古文を読んでいて「ここからどこまでが、登場人物のセリフ(会話文)なんだろう?」「これは地の文? それとも心の中で思ったこと(心内語)?」と迷った経験はありませんか。古文の原文には、現代の小説のような「かぎ括弧(「 」)」がほとんど付いていません。だからこそ、セリフや思いの範囲を自分で見抜く力が、読解の得点に直結します。
この記事では、会話文・心内語を示す引用の格助詞「と・とて・とぞ・となむ」を目印にして、「どこからどこまでがセリフ・思いなのか」を確実に切り出す方法を、やさしく解説します。手順チェックリスト付きなので、読み終えたその日から実戦で使えます。
会話文・心内語とは?(まずは言葉の整理)

はじめに用語を整理します。むずかしく考える必要はありません。
- 会話文…登場人物が口に出して言ったセリフのことです。現代語なら「 」でくくる部分にあたります。
- 心内語(しんないご)…登場人物が心の中で思ったことです。声には出していませんが、「〜と思った」という形で本文に書かれます。
- 地の文(じのぶん)…セリフでも心の中の思いでもない、語り手(作者)が状況を説明している部分です。
古文の設問では「この会話は誰の発言か」「心内語はどこからどこまでか」がよく問われます。範囲と話し手をセットで押さえることが大切です。
最大の目印は「引用の格助詞 と」
会話文・心内語を見つける一番の目印は、引用の格助詞「と」です。ここが今日の記事の中心なので、はっきり覚えてください。
引用の「と」は、セリフや思いの内容を、後ろの動詞(言ふ・思ふ など)に結びつける働きをします。現代語の「〜と言った」「〜と思った」の「と」とまったく同じはたらきだと考えてください。ここで一番大事なルールは次の一点です。
「と」のすぐ直前までが、引用された発言・思考の内容(=会話文・心内語の終わり)である。
つまり「と」は、セリフ・思いの終わりの合図です。「と」を見つけたら、「ここでセリフ(思い)が終わったんだな。では、どこから始まっていたんだろう?」と、前へさかのぼって始まりを探す——これが基本の読み方です。
「と」の仲間(とて・とぞ・となむ)も同じ仲間

引用の「と」には、他の語とくっついた“仲間”の形があります。形がちがって見えても、どれも「と」の直前までが引用内容という点は共通です。あわてず分解して考えましょう。
| 形 | 成り立ち | 意味のイメージ |
|---|---|---|
| と | 引用の格助詞「と」 | 〜と(言う・思う) |
| とて | と+接続助詞「て」 | 〜と言って/〜と思って |
| とぞ | と+係助詞「ぞ」 | 〜と(強調)。結びは連体形 |
| となむ | と+係助詞「なむ」 | 〜と(強調)。結びは連体形 |
| とか・とや | と+係助詞「か・や」 | 〜とか/〜とか言う(疑問・不確か) |
ポイントは、「とて」は「と」+「て」、「となむ」は「と」+「なむ」というように、頭の『と』を切り離して見ることです。そうすれば「あ、これも引用の『と』だ」とすぐ気づけます。なお「とぞ」「となむ」「とや」「とか」のように係助詞「ぞ・なむ・や・か」が続くときは、文末の結びが連体形になる(係り結び)点もあわせて意識しておくと、文の終わりの形にも納得がいきます。
「と」とセットになる動詞で『会話』か『思い』かを見分ける

「と」の後ろに来る動詞を見れば、それが声に出した会話文なのか、心の中の心内語なのかが判定できます。これも合わせて覚えてしまいましょう。
| 種類 | 後ろに来る代表的な動詞 | 敬語のレベル |
|---|---|---|
| 会話文(口に出す) | 言ふ | ふつう |
| 会話文(口に出す) | のたまふ・のたまはす・仰す | 尊敬(言ふの尊敬語) |
| 会話文(口に出す) | 申す・聞こゆ・奏す・啓す | 謙譲(言ふの謙譲語) |
| 心内語(心で思う) | 思ふ | ふつう |
| 心内語(心で思う) | おぼす・思す・おぼしめす | 尊敬(思ふの尊敬語) |
- 「と+言ふ・のたまふ・申す」→ 直前までが会話文(声に出したセリフ)。
- 「と+思ふ・おぼす」→ 直前までが心内語(心の中で思ったこと)。
ここで敬語が大活躍します。「のたまふ」「おぼす」のような尊敬語が使われていれば、その発言・思いの主は身分の高い人物です。「申す」のような謙譲語なら、その言葉を向ける相手が高位の人物だと分かります。話し手・聞き手を特定する強力な手がかりになります。
かぎ括弧のない原文で“始まり”をさかのぼるコツ

「と」で終わりは分かりました。難しいのは始まりです。括弧がないので、どこからがセリフ・思いか自分で決める必要があります。次の手がかりで、前へさかのぼって始まりを見つけましょう。
- 呼びかけ・感動の言葉…「いざ」「あはれ」「あな」「いかに」などは、セリフの始まりに来やすい言葉です。これらを見つけたら、そこが会話・思いの口火である可能性が高いです。
- 命令・依頼・意志の表現…「〜せよ」「〜給へ(〜してください)」「〜む(〜しよう)」「〜ばや(〜したい)」などは、地の文ではなくセリフの中身でよく使われます。
- 敬語の段差(だんさ)…地の文と、セリフの中とで敬語の使い方が変わることがあります。急に丁寧さの調子が変わる箇所が、セリフの境目になりやすいです。
- 文の意味のまとまり…「ここから言いたいことが一つのまとまりになっている」と感じる先頭が始まりです。意味で区切る感覚も大切にしてください。
会話文・心内語を確定する手順チェックリスト

実戦ではこの順番で処理すれば迷いません。テスト前に、この5ステップを声に出して確認しておきましょう。
- 「と・とて・とぞ・となむ・とや・とか」を本文から探す。これが見つかれば、セリフ・思いがそこで終わっている合図です。
- 「と」の後ろの動詞を見る。言ふ・のたまふ・申す系なら会話文、思ふ・おぼす系なら心内語と判定する。
- 「と」の直前から、前へさかのぼって始まりを探す。「いざ」「あはれ」などの呼びかけ、命令・意志・依頼の表現、敬語の段差を手がかりにする。
- 敬語と文脈で話し手(思った人)を特定する。尊敬語なら主は高位の人物、謙譲語なら向ける相手が高位。直前の主語ともつなげて確認する。
- 頭の中で「 」を補って訳す。「〜と(誰々が)言った/思った」と主語を補えば、設問の「誰の発言か」にも自信を持って答えられます。
例文で確認(やさしい作例+現代語訳)
ここからは練習用の作例で、手順を体感しましょう。古文と現代語訳をセットで、範囲の切り出し方を確認してください。
例文一(会話文・基本の「と」)
古文:男、「いざ、帰りなむ」と言ひて、立ちぬ。【作例】
訳:男は「さあ、帰ってしまおう」と言って、立ち上がった。
解説:「と」の直前「帰りなむ」までが会話文です。始まりは呼びかけの「いざ」。後ろが「言ひて」なので会話文だと分かります。
例文二(心内語・「思ふ」とセット)
古文:女、「いかにせむ」と思ひて、ためらひけり。【作例】
訳:女は「どうしようか」と思って、ためらった。
解説:後ろが「思ひて」なので、これは口に出した会話ではなく心内語です。「いかに」が始まりの目印になっています。
例文三(とて=と+て)
古文:「今は限りなり」とて、泣くなり。【作例】
訳:「もうこれで最期だ」と言って、泣くのである。
解説:「とて」は「と」+「て」。頭の「と」を切り離せば、直前「今は限りなり」までが発言だと一目で分かります。
例文四(となむ=と+なむ。係り結び)
古文:「めでたし」となむ言ひける。【作例】
訳:「すばらしい」と言ったということだ。
解説:「となむ」は「と」+係助詞「なむ」。直前「めでたし」までが発言です。係助詞「なむ」を受けて、結びの「ける」が連体形になっている点も確認しましょう。
例文五(尊敬語で話し手を特定)
古文:帝、「とくまゐれ」とのたまふ。【作例】
訳:帝が「早く参上せよ」とおっしゃる。
解説:後ろが尊敬語「のたまふ」なので会話文。しかも尊敬語なので、発言の主は身分の高い人物——ここでは帝だと敬語から裏づけられます。
よくあるつまずき・注意点
- 「と」を全部引用と思い込まない。「と」には引用以外の用法もある(〜と…のように、の意味で状態を示す用法など)ので、後ろが「言ふ・思ふ」系の動詞かどうかを必ず確認しましょう。
- 始まりを欲ばって広げすぎない。意味のまとまりを超えて前に取りすぎると、地の文までセリフに含めてしまいます。「いざ」「あはれ」などの口火や意味の区切りで止める意識を持ちましょう。
- 会話と思いを取り違えない。後ろの動詞が「思ふ・おぼす」なら声には出していません。設問で「発言」を問われているのに心内語を答えると誤りになります。
- 話し手の主語を確認する。誰のセリフ・思いかは、直前の主語と敬語から判断します。主語の補い方や敬語の読み方は、下の関連記事もあわせて確認すると、より確実になります。
有名作品の一節で確認しよう
作例だけでなく、教科書でよく出てくる本物の一節でも同じ手順が通じることを確かめましょう。原文の一節と現代語訳をセットで示します。括弧のない原文をどう区切るか、目で追ってみてください。
例一(『竹取物語』冒頭)
原文:名をば、さぬきのみやつことなむいひける。
訳:(その人の)名前を、さぬきのみやつこと言ったということだ。
解説:「となむ」の直前「さぬきのみやつこ」までが引用された名前の内容です。「と」+係助詞「なむ」なので、文末の「いひける」が連体形で結ばれています(係り結び)。ただし、これは登場人物が口に出したセリフ(会話文)ではなく、語り手が名前を述べる地の文の中の引用の「と」です。このように、引用の「と」が必ずしも会話文をつくるわけではない点に注意しましょう。
例二(『徒然草』の心内語タイプ)
原文:少しのことにも、先達はあらまほしきことなり。
訳:ちょっとしたことにも、案内役(先導者)はあってほしいものだ。
解説:これは「と」を伴わない、地の文として書かれた感想・主張の例です。引用の「と」が見当たらないときは、無理にセリフと決めつけず、語り手(作者)の地の文だと判断します。「と」の有無を確認するクセが、ここで効いてきます。
このように、引用の「と」があるかないかを最初に確認するだけで、「セリフ・思いを切り出す問題なのか」「地の文を読むだけでよいのか」の見当がつきます。まずは「と」を探す——この一手を習慣にしましょう。
入試・定期テストでの問われ方
会話文・心内語の知識は、次のような形で出題されます。どんな聞かれ方をしても、根っこは「引用の『と』を目印に範囲と話し手を押さえる」ことです。出題パターンを知っておけば、設問を見た瞬間に何をすればよいか分かります。
- 範囲を答えさせる問題…「会話文(心内語)はどこからどこまでか、初めと終わりの三字を抜き出せ」という形です。終わりは「と」の直前、始まりは口火の言葉や意味のまとまりから決めます。
- 話し手・思った人を答えさせる問題…「この発言は誰のものか」を問います。後ろの敬語(尊敬語なら主が高位)と直前の主語をつないで判断します。
- 会話か心内語かを区別させる問題…「この『と』の後ろの動詞は何か」に注目させます。言ふ系なら会話、思ふ系なら心内語です。
- 現代語訳の問題…セリフの範囲が分かっていないと、主語や敬語の訳がずれます。範囲確定は訳の正確さの土台になります。
とくに「初めの三字・終わりの三字を抜き出せ」という形式は頻出です。終わりは「と」の直前から数えればよいので確実に取れます。始まりは、本文の意味と口火の言葉をていねいに見て、欲ばって広げすぎないことがコツです。
ミニ練習問題(解答つき)
ここまでの手順を、自分の手で動かして確かめましょう。まず自分で答えを考えてから、下の解答を見てください。すべて学習用の作例です。
- 次の傍線部はどこからどこまでが会話文か。「翁、いざ、酒たうべむと言ひけり。」
- 次は会話文か心内語か。「女、つらしと思ひけり。」
- 「とて」の頭を切り離すと、引用内容はどこまでか。「今は帰らむとて、出でぬ。」
解答と解説
- 「いざ、酒たうべむ」までが会話文。後ろが「言ひ」なので会話文と判定でき、口火の「いざ」が始まり、引用の「と」の直前「たうべむ」が終わりです。「翁(おきな)」は地の文の主語なので含めません。
- 心内語。後ろが「思ひ」なので、声に出さず心の中で思った内容です。「つらし(つらい)」が思いの中身で、「と」の直前までがその範囲です。
- 「今は帰らむ」まで。「とて」は「と」+「て」。頭の「と」を切り離せば、直前「帰らむ」までが言った内容だと一目で分かります。
よくある質問(Q&A)
Q. 「と」が文の中にいくつもあるときは、どれを目印にすればよいですか。
A. 後ろに「言ふ・思ふ」系の動詞が続く「と」を選びます。引用の「と」は必ず発言・思考を受ける動詞とセットになります。後ろが状態や様子を表すだけの「と」(〜のように、の意味)は引用ではないので除きます。
Q. かぎ括弧がついている教科書もありますが、それでも「と」を探す必要はありますか。
A. はい。括弧は編集者が後から補ったもので、入試の本文では外されていることが多いです。括弧に頼らず「と」で自力で切り出す力をつけておくと、初見の文章でも崩れません。
Q. 心内語と会話文で、訳し方に違いはありますか。
A. 心内語は声に出していないので、「〜と思った」「〜と心の中で考えた」のように訳します。会話文は「〜と言った」と訳します。後ろの動詞が「思ふ・おぼす」か「言ふ・のたまふ」かで訳語を選ぶと、自然な現代語になります。
まとめ
会話文・心内語の見つけ方を一言でまとめると、「引用の『と』の直前までが発言・思い。後ろの動詞で会話か思いかを判定し、前へさかのぼって始まりを探す」です。
- 目印は「と・とて・とぞ・となむ・とや・とか」。どれも頭の「と」の直前までが引用内容。
- 後ろが「言ふ・のたまふ・申す」なら会話文、「思ふ・おぼす」なら心内語。
- 始まりは「いざ・あはれ」などの口火、命令・意志・依頼、敬語の段差から探す。
- 敬語と文脈で話し手を特定し、頭の中で「 」を補って訳す。
この手順をくり返せば、括弧のない原文でも「ここからここまでが誰のセリフ」と自信を持って線を引けるようになります。会話文・心内語が見えると、登場人物の心の動きがつかめ、読解全体がぐっと楽になります。
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