漢文の句法のなかで、ものごとをくらべる(比較)・えらぶ(選択)・かぎる(限定)を表すのが、ここで学ぶ3つのグループです。日本語の「AよりBがよい」「AよりむしろB」「ただAだけ」にあたる言い方で、共通テストや定期テストの現代語訳・書き下し問題でよく問われます。目印になる字を覚えてしまえば、その場で意味が取れるようになります。
まずは下の句法マップで、それぞれの目印(如・莫如・与其〜寧・孰・唯〜のみ)と意味を大づかみにつかみましょう。

比較・最上――「AよりBがよい」「Bが一番」
比較は、ふたつのものをくらべて優劣を言う表現です。代表的な句形は次の3つです。
- A 不如 B(A、Bに如(し)かず) … AはBに及ばない=Bの方がよい
- A 〜(形容詞) 於(于)B … AはBより〜だ(「於・于」が比較の目印)
- 〜 莫如(莫若)B(〜、Bに如くは莫し) … 〜にはBが一番だ(最上)
ポイントは「如(しかず)」と「於(より)」です。「不如」は「及ばない=下の方が上」という上下関係を、「於+形容詞」は「〜より…だ」という比較を表します。「莫如(〜に如くは莫し)」は不如をさらに強めた言い方で、「これ以上のものはない=一番だ」という最上の意味になります。

例文1(比較):百聞不如一見。
→(書き下し)百聞は一見に如かず。
→(現代語訳)何度も聞くことは、一度実際に見ることに及ばない。
例文2(比較):青出於藍、而青於藍。
→(書き下し)青は藍より出でて、藍よりも青し。
→(現代語訳)青色は藍という草から取るが、もとの藍よりも青い(弟子が師を超えるたとえ)。
例文3(最上):立身莫如学。
→(書き下し)身を立つるは学ぶに如くは莫し。
→(現代語訳)世に出て身を立てるには、学問にまさるものはない。
選択――「AよりむしろB」「どちらが〜か」
選択は、ふたつのうち一方を選ぶ言い方です。次の形を覚えましょう。
- 与(よ)其 A、寧(むし)ろ B(其のAせんよりは、寧ろB) … AするよりむしろBする方がよい
- A 孰(いづ)れか 〜 … AとBではどちらが〜か(疑問・選択)
「与其〜寧…」は「前者を捨てて後者を選ぶ」決まり文句で、後ろの「寧ろ」のほうが言いたいことです。「孰」は「どちらが」と二つ(以上)を比べて問う字で、選択の文によく出てきます。

例文1(選択):礼、与其奢也、寧倹。
→(書き下し)礼は、其の奢らんよりは、寧ろ倹せよ。
→(現代語訳)礼儀は、ぜいたくにするよりは、むしろ質素にする方がよい。
例文2(選択・疑問):礼与食孰重。
→(書き下し)礼と食と孰れか重き。
→(現代語訳)礼儀と食事とでは、どちらが大切か。
限定――「ただAだけ」
限定は、範囲を「それだけ」とかぎる言い方です。文の上に置く字と、文の末に置く字の二通りがあります。
- 唯(惟)・但・独・徒・直 + A … ただAだけ(文頭・文中で「ただ」と読む)
- 〜のみ(耳・已・而已・爾) … 文末に置いて「〜だけだ」と限定を締めくくる
上の「唯・但・独」などと、文末の「のみ」が呼応して「ただ〜だけだ」を作ることも多いので、文の最後まで目を通す習慣をつけましょう。
例文1(限定):唯仁者愛人。
→(書き下し)唯だ仁者のみ人を愛す。
→(現代語訳)ただ思いやりのある人だけが、他人を愛することができる。
例文2(文末の限定):直不百歩耳。
→(書き下し)直だ百歩ならざるのみ。
→(現代語訳)ただ百歩でないだけだ(五十歩も百歩も逃げたことに変わりはない=「五十歩百歩」の一節)。
例文3(文頭+文末の呼応):独学而無友、則孤陋而寡聞。
→(書き下し)独り学びて友無ければ、則ち孤陋にして寡聞なり。
→(現代語訳)ひとりだけで学んで仲間がいなければ、見識がせまく、聞くことも少なくなる。「独(ひとり〜のみ)」が限定の合図になっています。
もう一歩くわしく――まぎらわしい形の整理
比較・選択・限定には、似た形でまぎらわしいものがいくつかあります。ここで整理しておきましょう。
① 「不如」と「莫如」の違い。 「A不如B(AはBに如かず)」は二つを比べて「Bの方がよい」と言う比較です。いっぽう「莫如B(Bに如くは莫し)」は「Bにまさるものはない」とすべての中で一番だと言う最上です。「莫」は「〜なものはない」という全否定の字なので、最上になると覚えましょう。
② 「与其A、寧B」と「寧A、無(毋)B」。 どちらも選択ですが、前者は「AよりむしろB」、後者は「いっそAしても、Bするな」という形です。共通するのは「寧(むしろ)」が話し手のおすすめを表すという点です。「寧」を見たら、その近くに本当に言いたいことがある、と考えてください。
例文(最上):知臣莫若君。
→(書き下し)臣を知るは君に若くは莫し。
→(現代語訳)家臣のことを知るのは、主君にまさる者はいない。「莫若」も「莫如」と同じく最上を表します。
目印と意味(まとめ表)
| 句形 | 目印 | 訳 |
|---|---|---|
| 比較 | 不如・不若 | AはBに如かず(Bがよい) |
| 最上 | 莫如・莫若 | 〜に如くは莫し(〜が一番) |
| 選択 | 孰・孰若 | いづれか(どちらが) |
| 限定 | 唯・独…のみ | ただ〜だけ |
例文で確認

- 百聞不如一見 → 百聞は一見に如かず (何度も聞くより一度見る方がよい)=比較
- 立身莫如学 → 身を立つるは学ぶに如くは莫し (身を立てるには学問が一番)=最上
- 唯仁者愛人 → 唯だ仁者のみ人を愛す (ただ仁者だけが人を愛せる)=限定
つまずきやすいポイント・入試での問われ方
- 「不如」を「〜のようでない」と訳さない。 「如かず」は「及ばない」の意味で、上下・優劣を表します。「Bの方がよい」と読み替えるのがコツです。
- 比較の「於(于)」は読まない置き字だが、訳に「より」を補う。 「青於藍」は「藍より青し」と、形容詞の前の「於」を「より」と訳します。
- 「与其〜寧…」は後ろが主役。 「寧ろ」のあとが本当に言いたいことなので、前半を選んでしまう誤読に注意します。
- 限定は文末の「のみ」まで確認する。 文頭の「唯」を見落としても、文末の「耳・のみ」で限定だと気づけます。
入試では「傍線部を書き下し文にせよ」「現代語訳せよ」のほか、「ここで使われている句法を答えよ」と直接問われることもあります。目印の字を見つける → 句法を判定する → 決まった訳し方で訳す、の順で処理すると安定します。
覚え方のポイント

- 『如かず』『於+形容詞』を見たら比較。『莫如』なら最上。
- 『与其〜寧…』『孰れか』は選択。後ろ(寧ろ)が言いたいこと。
- 『唯・但・独』+文末『のみ』がそろえば限定。
比較・選択・限定は、いずれも「目印の語」がはっきりしているので、その語を暗記すれば判定は一瞬です。例文を声に出して読み、書き下し文を自分の手で書けるようにしておくと、初見の文章でも迷わなくなります。
ミニ練習問題(解答つき)
次の各文がどの句法か答え、現代語訳してみましょう。
- 霜葉紅於二月花。
- 与其生而無義、固不如烹。
- 但聞人語響。
- 千金之子、不死於市。
解答:
1 比較。「霜葉は二月の花よりも紅なり」=霜にあたった葉は、春二月の花よりも赤い。(「於」が比較の目印)
2 選択+比較。「其の生きて義無からんよりは、固より烹らるるに如かず」=道義もなく生きるくらいなら、いっそ煮殺される方がましだ。
3 限定。「但だ人語の響きを聞くのみ」=ただ人の話し声がこだまするのを聞くだけだ。
4 比較。「千金の子は、市に死せず」=大金持ちの子は、(罪を犯しても金で罪をあがなうので)市場でさらし者にされて死ぬことはない。※ここでの「於(市に)」は場所を示す用法。比較の「於」と場所の「於」は、前に形容詞があるかどうかで見分けます。
よくある質問
Q1:「於(于)」は置き字だと習いました。比較の「於」も読まないのですか?
A:はい、「於・于」は基本的に読まない置き字です。ただし比較の文では、訳すときに「〜より」という意味を補う必要があります。「読まないが、訳には反映する」と覚えておきましょう。
Q2:「孰」は疑問でも出てきます。比較・選択とどう違いますか?
A:「孰れか」はもともと「どちらが〜か」と二つ以上をくらべて問う字なので、選択・比較と疑問はつながっています。前後に二つのものが並んでいて優劣を問う流れなら、選択・比較の文だと考えてよいでしょう。
Q3:限定の「のみ」は、いつも文末にありますか?
A:多くは文末ですが、文頭・文中の「唯・但・独・徒・直」だけで限定を表すこともあります。文末の「のみ(耳・已・而已)」と、文頭の「唯」などはどちらか一方でも限定の合図になる、と覚えておくと取りこぼしません。
Q4:覚える句形が多くて混乱します。優先順位はありますか?
A:まず「不如(如かず)」「与其〜寧(むしろ)」「唯〜のみ」の3つを確実にしましょう。この3つは出題頻度が高く、書き下し・現代語訳のどちらでも狙われます。そのうえで「於+形容詞=〜より」「莫如=一番」を足していけば、入試レベルにはほぼ対応できます。
Q5:「百聞は一見に如かず」は知っていますが、ほかにも有名な例文はありますか?
A:比較なら「青は藍より出でて藍よりも青し(出藍の誉れ)」、選択なら「鶏口となるも牛後となるなかれ」(大きな組織の末端より小さな組織の長になれ)、限定なら「五十歩百歩」の一節「直だ百歩ならざるのみ」が有名です。ことわざ・故事成語として知っているものも多いので、意味と結びつけて覚えると定着が早まります。
比較・選択・限定は、否定や疑問・反語と組み合わさって出題されることもよくあります。たとえば「不如」と否定、「唯〜のみ」と疑問が同じ文に同居することもあります。一つひとつの目印を落ち着いて拾えば、複雑に見える文でも必ずほどけます。本記事の例文を何度も音読して、目印と訳のパターンを体にしみこませてください。書き下し文を自分の手で書けるようになると、初見の文章でも構造がすっと見えるようになります。仕上げに、下の100問ドリルで一気に定着させましょう。
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