平安貴族の服装と色目をやさしく解説|十二単・直衣・襲の色目で読む古文の世界

入試・読解対策

この記事でわかること

古文で人物の身分・季節・心情は、じつは「着ているもの」でわかります。平安貴族の物語では、登場人物がどんな服を、どんな色の重ね方で着ているかが、その人がどんな立場で、いまどんな気持ちでいるかを静かに語っているのです。

たとえば『源氏物語』や『枕草子』には、衣装の描写がたくさん出てきます。でも「唐衣(からぎぬ)」「直衣(のうし)」「指貫(さしぬき)」と言われても、何を指すのかわからないと、その場面の魅力が半分も伝わりません。この記事では、つぎのことをやさしく整理します。

  • 女性の装束(いわゆる「十二単」=唐衣・表着・五衣・単・裳など)
  • 男性の装束(正装の束帯、平常着の直衣、略装の狩衣、ゆったりした袴の指貫)
  • 襲(かさね)の色目(紅梅・桜・若菜・紅葉…色の重ね方で季節を表す感覚)
  • 古文での読み方(「更衣」のように、一語で二つの意味を持つ言葉の注意点)

むずかしい専門用語は出てきますが、ひとつずつ噛み砕いて説明します。読み終わるころには、平安の物語に出てくる衣装の場面が、ぐっと立体的に見えるようになります。

1. 女性の装束 ―― いわゆる「十二単」

平安時代の身分の高い女性の正装を、いまでは「十二単(じゅうにひとえ)」と呼びます。ただし、これは後の時代につけられた呼び名(俗称)で、実際にいつも十二枚を着ていたわけではありません。当時の言い方では「女房装束(にょうぼうしょうぞく)」や「裳唐衣(もからぎぬ)の姿」などと言います。「十二」は「たくさん重ねている」という感じを表した数え方だと考えてください。

たくさんの衣を重ねて着るのが特徴で、内側から外側へ向かって順番に着ていきます。主なものを表で整理します。

名称(読み) どんなもの?
単(ひとえ) いちばん下(肌に近いほう)に着る、裏地のない一枚もの。土台になる衣。
袴(はかま) 腰から下にはく。高貴な女性は紅(くれない)の長い袴をはくことが多い。
五衣(いつつぎぬ) 単の上に重ねて着る、何枚かの衣(袿〈うちき〉)。色の重ね方でセンスが出る、装いの中心。
打衣(うちぎぬ) 五衣の上に重ねる衣。砧(きぬた)で打って光沢を出したことからこの名がある。
表着(うはぎ) 打衣の上に着る、いちばん表に見える上着。
唐衣(からぎぬ) いちばん上に羽織る、丈の短い上着。正装のときの「格」を示す大切な一枚。
裳(も) 腰の後ろに着けて引きずる、エプロンを後ろにつけたような布。最も正式な場面で身につける。

ポイントは、唐衣と裳をつけているかどうかが「正装かどうか」の目印になることです。だから当時の女性の正装を「裳唐衣の姿」とも言いました。物語で女性が裳や唐衣を身につける場面は、あらたまった大事な場面なのだと読み取れます。

「裳着(もぎ)」は女性の成人式

女の子が初めて裳をつける儀式を裳着(もぎ)といい、これが女性の成人を意味しました(男性の「元服」にあたります)。古文に「裳着す」とあれば、「大人の女性として一人前になる節目を迎えた」という意味だと分かります。

2. 男性の装束 ―― 場面で着替える

男性貴族は、場面のあらたまり方によって服を着分けました。フォーマルな順に、束帯 → 衣冠 → 直衣 → 狩衣、と覚えるとよいでしょう。表で整理します。

名称(読み) 格・用途 イメージ
束帯(そくたい) もっとも正式な正装。宮中の儀式など、最もあらたまった場で着る。 いちばんきちんとした「礼服」。
衣冠(いかん) 束帯を少し簡略にした、宮中での勤務着。束帯よりは動きやすい。 「平日のきちんとした服」。
直衣(のうし) 身分の高い人の平常着。儀式ではない、ふだんの場で着る。 くつろいだ「普段着の上等版」。
狩衣(かりぎぬ) もとは狩りなどに着た略装。動きやすく、軽い外出や私的な場で着る。 「カジュアルな外出着」。

そして、下半身にはく代表的な袴が指貫(さしぬき)です。すそにひもを通して足首のところでくくれるようになった、ゆったりした袴で、直衣や狩衣と合わせます。「裾をくくる」ので動きやすく、活動的な装いになります。

読解のコツは、男性が何を着ているかで、その場面のあらたまり度がわかることです。直衣や狩衣で人を訪ねる場面は、くだけた私的な訪問。束帯や衣冠で参内(さんだい=宮中へ参上)する場面は、公の、あらたまった用事だと読めます。

3. 襲(かさね)の色目 ―― 色の重ね方で季節を映す

平安の装いでいちばん美しく、いちばん古文常識として大切なのが襲(かさね)の色目です。これは、衣を何枚も重ねて着るときの色の組み合わせのこと。表の色と裏の色、あるいは重ねた衣の色のグラデーションで、季節の草花や風景を表現しました。

つまり当時の人は、着る色で「いまの季節」や「その人のセンス」を表現していたのです。季節はずれの色目を着ると「無粋(ぶすい)」とされ、季節にぴったりの色目はほめられました。代表的なものを表で見てみましょう(色の組み合わせには諸説あり、ここでは広く知られた感覚を示します)。

色目の名(読み) 主な季節 映している自然
紅梅(こうばい) 冬の終わり〜早春 咲きはじめる紅梅の花。
桜(さくら) 白に淡い紅をのぞかせる、桜の花。
若菜(わかな)/若草 芽吹いたばかりの、みずみずしい緑。
卯花(うのはな) 初夏 白く咲く卯の花。
紅葉(もみぢ) 赤や黄に色づいた木の葉。
枯野(かれの) 枯れた草原の、くすんだ色合い。

このように、色目の名前そのものが季節を表しています。物語で女性が「桜の色目」を着ていれば春、「紅葉」を着ていれば秋――と、衣装から季節を読み取ることができます。さらに、その色目が季節にうまく合っているかどうかで、その人の教養やセンスまで描かれるのです。

『枕草子』が伝える、色のセンス

清少納言の『枕草子』には、色の取り合わせをめぐる感覚がたびたび出てきます。たとえば、心ときめくものを挙げた段では、こう書かれています。

原文:頭洗ひ、化粧じて、香ばしうしみたる衣など着たる。
現代語訳:髪を洗い、化粧をして、よい香りがしみこんだ衣などを着ている(とき。胸がときめく)。

衣の色や香りまでもが、心のときめきとして描かれていることがわかります。清少納言にとって、何をどう着るかは、暮らしの中の大切な美意識だったのです。

4. 古文での読み方 ―― 衣装から場面を読む

衣装の言葉は、読解のヒントの宝庫です。ここでは、間違えやすい点と読みのコツを整理します。

「更衣(こうい)」は二つの意味に注意

「更衣」という言葉には、まったく違う二つの意味があります。文脈で見分けましょう。

  • 衣替えの意味…季節に合わせて衣を着替えること。
    例:「四月一日、更衣す(=四月一日に、夏の衣に着替える)」のように使います。
  • 女官(にょかん)の呼び名…天皇のおそばに仕える女性の身分の一つ。女御(にょうご)よりも下の位にあたります。

『源氏物語』の主人公・光源氏の母は「桐壺更衣(きりつぼのこうい)」と呼ばれます。これは衣替えのことではなく、女官としての身分を表す呼び名です。彼女が「女御」ではなく「更衣」という、それほど高くない位だったことが、物語の悲しい出来事につながっていきます。同じ「更衣」でも意味がまるで違うので、文脈で判断してください。

衣の色や様子が、心情を語る

古文では、衣の色がそのまま登場人物の心を映すことがあります。たとえば喪に服しているときは、墨で染めたような黒っぽい色(鈍色〈にびいろ〉)の衣を着ます。物語で人物が鈍色をまとっていれば、「悲しみの中にいる」「誰かを亡くしている」と読み取れるのです。

『源氏物語』には、悲しみにくれる人物が地味な色の衣を身につける場面が描かれます。はなやかな色目とくすんだ色目――この対比そのものが、登場人物の心の明暗を表しているのです。色の名前を手がかりに、その人の気持ちまで想像してみましょう。

身分が、着るものを決める

平安時代は、身分によって着られる色や装いが決まっていました。とくに高貴な人だけが許された色は「禁色(きんじき)」と呼ばれ、勝手に着ることはできませんでした。だからこそ、誰がどんな色・どんな装束を身につけているかは、その人の身分を示すサインになります。物語で「いかにも立派な装束を着た人」が出てきたら、それだけで高い身分の人物だと分かるわけです。

まとめ ―― 衣装を読めば、物語が立体的になる

最後に、要点をふりかえりましょう。

  • 女性の装束…いわゆる「十二単」は俗称で、正しくは女房装束。唐衣と裳をつけているかが正装の目印。
  • 男性の装束…正式な順に束帯 → 衣冠 → 直衣 → 狩衣。袴の代表が指貫。何を着ているかで場面のあらたまり度がわかる。
  • 襲の色目…色の重ね方で季節とセンスを表す。紅梅・桜・若菜・紅葉…色の名前が季節を語る。
  • 読み方の注意…「更衣」は衣替え女官の名の二つの意味。衣の色は身分や心情も映す。

古文の世界では、人物は言葉でだけでなく「着るもの」でも自分を語っています。衣装の名前と色目を少し知っているだけで、『源氏物語』や『枕草子』の場面が、色あざやかに、立体的に見えてくるはずです。次に物語を読むときは、登場人物が何を着て、どんな色を重ねているかにも、ぜひ目を向けてみてください。

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