古文の助動詞「つ」と「ぬ」は、どちらも完了(〜た・〜てしまった)を表す仲間です。しかし「つ」と「ぬ」の使い分け、強意の「つべし・ぬべし」、さらに打消の「ぬ」との区別まで、テストで問われるポイントがぎっしり詰まっています。この記事で一気に整理しましょう。
1. はじめに ― 「つ・ぬ」はここで差がつく
完了の助動詞「つ」「ぬ」は、訳すだけなら「〜た」で済むため、つい軽く流してしまいがちです。ところがテストでは、「下に推量が付くと強意になる」「打消の『ぬ』と紛らわしい」という2点が集中的に問われます。逆に言えば、この2点さえ押さえれば「つ・ぬ」は得点源になります。
2. 意味と接続・活用
「つ」「ぬ」は、ともに連用形に接続します。意味は次の3つです。
| 意味 | 訳し方 | 例 |
|---|---|---|
| 完了 | 〜た・〜てしまった | 物書きつ。(物を書いた) |
| 強意(確述) | きっと〜・必ず〜 | 雨降りぬべし。(きっと雨が降るだろう) |
| 並列 | 〜たり〜たり | 行きつ戻りつ。(行ったり戻ったり) |
活用(つ=下二段型・ぬ=ナ変型)
| 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| つ | て | て | つ | つる | つれ | てよ |
| ぬ | な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね |
「て・て・つ・つる・つれ・てよ」「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」と、声に出してリズムで覚えてしまいましょう。
「つ」と「ぬ」の使い分け(傾向)
「つ」は他動詞(自分の意志でする動作)に、「ぬ」は自動詞(自然にそうなる変化)に付きやすい、という傾向があります。
・「書きつ」=(自分の意志で)書いた / 「散りぬ」=(自然に)散ってしまった
迷ったら「自分の意志でやったこと? それとも勝手にそうなったこと?」と考えると判別しやすくなります(あくまで傾向で、例外もあります)。
3. 見分け方(ステップ式)
ステップ1:「つ/ぬ」の直後を見る。後ろに「む・べし・じ・らむ」などの推量・意志が続いていたら強意(確述)です。「きっと〜・必ず〜」と訳します。特に「つべし・ぬべし・てむ・なむ」は強意のセットフレーズとして丸ごと覚えましょう(「てまし・なまし」も同じ仲間です。なお「なむ」は直前が連用形のときに強意「ぬ」+推量・意志「む」になります)。
ステップ2:「〜つ〜つ」「〜ぬ〜ぬ」と繰り返していたら並列。「行きつ戻りつ」のように「〜したり〜したり」と訳します。
ステップ3:それ以外は完了。「〜た・〜てしまった」と訳せば決まりです。
4. 例文5選(訳つき)
例文1(完了「つ」)
物書きつ。
訳:物を書いた。
「書き」(連用形)+「つ」(終止形)。自分の意志で行う動作なので「つ」が付いています。
例文2(完了「ぬ」)
花散りぬ。
訳:花が散った。
「散り」(連用形)+「ぬ」(終止形)。自然の変化なので「ぬ」が付いています。
例文3(強意「ぬべし」)
雨降りぬべし。
訳:きっと雨が降るだろう。
「ぬ」の下に推量「べし」。完了ではなく強意(確述)です。
例文4(並列)
行きつ戻りつ。
訳:行ったり戻ったり。
「〜つ〜つ」の繰り返しで並列を表します。
例文5(完了「つ」の連体形「つる」)
年ごろ思ひつることを、今日なむ果たしつる。
訳:長年思っていたことを、今日(とうとう)かなえた。
「思ひ」(連用形)+「つる」(連体形)で、後ろの名詞「こと」を修飾しています。文末の「果たしつる」も連体形ですが、これは前にある係助詞「なむ」を受けた係り結びのためです(「なむ」の結びは連体形)。同じ「つ」でも、後ろにつながる語によって終止形「つ」か連体形「つる」かが変わることを確かめておきましょう。
5. 似ているものとの違い
完了の「ぬ」と打消「ず」の連体形「ぬ」
同じ「ぬ」の形でも、直前の活用形で正体が分かれます。
| 形 | 正体 | 例 |
|---|---|---|
| 連用形(イ段の音)+ぬ | 完了の助動詞「ぬ」(終止形) | 散りぬ=散ってしまった |
| 未然形(ア段の音)+ぬ | 打消の助動詞「ず」の連体形 | 散らぬ=散らない |
上二段・下二段動詞のように音だけで判断できないときは、文の形を見ます。文末で言い切っていれば完了(終止形)、後ろの名詞を修飾していれば打消(連体形)です。また、ナ変動詞「死ぬ」「往ぬ」の「ぬ」は動詞そのものの一部で、助動詞ではありません。くわしくは「ぬ」の識別の解説記事で整理しています。
接続助詞「つつ」との混同に注意
物思ひつつ、夜更けゆく。
訳:もの思いをしながら、夜が更けてゆく。
この「つつ」は接続助詞(〜しながら)で、完了の助動詞「つ」とは別物です。同じ連用形接続なので形は似ていますが、「〜しながら・〜し続けて」と訳せたら「つつ」です。
確認クイズ(3問)
Q1. 「花散りぬ。」の「ぬ」の説明として正しいものはどれ?
ア 完了の助動詞「ぬ」の終止形 イ 打消の助動詞「ず」の連体形 ウ ナ変動詞の一部
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正解:ア 解説:直前の「散り」が連用形(イ段の音)なので完了の「ぬ」。文末で言い切っているので終止形です。「花が散った」。
Q2. 「雨降りぬべし。」の「ぬ」の意味はどれ?
ア 完了(〜てしまった) イ 強意(きっと〜) ウ 並列(〜たり〜たり)
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正解:イ 解説:「ぬ」の下に推量の「べし」が付いているので強意(確述)。「きっと雨が降るだろう」と訳します。
Q3. 「行かぬ人」の「ぬ」の説明として正しいものはどれ?
ア 完了の助動詞「ぬ」の終止形 イ 強意の「ぬ」 ウ 打消の助動詞「ず」の連体形
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正解:ウ 解説:直前の「行か」が未然形(ア段の音)なので打消。後ろの名詞「人」を修飾する連体形で、「行かない人」と訳します。
「つ・ぬ」をもっと深く理解する
ここからは、テストで一歩リードするための「深掘り」です。完了の助動詞「つ」「ぬ」は、ただ「〜た」と訳すだけの単純な語ではありません。実は「もう終わってしまった」という完了と、「きっとこうなる」という強意(確述)という、向きの違う二つの顔を持っています。なぜ「終わった」を表す語が「きっと〜だろう」という未来の意味になるのか、その理屈を知ると、丸暗記に頼らずに見分けられるようになります。
もともと「つ」「ぬ」は「動作がしっかり実現した・完結した」という気持ちを表す語でした。この「完結した・確かだ」という感覚が、推量の語(む・べし など)と組み合わさると、「(実現が)確かだ → きっと〜にちがいない」という確述(強意)の意味に発展します。つまり「過去に終わった」も「これから確実に起こる」も、根っこは同じ「確かさ」なのです。この一本の筋が見えると、「つべし=きっと〜できるはずだ」のような訳がすんなり腑に落ちます。
強意(確述)の「つ・ぬ」を徹底攻略
入試・定期テストで最も問われるのが、この強意(確述)の用法です。ポイントはただ一つ、「つ・ぬ」の直後に推量・意志・可能などの助動詞が来ているかどうかです。来ていれば完了ではなく強意、と機械的に判断できます。次の「強意の頻出セット」は、見た瞬間に反応できるよう、丸ごと暗記してしまいましょう。
| 形 | 成り立ち | 訳し方 |
|---|---|---|
| つべし/ぬべし | 強意「つ・ぬ」+推量・可能「べし」 | きっと〜にちがいない/〜できそうだ |
| てむ/なむ | 強意「つ・ぬ」(未然形て・な)+推量・意志「む」 | きっと〜だろう/きっと〜しよう |
| てまし/なまし | 強意「つ・ぬ」(未然形て・な)+反実仮想「まし」 | きっと〜だろうに |
| つらむ/ぬらむ | 強意「つ・ぬ」+現在推量「らむ」 | 今ごろきっと〜しているだろう |
「てむ」「なむ」は、「て」が「つ」の未然形、「な」が「ぬ」の未然形であることを思い出してください(活用表の「て・て・つ・つる・つれ・てよ」「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」の左端です)。だから「てむ=つ+む」「なむ=ぬ+む」と分解でき、いずれも強意になります。
例文(原文・現代語訳)
今は漕ぎ別れぬべし。
訳:今はもう漕ぎ別れてしまうにちがいない(きっと漕ぎ別れるだろう)。
「別れ」(連用形)+「ぬ」+推量「べし」。直後に「べし」があるので強意です。「別れてしまった」という完了ではなく、「これからきっと別れることになる」という確かな見通しを表しています。
命長くとこそ思ひつれ。
訳:命が長くあってほしいとばかり思っていた。
こちらは「思ひ」(連用形)+「つれ」(已然形)。直後に推量の語が無いので完了です。「つれ」は「つ」の已然形で、係助詞「こそ」の結びとして已然形になっています(係り結び)。同じ「つ」でも、後ろに何が来ているかで意味がはっきり変わることを確かめてください。
つまずきやすいポイントと入試での問われ方
「つ・ぬ」でつまずく原因は、たいてい次の三つに集約されます。順に確認しておきましょう。
- 「完了」と決めつけてしまう。直後を見ずに「〜た」と訳してしまうミスです。必ず「つ・ぬ」のすぐ後ろを確認するクセをつけましょう。推量・意志の語があれば強意です。
- 「ぬ」を全部完了だと思ってしまう。「ぬ」には「完了の助動詞」「打消『ず』の連体形」「ナ変動詞の一部」という三つの正体があります。直前がイ段の音(連用形)なら完了、ア段の音(未然形)なら打消、と直前の活用形で見分けます。
- 「な」「て」を見落とす。「てむ・なむ・てまし・なまし」の「て・な」が「つ・ぬ」の変形だと気づかず、別の語と取り違えるパターンです。
入試では、傍線部の「つ・ぬ」について「意味(完了・強意・並列)を答えよ」「文法的に説明せよ」という形で直接問われるほか、現代語訳の中で強意を正しく訳せているかが採点ポイントになります。特に「ぬべし」「てむ」を「〜てしまうだろう」と完了+推量で訳しても大きくは外しませんが、より正確には「きっと〜にちがいない」と強意で訳すと高評価です。
ミニ練習問題(解答つき)
次の傍線部の「つ・ぬ」の意味を、完了・強意・並列・打消(=「ぬ」が打消「ず」の連体形)から選びましょう。
- 日も暮れぬ。
- この一矢にて必ず射当てつべし。
- 泣きぬ笑ひぬ、大騒ぎなり。
- 知らぬ人に道を問ふ。
解答・解説を見る
1:完了 「暮れ」(連用形)+「ぬ」。直後に推量の語が無く、文末で言い切っているので完了の終止形。「日も暮れてしまった」。
2:強意 「当て」(連用形)+「つ」+「べし」。直後に「べし」があるので強意(確述)。「この一矢できっと射当てられるにちがいない」。
3:並列 「〜ぬ〜ぬ」の繰り返し。「泣いたり笑ったり」と訳します。
4:打消 「知ら」(未然形・ア段)+「ぬ」で、後ろの名詞「人」を修飾する連体形。打消「ず」の連体形で「知らない人」。完了の「ぬ」ではありません。
よくある質問(Q&A)
Q. 「つ」と「ぬ」はどう使い分ければいいの?
A. 大まかな傾向として、「つ」は意志的・他動詞的な動作(書きつ=書いた)、「ぬ」は自然に起こる変化・自動詞的な動作(散りぬ=散った)に付きやすいとされます。ただしこれはあくまで傾向で、例外もあります。読解では「どちらが付いているか」を覚えることより、付いている語の意味(完了か強意か)を正しく取ることのほうが大切です。
Q. 「ぬべし」は完了「ぬ」+「べし」では?
A. 形のうえでは「ぬ」+「べし」ですが、ここでの「ぬ」は完了ではなく強意(確述)の用法です。推量の「べし」と結びつくことで「(実現が)確かだ → きっと〜にちがいない」という意味になります。「すでに〜してしまった上で〜だろう」と完了で訳すと不自然になるので注意しましょう。
Q. 「死ぬ」「往(い)ぬ」の「ぬ」も助動詞?
A. いいえ。「死ぬ」「往ぬ」はナ行変格活用(ナ変)動詞で、「ぬ」は動詞そのものの一部です。助動詞の「ぬ」とは別物なので、活用させると「死な・死に・死ぬ・死ぬる・死ぬれ・死ね」のように変化します。この二語はナ変動詞の代表例として暗記しておくと、識別問題で迷いません。
Q. 完了「つ」と接続助詞「つつ」はどう区別する?
A. どちらも連用形に付くので形は似ていますが、「〜しながら・〜し続けて」と訳せれば接続助詞「つつ」、「〜た・〜てしまった」と訳せれば完了の助動詞「つ」です。「物思ひつつ=もの思いをしながら」のように、動作の継続・並行を表すのが「つつ」だと覚えましょう。
まとめ
最後に、この記事の要点をもう一度まとめます。テスト直前にここだけ読み返せば大丈夫です。
- 接続:「つ」「ぬ」はともに連用形に接続する。
- 活用:「つ」は下二段型「て・て・つ・つる・つれ・てよ」、「ぬ」はナ変型「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」。
- 三つの意味:完了(〜た)・強意=確述(きっと〜)・並列(〜たり〜たり)。
- 強意の見抜き方:直後に推量・意志(む・べし・らむ・じ など)が来たら強意。「つべし・ぬべし・てむ・なむ・てまし・なまし」はセットで暗記。
- 並列の見抜き方:「〜つ〜つ」「〜ぬ〜ぬ」の繰り返し。
- 「ぬ」の識別:直前がイ段(連用形)なら完了、ア段(未然形)なら打消「ず」の連体形。「死ぬ・往ぬ」はナ変動詞で助動詞ではない。
「つ・ぬ」は、直後の一文字を見る習慣さえつけば、必ず得点源になります。あとは下のドリルで数をこなして、見分ける目を体にしみこませましょう。
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