過去の助動詞「けり」は、「〜た」と訳す過去のほかに、「〜だなあ」と訳す詠嘆という、もう一つの顔を持っています。和歌の中で「けり」を見たら要注意。この記事では「けり」の2つの意味の見分け方を中心に、やさしく整理します。
1. はじめに ― 「けり」はここで差がつく
「昔、男ありけり。」の「けり」と、和歌の中の「けり」は、同じ形でも訳し方が違います。テストでは「過去か詠嘆か」の判別が最頻出。さらに「こそ…けれ」の「けれ」が助動詞かどうか、という識別も問われます。判断の手順を決めておけば迷いません。
2. 意味と接続・活用
「けり」は連用形に接続し、意味は次の2つです。
| 意味 | 訳し方 | よく出る場所 |
|---|---|---|
| ① 過去(伝聞) | 〜た・〜たそうだ | 物語・歴史書の地の文 |
| ② 詠嘆 | 〜だなあ・〜だったのだなあ | 和歌・会話文・気づきの場面 |
①の過去は、自分が体験したことではなく、人から伝え聞いた過去(伝聞過去)です。「昔、男ありけり」が「昔、男がいた(そうだ)」という語り口になるのはこのためです。
活用はラ変型です。
| 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
|---|---|---|---|---|---|
| (けら) | ○ | けり | ける | けれ | ○ |
「けら・○・けり・ける・けれ・○」。未然形「けら」はほぼ和歌でしか使われません。連体形「ける」は体言の前や「ぞ・なむ・や・か」の結びで、已然形「けれ」は「ば・ど・ども」の前や「こそ」の結びで登場します。
3. 見分け方(ステップ式)
ステップ1:和歌の中の「けり」→ 詠嘆が原則。「〜だなあ」と訳します。
ステップ2:会話文・心の中の言葉の「けり」→ 詠嘆が多い。「あ、〜だったのか!」という気づきの訳が自然に通れば詠嘆です。
ステップ3:物語・歴史書の地の文 → 過去(伝聞)。「昔、男ありけり」のような物語の語り出しは過去で確定です。
ステップ4:「なりけり」「〜かりけり」→ 詠嘆が多い。断定の助動詞「なり」や形容詞(カリ活用)に「けり」が付いた形は、「〜であったのだなあ」という気づき・詠嘆になりやすい形です。
4. 例文5選(訳つき)
例文1(過去・物語の冒頭)
昔、男ありけり。
訳:昔、男がいた(そうだ)。
伊勢物語の冒頭の定型です。物語の地の文なので過去(伝聞)です。
例文2(過去・地の文)
男、女のもとに通ひけり。
訳:男が女のところに通っていた。
「通ひ」(連用形)+「けり」。物語が淡々と出来事を語る地の文の過去です。
例文3(詠嘆・「なりけり」)
あはれ、夢なりけり。
訳:ああ、夢だったのだなあ。
断定の助動詞「なり」の連用形+「けり」。感動詞「あはれ」も伴う、気づきの詠嘆の典型です。
例文4(詠嘆・和歌)
色見えでうつろふものは世の中の人の心の花にぞありける
訳:目に見えないままに色あせていくものは、世の中の人の心という花であったのだなあ。
古今集・小野小町の歌です。和歌の中の「けり」なので詠嘆。係助詞「ぞ」の結びで連体形「ける」になっています。
例文5(已然形「けれ」)
月清く照りければ、夜なほ明るし。
訳:月が清く照っていたので、夜もなお明るい。
「照り」(連用形)+「けれ」(已然形)+「ば」。「ければ」で原因・理由を表します。
5. 似ているものとの違い
「き」との違い
同じ過去でも、「き」は自分が直接体験した過去、「けり」は人から伝え聞いた過去と詠嘆です。「行きき」=(自分が)行った、「行きけり」=行ったのだなあ(行ったそうだ)。くわしくは「き」と「けり」の違いの解説記事へ。
係り結び「こそ…けれ」と形容詞の已然形「けれ」
「こそ」の結びで文末に来る「けれ」には2種類あり、直前の形で見分けます。
| 直前の形 | 正体 | 例 |
|---|---|---|
| 用言の連用形 | 過去の助動詞「けり」の已然形 | 人こそ多かりけれ。(人が多かったなあ) |
| 形容詞の活用語尾そのもの | 形容詞の已然形(助動詞ではない) | あやしうこそものぐるほしけれ。 |
「あやしうこそものぐるほしけれ」(徒然草・序段)の「ものぐるほしけれ」は、形容詞「ものぐるほし」(シク活用)の已然形そのもので、過去の意味はありません。一方「多かりけれ」は、形容詞のカリ活用連用形「多かり」に「けり」が付いた形で、こちらは助動詞です。形容詞に助動詞「けり」が付くときは、必ず「〜かりけり(已然形なら〜かりけれ)」の形になると覚えておくと確実です。くわしくは「けれ」の識別の解説記事で整理しています。
確認クイズ(3問)
Q1. 「昔、男ありけり。」の「けり」の意味はどれ?
ア 詠嘆 イ 過去(伝聞) ウ 完了
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正解:イ 解説:物語の冒頭・地の文の「けり」は過去(伝聞)です。「昔、男がいた(そうだ)」と訳します。
Q2. 和歌「色見えでうつろふものは世の中の人の心の花にぞありける」の「ける」の意味はどれ?
ア 詠嘆 イ 過去(伝聞) ウ 打消
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正解:ア 解説:和歌の中の「けり」は詠嘆が原則です。「〜であったのだなあ」。係助詞「ぞ」の結びで連体形「ける」になっています。
Q3. 「あやしうこそものぐるほしけれ。」(徒然草)の「けれ」はどれ?
ア 過去の助動詞「けり」の已然形 イ 完了の助動詞「り」の已然形 ウ 形容詞「ものぐるほし」の已然形の語尾
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正解:ウ 解説:直前が用言の連用形ではなく、「ものぐるほしけれ」全体で形容詞(シク活用)の已然形です。助動詞「けり」の已然形なら、直前が連用形になります(例:思ひけれ・多かりけれ)。
まとめ
・「けり」は連用形接続。活用は「(けら)・○・けり・ける・けれ・○」のラ変型。
・意味は過去(伝聞)「〜た・〜たそうだ」と詠嘆「〜だなあ」の2つ。
・和歌の中の「けり」は詠嘆が原則。会話文・気づきの場面も詠嘆が多い。
・物語の語り出し・地の文(昔、男ありけり)は過去(伝聞)。
・「なりけり」「〜かりけり」は詠嘆になりやすい。
・「こそ…けれ」の「けれ」は、直前が連用形なら助動詞「けり」、形容詞の活用語尾なら助動詞ではない。


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