとの動詞 | 入試の訳 | 注意・識別ポイント |
| おはす | あり・居り・行く・来 | いらっしゃる・おいでになる | 「ある・いる・行く・来る」のどれにあたるかは文脈で決める |
| おはします | あり・居り・行く・来 | いらっしゃる(「おはす」より敬意が高い) | 補助動詞で「〜ていらっしゃる」にもなる |
| のたまふ | 言ふ | おっしゃる | 「言ふ」の尊敬。謙譲の「申す」と必ず区別する |
| のたまはす | 言ふ | おっしゃる(「のたまふ」より敬意が高い) | きわめて身分の高い人の発言に使われる |
| 仰す(おほす) | 言ふ・命ず | おっしゃる・お命じになる | 目下に「命じる」意味でよく使う。「仰せらる」の形も頻出 |
| 給ふ・賜ふ(四段) | 与ふ | お与えになる・くださる | 四段は尊敬。下二段の「給ふ」は謙譲なので要注意(後述) |
| 召す(めす) | 呼ぶ・取り寄す・食ふ・飲む・着る・乗るなど | お呼びになる・お取り寄せになる・召し上がる・お召しになる・お乗りになる | 意味が多い。何を「召す」のかで訳し分ける |
| 聞こしめす | 聞く・食ふ・飲む・治む | お聞きになる・召し上がる・お治めになる | 謙譲の「聞こゆ」と形が似るが、こちらは尊敬。混同注意 |
| 思す(おぼす)・思し召す(おぼしめす) | 思ふ | お思いになる | 「思し召す」のほうが敬意が高い |
| 御覧ず(ごらんず) | 見る | ご覧になる | 「見る」の尊敬。サ変動詞 |
| あそばす | す(=する) | なさる | とくに詩歌・管弦などを「なさる」場面で使われる |
| 大殿籠る(おほとのごもる) | 寝(ぬ)・寝(い)ぬ | お休みになる・おやすみになる | 「寝る」の尊敬。読みに注意 |
とくにまちがえやすいのが「のたまふ(尊敬)」と「申す(謙譲)」、そして「聞こしめす(尊敬)」と「聞こゆ(謙譲)」です。形やもとの動詞が似ているので、動作をする人を高めるのか(尊敬)/受ける相手を高めるのか(謙譲)で必ず区別しましょう。
謙譲語の本動詞(動作を受ける相手を高める)
謙譲語は、動作を受ける相手(だれかに対してする動作の、その相手)をうやまう言い方です。「申し上げる」「差し上げる」のように、自分側の動作をへりくだって表すことで、相手を高く見せます。読むときは「だれに対してその動作をしているか」を考えると、敬意の方向がつかめます。
| 敬語動詞 | もとの動詞 | 入試の訳 | 注意・識別ポイント |
| 申す(まうす) | 言ふ | 申し上げる | 「言ふ」の謙譲。尊敬の「のたまふ」と区別 |
| 聞こゆ(きこゆ) | 言ふ | 申し上げる | 「自然と聞こえる」という普通の動詞の意味もある。文脈で判断 |
| 聞こえさす | 言ふ | 申し上げる(「聞こゆ」より敬意が高い) | 「聞こゆ」を強めた、より丁重な言い方 |
| 奏す(そうす) | 言ふ(申し上げる相手が決まっている) | (帝・上皇に)申し上げる | 相手が帝・上皇に限定される絶対敬語(後述) |
| 啓す(けいす) | 言ふ(申し上げる相手が決まっている) | (中宮・東宮に)申し上げる | 相手が中宮・東宮(皇后・皇太子)に限定される絶対敬語 |
| 奉る(たてまつる) | 与ふ・贈る | 差し上げる | 尊敬で「召し上がる・お召しになる・お乗りになる」の意味になることもある。文脈で判断 |
| 参らす(まゐらす) | 与ふ | 差し上げる | 補助動詞で「〜申し上げる」にもなる |
| 参る(まゐる) | 行く・来・与ふ・食ふ・飲む | 参上する・差し上げる・召し上がる | 「召し上がる」は尊敬の意味。何の動作かで訳し分ける |
| まうづ(詣づ) | 行く・来 | 参上する・参詣する | 高貴な人のもとや社寺へ「参る」意味 |
| まかる(罷る)・まかづ(罷づ) | 出づ・行く・来 | 退出する・(高貴な所から)おいとまする・参ります | 「参る」と逆で、貴人のもとから下がる動き |
| 賜る・給はる(たまはる) | 受く・もらふ | いただく・頂戴する | 「お与えになる(給ふ・四段)」とは方向が逆。読みが同じ「たまはる」でも意味は「いただく」 |
| 仕うまつる・つかまつる | 仕ふ・す(=する) | お仕えする・して差し上げる | 「す」の謙譲として「いたす」の意味にもなる |
| 侍り(はべり)・候ふ(さぶらふ/さうらふ) | あり・仕ふ | お控え申し上げる・お仕えする・伺候する | 貴人のそばに「ひかえる」意味。丁寧語の用法もある(後述) |
謙譲語でいちばん大事なのは「給ふ(四段=尊敬・お与えになる)」と「賜る/給はる(謙譲=いただく)」の方向のちがいです。前者はえらい人が「くださる」、後者は自分が「いただく」――物の動く向きが逆です。設問でもよく問われるので、セットで覚えましょう。
丁寧語の本動詞(聞き手・読み手を高める)
丁寧語は、話の聞き手や文章の読み手に対して、ていねいに述べる言い方です。現代語の「です・ます」にあたります。丁寧語の本動詞は「侍り」「候ふ」の2つだけと考えてかまいません。
| 敬語動詞 | もとの動詞 | 入試の訳 | 注意・識別ポイント |
| 侍り(はべり) | あり・居り | あります・おります・ございます | 謙譲(お控えする)か丁寧(あります)かを文脈で見分ける |
| 候ふ(さぶらふ/さうらふ) | あり・居り | あります・おります・ございます | 会話文に多い。これも謙譲・丁寧の両用法あり |
「侍り」「候ふ」は謙譲語にも丁寧語にもなるのがやっかいです。見分け方の目安は次のとおりです。「あり・居り」の意味(ある・いる)で会話文に使われていれば丁寧(あります・ございます)、「貴人のそばにひかえる・お仕えする」意味なら謙譲、と考えると整理できます。補助動詞として「〜です・〜ます」にあたるはたらきをするときも丁寧です。
補助動詞・最高敬語・絶対敬語
補助動詞の敬語
同じ語でも、ほかの動詞のうしろについて敬意だけをそえる使い方を補助動詞といいます。意味は「いらっしゃる」「差し上げる」のようには訳さず、「〜なさる」「〜申し上げる」「〜です/ます」のように軽くそえて訳します。
| 種類 | おもな補助動詞 | そえる訳 |
| 尊敬 | 〜給ふ(四段)・〜おはします・〜おはす | 〜なさる・〜ていらっしゃる |
| 謙譲 | 〜奉る・〜聞こゆ・〜参らす・〜申す | 〜申し上げる・お〜する |
| 丁寧 | 〜侍り・〜候ふ | 〜です・〜ます・〜ございます |
ここで最重要なのが「給ふ」の四段(尊敬)と下二段(謙譲)の区別です。
- 四段の「給ふ」=尊敬の補助動詞。「〜なさる」。本動詞なら「お与えになる」。活用は「給は/給ひ/給ふ/給ふ/給へ/給へ」。会話でも地の文でも広く使う。
- 下二段の「給ふ」=謙譲の補助動詞。「〜(させて)いただく」「〜ております」のように、自分の動作にそえる。活用は「給へ/給へ/給ふ/給ふる/給ふれ/○」。「思ひ給ふ」「見給ふ」など、思ふ・見る・聞く・知るなど自分の心の動作につき、会話文・手紙にのみ現れるのが見分けの目安。
この四段・下二段の見分けは入試頻出です。活用の形(とくに連体形「給ふる」・已然形「給ふれ」が出たら下二段=謙譲)で判断しましょう。
最高敬語(二重敬語)
最高敬語(二重敬語)とは、敬語を2つ重ねて、最高ランクの敬意を表す言い方です。帝(天皇)・中宮・上皇など、ごく一部の最高位の人に使われます。代表的な形は次のとおりです。
| 形 | なりたち | 訳 |
| せ給ふ | 尊敬の助動詞「す」+尊敬「給ふ」 | 〜なさる・お〜になる(最高の敬意) |
| させ給ふ | 尊敬の助動詞「さす」+尊敬「給ふ」 | 〜なさる・お〜になる(最高の敬意) |
| しめ給ふ | 尊敬の助動詞「しむ」+尊敬「給ふ」 | 〜なさる(おもに漢文訓読系の文章) |
| おはします | それ自体が高い敬意をもつ尊敬語 | いらっしゃる(高い敬意) |
注意したいのは「せ給ふ」「させ給ふ」の見分けです。「す・さす」には本来「(人に)〜させる」という使役の意味もあります。あとに尊敬「給ふ」が続いていても、文の意味が「〜させなさる」と使役で通るなら使役+尊敬、使役にならず一人の動作なら最高敬語です。「だれかにさせている」のか「ご本人の動作を最高に高めているだけ」なのかを、文脈で確かめましょう。
絶対敬語(奏す・啓す)
絶対敬語とは、申し上げる相手が決まっている特別な謙譲語です。相手の身分が文中に書かれていなくても、その語が使われているだけで相手がだれかわかります。
- 奏す(そうす)=帝(天皇)・上皇に申し上げる。
- 啓す(けいす)=中宮・東宮(皇后・皇太子)に申し上げる。
つまり「奏す」が出てきたら相手は帝か上皇、「啓す」が出てきたら相手は中宮か東宮と確定します。だれに対する敬意かを問う設問のかっこうの的になるので、必ず覚えましょう。くわしくは絶対敬語(奏す・啓す)でも解説しています。
入試・定期テスト対策(敬意の方向の問い)
敬語の設問でいちばん多いのが「だれからだれへの敬意か(敬意の方向)」を問うものです。考え方の手順は決まっています。
- だれが敬意を表しているか(敬意の主=送り手)を決める。…地の文(説明部分)なら作者、会話文ならその話し手。
- だれへの敬意か(受け手)を、敬語の種類で決める。
- 尊敬語→その動作をする人(主語)への敬意。
- 謙譲語→その動作を受ける相手への敬意。
- 丁寧語→聞き手・読み手への敬意(会話なら聞き手、地の文なら読者)。
たとえば、地の文で身分の高い人の動作に尊敬語が使われていれば「作者から、その動作主への敬意」。会話文で話し手が相手に謙譲語を使っていれば「話し手から、動作を受ける相手への敬意」となります。1つの文に尊敬と謙譲が両方あれば、動作主と受け手の両方に同時に敬意を表す二方向への敬語になります(くわしくは二方向への敬語へ)。
よく出る設問のかたちを挙げておきます。
- 傍線部の敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えよ。
- 傍線部はだれからだれへの敬意か。
- 傍線部の「給ふ」は四段(尊敬)か下二段(謙譲)か。活用や文脈を根拠に答えよ。
- 「奏す」「啓す」から、申し上げる相手はだれか。
- この敬語から、省略された主語はだれと判断できるか。
これらはどれも、この記事の一覧表を覚えていれば対応できます。「敬語の種類→敬意の方向」の手順を体にしみこませることが、得点アップの近道です。見分けの細かいコツは敬語の識別もあわせて確認してください。
まとめ
- 敬語は省略された主語をさがすヒントであり、設問でも頻出。だから入試で重要。
- 尊敬語=動作をする人を高める。おはす・のたまふ・仰す・給ふ(四段)・召す・聞こしめす・思す・御覧ず・あそばす・大殿籠るなど。
- 謙譲語=動作を受ける相手を高める。申す・聞こゆ・奉る・参る・まうづ・まかる・賜る(給はる)・仕うまつる・侍り/候ふなど。
- 丁寧語=聞き手・読み手を高める。本動詞は侍り・候ふの2つ。
- 給ふは四段=尊敬/下二段=謙譲。活用の形で見分ける(連体「給ふる」・已然「給ふれ」は下二段)。
- 最高敬語=せ給ふ・させ給ふ・おはしますなど、最高位の人への二重の敬意。使役との区別に注意。
- 絶対敬語=奏す(帝・上皇へ)/啓す(中宮・東宮へ)。相手が決まっている。
- 設問は「種類→敬意の方向」の順で考えると確実に解ける。

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