枕草子『春はあけぼの』をやさしく解説|四季の「をかし」と現代語訳・重要語句

作品解説

はじめに ― なぜ「春はあけぼの」はテストに出るのか

『枕草子(まくらのそうし)』の冒頭、「春はあけぼの」は、定期テストでも入試でも本当によく出る超定番です。理由はシンプルで、四季それぞれの「いちばん良い時間帯」と、その良さを言い表す言葉がきれいに対応しているから。出題者からすると、対応関係・古語の意味・係り結び・「をかし/あはれなり」のちがいなど、聞きたいポイントが詰まった「お得な教材」なのです。

ここを押さえると、清少納言(せいしょうなごん)の美意識である「をかし」という言葉の感覚もまるごとつかめます。まずは全体像から、一緒に見ていきましょう。

先生と生徒の会話でウォームアップ

生徒:先生、「春はあけぼの」って、結局なにが言いたいんですか? 文が短くてブツブツ切れてて、よく分からなくて。

先生:いい所に気づいたね。実はこの文、「春は〜が良い」の「良い」が省略されているんだ。「春はあけぼの(がすばらしい)」って読むと、一気にスッキリするよ。

生徒:あ、なるほど! じゃあ「夏は夜」も「夏は夜(が良い)」ってことですか?

先生:その通り。四季ぜんぶ同じ形だ。春=あけぼの(明け方)、夏=夜、秋=夕暮れ、冬=つとめて(早朝)。清少納言が「この季節はこの時間がいちばん!」と推している、いわば季節のおすすめタイム発表なんだよ。

生徒:推しの時間帯ってこと? 急に親しみがわいてきました。

原文

春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。

夏は、夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。

秋は、夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。

冬は、つとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も白き灰がちになりて、わろし。

現代語訳

春は明け方(がすばらしい)。だんだんと白くなっていく山ぎわが、少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいている(様子が良い)。

夏は夜(が良い)。月が出ているころは言うまでもない。月のない闇夜でもやはり、蛍がたくさん飛びかっている(のが良い)。また、ほんの一匹二匹などが、かすかに光って飛んでいくのも趣がある。雨などが降るのも趣がある。

秋は夕暮れ(が良い)。夕日がさして山の端にとても近くなったころに、烏(からす)が寝どころへ帰ろうとして、三羽四羽、二羽三羽などと飛び急ぐ様子までもがしみじみと心に染みる。まして雁などが列をつくって連なっているのが、たいそう小さく見えるのは、とても趣がある。日がすっかり沈んでしまって、風の音や虫の音などが(聞こえるの)は、これもまた言葉にできない(ほどすばらしい)。

冬は早朝(が良い)。雪が降っているのは言うまでもない。霜がとても白いのも、またそうでなくてもとても寒い朝に、火などを急いでおこして、炭を持って(廊下を)運んでいくのも、いかにも(冬の朝に)似つかわしい。昼になって、寒さがだんだんゆるんでいくと、火鉢の火も白い灰ばかりになってしまって、よくない。

重要語句のまとめ

意味
あけぼの夜がほのぼのと明けるころ。明け方
やうやうだんだん。しだいに
山ぎは空のうち、山の稜線に接するあたり(空の側)
紫だちたる紫がかっている。「〜だつ」で「〜の様子を帯びる」
さらなり言うまでもない。もちろんだ
なほやはり。そうはいってもなお
をかし趣がある。すてきだ。明るく知的に「良いなあ」と感じる気持ち
山の端(は)山の、空に接するあたり(山の側)。「山ぎは」と対になる語
あはれなりしみじみと心に染みる。胸を打たれる感動
まいてまして。なおさら(「まして」の音変化)
つとめて早朝。(また、何かの翌朝の意もある)
つきづきし似つかわしい。いかにもふさわしい
わろしよくない。感心しない(「悪し(あし)」ほど強くない)

読解のポイント

① 四季と時間帯の対応をまず固める

この段の背骨は「春=あけぼの/夏=夜/秋=夕暮れ/冬=つとめて」の四つです。ここだけは丸暗記でかまいません。各文の頭が「〜は、◯◯。」と体言(名詞)で言い切られているのも特徴で、後ろに「(が良い)」が省略されていると補って読むのがコツです。

② 「をかし」と「あはれなり」のちがい

この段には感動を表す言葉が二種類出てきます。「をかし」は、明るく知的に「すてきだな、趣があるな」と対象を楽しむ感覚。一方「あはれなり」は、心の奥がジンとする、しみじみとした感動です。秋の段で、烏が飛び急ぐ姿には「あはれなり」、雁の列には「をかし」と、清少納言が表現を使い分けている点はテストの大好物。なお「をかし」は『枕草子』全体を貫く美意識の言葉、「あはれなり」は『源氏物語』を代表する語、と対比で覚えると一気に頭に入ります。

③ 「山ぎは」と「山の端」を取りちがえない

春の段の「山ぎは」は空の側(空のうち、山に接するあたり)、秋の段の「山の端」は山の側(山のうち、空に接するあたり)を指します。文字が似ていて方向が逆なので、引っかけ問題で頻出です。「わ=空、は=山」と覚えておきましょう。

作品紹介 ― 『枕草子』ってどんな作品?

『枕草子』のジャンルは随筆(ずいひつ)です。随筆とは、見たこと・感じたこと・思ったことを自由につづった文章のこと。『枕草子』は、鎌倉時代の鴨長明『方丈記』、鎌倉末〜南北朝期の兼好法師『徒然草』とあわせて「日本三大随筆」と呼ばれ、その中で最も古い作品です。

作者は清少納言。一条天皇のきさきである中宮定子(ちゅうぐうていし)に仕えた女房(宮仕えの女性)で、明るく機知に富んだ人柄で知られます。成立はおおよそ平安時代中期、十一世紀のはじめ(西暦1000年前後)と考えられています。内容は、自然の美しさを語る「春はあけぼの」のような章段のほか、宮中での出来事を記した日記的な段、「うつくしきもの」のように物を書き連ねた段など、バラエティに富んでいます。

定期テストで問われやすい点

  • 四季と時間帯の対応(春=あけぼの/夏=夜/秋=夕暮れ/冬=つとめて)の穴うめ。
  • 「やうやう」「さらなり」「つとめて」「つきづきし」「わろし」など重要古語の意味。
  • 「をかし」と「あはれなり」の意味のちがいと、使い分けの説明。
  • 「山ぎは(春)」と「山の端(秋)」がそれぞれ指す部分の区別。
  • 各文に省略されている「(が良い・がすばらしい)」を補う問題。
  • 作品の作者(清少納言)・ジャンル(随筆)・日本三大随筆の知識。
  • 「まいて」「なほ」などの読み・意味。

まとめ

「春はあけぼの」は、四季それぞれの「いちばん良い時間」を清少納言が紹介する段です。ポイントは三つ。①四季と時間帯の対応を固める、②「をかし」と「あはれなり」を区別する、③「山ぎは」と「山の端」を取りちがえない。この三つを押さえれば、テストでねらわれる所はほぼ網羅できます。短い文の連なりの奥に、清少納言の鋭くしなやかな感性が光っているのを感じながら、声に出して読んでみてください。

定期テスト対策の問題編もあわせて使うと、知識が一気に定着しますよ。

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