
「言はく」「思はく」って何でできてるの?

く語法は、動詞・形容詞・助動詞の活用語に接尾辞「く/らく/まく」が付いて名詞化する古い用法だ!「言はく」は動詞「言ふ」の未然形「言は」+「く」で「言うこと」の意味になる。
3秒で答えが出る|「く語法」識別の早見表
- 動詞「く」型 → 四段動詞の未然形+く(言は‐く=言うこと、思は‐く=思うこと、聞か‐く=聞くこと)
- 動詞「らく」型 → 二段・カ変・サ変動詞の終止形+らく(老ゆ‐らく=老いること、す‐らく=することなど)
- 助動詞「まく」型 → 助動詞「む」の未然形「ま」+く(言は‐まく=言うだろうこと、見‐まく=見たいこと)
- 慣用句「すべからく」 → 「す(サ変)+べし(未然形)+く」で「〜すべきこと」
- 訳:〜こと(名詞化)
- 万葉集・上代の和歌に頻出する古い用法
古文の和歌を読んでいると「言はく」「思はく」「老ゆらく」「言はまく」といった、見慣れない形に出会うことがある。これらはすべてく語法と呼ばれる古い用法で、動詞・形容詞・助動詞の活用語に接尾辞「く/らく/まく」が付いて、その語が表す内容を名詞化(〜こと)する仕組みである。万葉集をはじめとする上代(奈良時代)の和歌に多く見られ、中古以降は慣用的に残った形が中心になる。
く語法でとくに重要なのは、「思はく」は動詞「思ふ」の未然形「思は」+接尾辞「く」からできた語であって、形容詞ではないという点だ。「言はく」「聞かく」も同じ作りで、いずれも四段動詞の未然形に「く」が付いて名詞化している。この骨格をしっかり押さえれば、入試で問われるく語法の問題は怖くなくなる。
この記事では、く語法の正しい定義、動詞・助動詞ごとの語形、慣用句「すべからく」、注意したい「形容詞連用形の名詞的用法」との違い、そして万葉集等から引いた実用例まで、入試標準の解釈に沿って順を追って解説する。一度しっかり理解すれば、和歌・物語のなかで「く」「らく」「まく」を見たときに、自信を持って品詞分解できるようになるはずだ。
「く語法」の基本(定義・接続・分類)

く語法とは、動詞・形容詞・助動詞の活用語に接尾辞「く/らく/まく」が付いて、その語の内容を名詞化する古い用法のことだ。現代語の「言うこと・思うこと・見たいこと」のように、語の働きを名詞でくくり直すと考えると分かりやすい。万葉集にとくに多く、平安以降は慣用化した語形が中心となる。
く語法の接続は、活用語の種類によって決まっている。四段動詞・形容詞・助動詞「き」「ず」など多くの語は、未然形(または連体形相当の形)+くで名詞化される。一方、上下二段動詞・カ変・サ変動詞や形容詞のカリ系列、助動詞「り」などは、終止形+らくという形をとる。助動詞「む」だけは未然形「ま」に「く」が付いて「まく」という形になる。整理して覚えておこう。
動詞のく語法(「言はく」「思はく」「聞かく」)
四段動詞は未然形+くで名詞化される。「言ふ」の未然形「言は」+「く」で「言は‐く(言うこと)」、「思ふ」の未然形「思は」+「く」で「思は‐く(思うこと)」、「聞く」の未然形「聞か」+「く」で「聞か‐く(聞くこと)」となる。とくに「思はく」は動詞由来の名詞であり、形容詞ではないことを必ず押さえておきたい。現代語の「思惑(おもわく)」もこの「思はく」が語源だ。
「らく」型のく語法(「老ゆらく」「思へらく」「すらく」)
上下二段・カ変・サ変の動詞、および助動詞「り」などには、終止形に「らく」を付ける形がある。ヤ行上二段「老ゆ」+「らく」で「老ゆ‐らく(老いること)」、サ変「す」+「らく」で「す‐らく(すること)」、カ変「来(く)」+「らく」で「来‐らく(来ること)」となる。また「思ふ」に存続の「り」が付いた「思へり」を名詞化すると「思へ‐らく(〜と思うこと)」となり、和歌の引用句で頻出する。
「まく」型のく語法(「言はまく」「見まく」「思はまく」)
推量・意志の助動詞「む」の未然形「ま」に「く」が付いた「まく」は、「〜だろうこと」「〜たいこと」を表す名詞化の形だ。「言はむ」の未然形「言はま」+「く」で「言は‐まく(言おうとすること・言うだろうこと)」、「見む」の未然形「見ま」+「く」で「見‐まく(見たいこと・見ようとすること)」となる。「まく欲(ほ)し」「まくほり」の形で願望を表す慣用表現も万葉集に頻出する。
助動詞「き」「ず」のく語法(「言ひしく」「知らなく」)
過去の助動詞「き」の連体形「し」+「く」で「しく」となり、「〜たこと」を表す。「言ふ」の連用形+「しく」で「言ひ‐しく(言ったこと)」、「見」+「しく」で「見‐しく(見たこと)」となる。打消の助動詞「ず」の場合は連用形「な」に「く」が付き、「知らなく(知らないこと)」「逢はなく(逢わないこと)」のような形で、和歌の結句に「〜なくに」「〜なくも」と続いて用いられる。
慣用構文「すべからく〜べし」
「すべからく」は、サ変動詞「す」に当為・義務の助動詞「べし」の未然形「べから」が付き、さらに接尾辞「く」が付いて名詞化した語だ。「すべからく〜べし」の形で「〜すべきだ・当然〜しなければならない」という意味を表す慣用構文として用いられる。現代でも漢文訓読体に残る表現で、必ず文末に「べし」と呼応する点が入試でも問われやすい。「すべからく一生懸命に学ぶべし」のように使う。
注意:形容詞連用形の名詞的用法(広義のく語法)
「多く」「遠く」「よく」「なく」のように、形容詞の連用形「く」がそのまま名詞のように使われる例もある。「人の多く」(多くの人)、「遠くより」(遠いところから)、「よくもあしくも」(よいことも悪いことも)といった用法だ。これらを広義のく語法と呼ぶ場合もあるが、文法書では一般に「形容詞連用形の名詞的用法」と区別され、伝統的な狭義のく語法(動詞・助動詞+く/らく/まく)とは別概念として扱う。本記事では両者を区別して説明している点に注意してほしい。
「く語法」の識別方法(ステップごとに解説)

く語法を正確に識別するには、三つのステップで考えるのがおすすめだ。これをルーティンにすれば、和歌や物語のなかで迷わなくなる。
ステップ一は、接尾辞の形を見極めることだ。「く/らく/まく/しく」の四つのうちどれが付いているかを確認する。「く」なら四段動詞の未然形、形容詞の連用形、助動詞「ず」「べし」の活用形などに付くことが多い。「らく」なら二段・カ変・サ変動詞や助動詞「り」、「まく」なら助動詞「む」、「しく」なら助動詞「き」の連体形と結びつく。
ステップ二は、直前の語の活用形を確かめることだ。「言はく」なら「言は」が「言ふ」の未然形、「老ゆらく」なら「老ゆ」が終止形、「言はまく」なら「言はま」が「む」の未然形である、というように、く語法の骨格は必ず「活用形+接尾辞」で構成されている。直前の語を品詞分解できれば、く語法の正体は必ず見える。
ステップ三は、「〜こと」と置き換えて意味が通るか確認することだ。「言はく」なら「言うこと」、「思へらく」なら「〜と思うこと」、「見まく」なら「見たいこと・見るだろうこと」と訳して意味が通じれば、く語法と判断してよい。後ろに格助詞「を・に・は・も」が続いている場合は、名詞として働いている強い証拠になる。
形容詞連用形の名詞的用法(広義のく語法)との区別は、「直前の語が動詞か助動詞か、それとも形容詞か」で判断する。「思はく」の「思は」は動詞「思ふ」の未然形なのでく語法、「多く」の「多」は形容詞「多し」の語幹なので形容詞連用形の名詞的用法、と分ける。教科書記述に合わせて区別しておけば、入試の品詞分解問題で減点されない。
よくある誤解・ミスポイント
く語法を学ぶ高校生がつまずきやすいポイントを整理しておく。これを知っておくだけで、試験本番での失点を大きく減らせる。
最も多い誤解が、「思はく」を形容詞だと思ってしまうことだ。「思はく」は動詞「思ふ」の未然形「思は」+接尾辞「く」からできた名詞であり、形容詞ではない。語形が「〜く」で終わるからといって、自動的に形容詞と判断してはいけない。「言はく」「聞かく」「告(の)らく」なども同じく動詞由来の名詞である。
次に多いのが、「らく」「まく」を別の語と勘違いするミスだ。「老ゆらく」を見て「老ゆ+ら+く」と細かく分けすぎたり、「言はまく」を「言は+まく」と一語の助動詞のように捉えたりするのは誤りである。く語法の接尾辞は「く/らく/まく/しく」の四種類しかなく、それぞれが特定の活用形に接続するルールに従う。
「すべからく」を「すべて・全部」の意味だと誤訳するミスも多い。「すべからく」は「当然〜しなければならない」の意味であり、文末の「べし」と必ず呼応する。「すべからく学生は勉強すべし」は「学生は当然勉強しなければならない」の意味であって、「すべての学生」ではない。現代でも誤用が多い表現なので、原義をしっかり覚えておこう。
狭義のく語法と「形容詞連用形の名詞的用法」を混同するのも要注意だ。「多く」「遠く」「よく」は形容詞の連用形が名詞のように使われる広義のく語法であって、伝統的なく語法の中心ではない。動詞+く/らく/まく の形こそが万葉集に頻出する狭義のく語法であり、入試で問われる中心はこちらである、と覚え分けてほしい。
例文で確認(万葉集・古今集の実例から)
ここでは、く語法が実際にどのように使われているかを、上代・中古の作品から引いた例で確認しよう。和歌のなかでく語法がどのような位置に立つかを意識して読んでほしい。
例文一:言ふは易く 行ふは難し(『万葉集』巻五・八〇〇 山上憶良)
山上憶良の長歌の一節で、現代語訳は「言うことは易しく、行うことは難しい」となる。ここでの「言ふ」は終止形のままで主語として用いられ、対句として「行ふ」と並べられている。動詞をそのまま体言的に扱う上代的な語法で、後の「言はく」「行はく」と同系統の名詞化感覚をもつ。日常で使う「言うは易く行うは難し」の語源としても有名な例だ。
例文二:思へらく やまずかよはむ(『万葉集』巻四・五二三ほか 類例)
「思へらく」は、四段動詞「思ふ」に存続の助動詞「り」が付いた「思へり」を、接尾辞「らく」で名詞化した形だ。現代語訳は「(自分が心に)思うことには〜」となり、和歌や宣命・祝詞で、心中の言葉を引用する前置きとして用いられる慣用表現である。『万葉集』では「思へらく」「告(の)らく」など、引用句を導く名詞化の語法として頻繁に登場する。
例文三:老ゆらくの 惜しけくも(『万葉集』巻十七・三九六九ほか 類例)
大伴家持の歌に類例の見える表現で、現代語訳は「老いていくことの惜しいことよ」となる。「老ゆらく」はヤ行上二段動詞「老ゆ」の終止形+「らく」で「老いること」を意味し、「惜しけく」は形容詞「惜し」のシク活用未然形「惜しけ」+「く」で「惜しいこと」を意味する。く語法を二重に重ねて、老いていく嘆きを名詞的に強調した典型例だ。
例文四:我妹子に 逢はまくほりて(『万葉集』巻十二ほか 類例)
現代語訳は「いとしい人に逢いたいと思って」となる。「逢はまく」は四段動詞「逢ふ」の未然形「逢は」に助動詞「む」の未然形「ま」が付き、さらに「く」が加わって名詞化された「逢うだろうこと・逢いたいこと」の意味だ。続く「ほり」は願望の動詞「欲(ほ)る」の連用形で、「〜まくほり」は『万葉集』の願望表現の定型句として頻出する。く語法のうち「まく」型の代表例だ。
例文五:人知れぬ 我が通ひ路の 関守は よひよひごとに うちも寝ななむ(『古今集』恋三・六三二 在原業平/類例として「人知れなくに」の用法)
『古今集』に頻出する「知らなくに」「人知れなく」のような形は、打消の助動詞「ず」のく語法だ。「知ら(動詞「知る」の未然形)+なく(「ず」のく語法)+に」で「知らないのに(もかかわらず)」の意味となり、和歌の結句で逆接の余情を生む。中古以降は慣用化し、「〜なくに」「〜なくは」「〜なくも」の形でく語法の名残が随所に残る。【練習例】「知らなくに恨めしとも思はず」(知らないのに恨めしいとも思わない)のように用いる。
まとめ

く語法のポイントを最後に整理しておこう。
く語法とは、動詞・形容詞・助動詞の活用語に接尾辞「く/らく/まく/しく」が付いて、その語の内容を名詞化する古い用法だ。四段動詞は未然形+く(言はく・思はく・聞かく)、二段やカ変・サ変は終止形+らく(老ゆらく・すらく・来らく)、助動詞「む」は未然形+く(言はまく・見まく)と、接続の型が決まっている。万葉集を中心に上代和歌で多用され、平安以降は「思はく」「すべからく」「〜なくに」など慣用句として残った。
とくに重要なのは、「思はく」が動詞「思ふ」の未然形+接尾辞「く」からできた名詞であって、形容詞ではないという点だ。語末が「く」だからといって自動的に形容詞と判断してはいけない。「言はく」「聞かく」「告らく」も同じ仕組みである。
識別の際は三つのステップを踏もう。まず接尾辞の形(く/らく/まく/しく)を見極める。次に直前の語の品詞と活用形を確かめる。最後に「〜こと」と訳して意味が通るかを確認する。慣用構文「すべからく〜べし」と、形容詞連用形の名詞的用法(多く・遠く・よくなど=広義のく語法)は別概念として整理しておくこと。狭義のく語法(動詞・助動詞+く/らく/まく)こそが入試で問われる中心であることを忘れずに、和歌の品詞分解問題に取り組もう。
く語法は、現代語にはない上代日本語の柔らかい名詞化の感覚を伝える、味わい深い文法事項だ。万葉集や古今集を読みながら、「く」「らく」「まく」を意識的に探す練習を重ねてみよう。一語ずつ丁寧に分解できるようになれば、和歌の世界がぐっと近くなる。
テスト直前|「く語法」3秒チェックリスト
- □ 四段動詞の未然形+く? → く語法(言はく・思はく・聞かく=〜こと)
- □ 二段・カ変・サ変の終止形+らく? → く語法(老ゆらく・すらく・来らく)
- □ 助動詞「む」の未然形+く=「まく」? → く語法(言はまく・見まく)
- □ 「すべからく」は文末の「べし」と呼応? → 「〜すべきだ」の慣用構文
- □ 「思はく」は動詞「思ふ」の未然形+く=名詞(形容詞ではない!)


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