古文常識をやさしく解説|時刻・方角・月の異名・官位の基礎

古文常識 図解(時刻=十二支、方角=子は北・午は南、月の異名=睦月〜師走) 古典文法

古文を読むときに意外とつまずくのが、文法でも単語でもなく「当時の常識」です。「子(ね)の刻に」「丑寅(うしとら)の方角」「長月(ながつき)のころ」などと書かれていても、今の私たちには時刻・方角・月がすぐにはイメージできません。この記事では、読解に欠かせない時刻・方角・月の異名・官位(宮中のしくみ)・年中行事を、表でまとめてやさしく整理します。背景が分かると、古文の場面が映像のように浮かんでくるようになります。

むずかしい用語にはそのつど説明を添えます。丸暗記しなくても大丈夫。まずは「だいたいの位置関係」をつかむことを目標にしましょう。

月の異名(睦月〜師走)──和風の月の呼び名

古文では一月・二月とは言わず、「睦月(むつき)」「如月(きさらぎ)」のような和風の呼び名を使います。これを「月の異名(いみょう)」といいます。何月を指すかが分からないと季節がつかめないので、まずは番号とセットで覚えましょう。

異名(読み)覚えるヒント
1月睦月(むつき)親類が集まり睦(むつ)み合う月
2月如月(きさらぎ)寒くて衣を更に着る「衣更着」とも
3月弥生(やよい)草木がいよいよ(弥)生い茂る
4月卯月(うづき)卯の花が咲く月
5月皐月(さつき)早苗(さなえ)を植える月
6月水無月(みなづき)「無」は「の」の意で「水の月」とも
7月文月(ふみづき)七夕に詩歌(文)を書く月
8月葉月(はづき)木の葉が落ち始める月
9月長月(ながつき)夜がだんだん長くなる月
10月神無月(かんなづき)神々が出雲に集まり、各地に神が無い月
11月霜月(しもつき)霜が降りる月
12月師走(しわす)師(僧)も走り回るほど忙しい月

※覚えるヒントは語呂合わせ・俗説をふくみ、由来には諸説あります。あくまで暗記の助けとして使ってください。大切なのは「異名=何月か」を正しく結びつけることです。とくに「神無月=10月」「師走=12月」はよく問われます。

季節の区分もあわせて押さえましょう。古文(旧暦)では春=1〜3月、夏=4〜6月、秋=7〜9月、冬=10〜12月です。今より季節が一〜二か月早く、たとえば「秋」は文月(7月)から始まります。現代の感覚で「7月は夏」と思うとずれるので注意します。

時刻──十二支で2時間ずつ、夜中が「子」・正午が「午」

昔は一日を十二支(子・丑・寅…)で12等分し、一つの刻(こく)がおよそ2時間でした。基準になるのは二つだけ。夜中(午前0時ごろ)が「子(ね)の刻」、正午(昼の12時ごろ)が「午(うま)の刻」です。この二つを軸に、残りは順番にあてはめれば思い出せます。なお「正午」「午前・午後」の「午」は、まさにこの午の刻から来た言葉です。

十二支(読み)およその時間帯メモ
子(ね)午後11時〜午前1時夜中・日付の変わり目
丑(うし)午前1時〜3時「丑三つ時」は午前2時〜2時半ごろ
寅(とら)午前3時〜5時夜明け前
卯(う)午前5時〜7時日の出のころ
辰(たつ)午前7時〜9時
巳(み)午前9時〜11時昼前
午(うま)午前11時〜午後1時正午をはさむ時間帯
未(ひつじ)午後1時〜3時昼下がり
申(さる)午後3時〜5時夕方前
酉(とり)午後5時〜7時日の入りのころ
戌(いぬ)午後7時〜9時宵(よい)
亥(い)午後9時〜11時

※区切り方には流儀があり、「子の刻=午後11時〜午前1時」とする数え方のほか、「午前0時から子の刻が始まる」とする数え方もあります。入試では細かい分数まで問われることは少なく、「子=夜中、午=正午、卯=日の出、酉=日の入り」という大きな対応をつかんでおけば十分です。

もう一つ、鐘の数で時を知らせる「明け六つ(あけむつ)」「暮れ六つ(くれむつ)」という言い方も覚えておくと便利です。明け六つは夜明け(卯の刻ごろ・午前6時前後)、暮れ六つは日暮れ(酉の刻ごろ・午後6時前後)を指します。「六つ」が朝と夕方の境目、と押さえておきましょう。

方角──十二支を時計のように円にあてはめる

方角も十二支であらわします。やり方は時刻とそっくりで、円をぐるりと12等分します。基準は「子(ね)=北」。そこから時計回りに、東・南・西と進みます。北=子、東=卯、南=午、西=酉の四つを先に固定するのがコツです。

方角十二支補足
子(ね)真北。ここが出発点
卯(う)日が昇る方角
午(うま)真南
西酉(とり)日が沈む方角

その四つの間(斜めの方角)は、両どなりの十二支を二つ並べて呼びます。これがいわゆる「四隅(よすみ)」で、特別な読み方と漢字一字の別名があります。場面の説明やお話のカギになることも多いので、まとめて覚えましょう。

方角十二支の並び(読み)一字の別名(読み)
北東丑寅(うしとら)艮(うしとら)
南東辰巳(たつみ)巽(たつみ)
南西未申(ひつじさる)坤(ひつじさる)
北西戌亥(いぬい)乾(いぬい)

とくに有名なのが北東の「丑寅(うしとら)=鬼門(きもん)」です。鬼門は「縁起の悪い方角」とされ、鬼が出入りすると考えられました。鬼の絵が牛(丑)の角と虎(寅)の牙・虎柄のパンツで描かれるのは、この「丑寅」の連想から、という説があります。話の中で「丑寅の方角」が出てきたら不吉な前ぶれのことが多い、と知っておくと読解に役立ちます。

官位・宮中のしくみ──登場人物の立場をつかむ

物語や日記には、宮中(天皇の住まいや朝廷)で働く人々がたくさん登場します。だれが偉くて、だれが仕える側なのか――この上下関係が分かると、敬語の使われ方や話の筋がぐっと読みやすくなります。最低限おさえたい言葉を表にまとめます。

言葉(読み)意味・立場
帝・御門(みかど)/天皇国のいちばん上に立つ人。最高敬語が使われる
中宮(ちゅうぐう)・后(きさき)天皇のきさき。とくに正式なきさきを中宮という
東宮・春宮(とうぐう)次に天皇になる予定の皇子(こうし)。皇太子
女房(にょうぼう)宮中や貴族の家に仕える女性。清少納言・紫式部もこの立場
受領(ずりょう)地方に派遣されて実際に政治を行う中級の役人(国司)

※「女房」は現代語の「妻」ではなく、宮仕えをする女性のことです。意味がまったく違うので要注意。また「受領」は、都の貴族から見ると身分の低い地方役人あつかいで、敬語が付かないことが多い点も読解のヒントになります。

場所や役職をあらわす言葉も、いくつか知っておくと便利です。下の三つは入試でもよく出ます。

  • 内裏(だいり)…天皇の住む御殿(ごてん)。宮中の中心の建物。
  • 殿上人(てんじょうびと)…天皇のいる御殿の「殿上の間(ま)」に昇ることを許された、身分の高い貴族。「昇殿(しょうでん)を許された人」のこと。
  • 蔵人(くろうど)…天皇のそば近くで、機密の連絡や雑務を扱う役人。天皇の秘書役のような存在。

細かい官職を全部覚える必要はありません。「天皇>きさき・皇太子>貴族(殿上人)>女房・受領」という、おおまかな上下のイメージを持っておけば十分です。だれを高めている敬語かを考えるときの土台になります。

年中行事──季節の節目に行われた行事

古文には、季節の節目に行う年中行事(ねんちゅうぎょうじ)がよく出てきます。行事の名前と時期が分かると、場面の季節や雰囲気が一気につかめます。代表的なものを挙げます(時期は旧暦の月です)。

行事(読み)時期内容
元日・正月(しょうがつ)1月1日年のはじめを祝う。さまざまな宮中行事が続く
上巳(じょうし)・桃の節句3月3日のちのひな祭り。人形や流しびなで けがれを払う
端午(たんご)の節句5月5日菖蒲(しょうぶ)を飾り、邪気(じゃき)を払う
七夕(たなばた)7月7日牽牛・織女(けんぎゅう・しょくじょ)の星をまつり、裁縫や詩歌の上達を願う
重陽(ちょうよう)・菊の節句9月9日菊を愛で、長寿を願う

※3月3日・5月5日・7月7日・9月9日のように奇数の重なる日が節句(せっく)として大切にされました。「七夕は秋(旧暦7月)の行事」「重陽は9月9日で菊」のように、行事と季節・月をセットで覚えると、場面の時期を読み取る手がかりになります。

覚え方のポイント

  • 時刻と方角は「子=北かつ夜中」「午=南かつ正午」を軸に…十二支の円を一つ覚えれば、時刻にも方角にも同じ順番で使い回せます。北→東→南→西と時計回り、と押さえましょう。
  • 四隅の方角は二支ならべ+一字…丑寅=艮(北東)、辰巳=巽(南東)、未申=坤(南西)、戌亥=乾(北西)。とくに北東の丑寅=鬼門は頻出。
  • 月の異名は番号とセットで…全部の由来を覚えなくてよいので、「神無月=10月」「霜月=11月」「師走=12月」の後半を重点的に。旧暦は今より季節が早い(秋は7〜9月)ことも忘れずに。
  • 官位は完全な序列より「敬語の手がかり」として…天皇・きさきには最高敬語、女房・受領には軽い敬語かなし、という大きな差をイメージできれば十分です。
  • 年中行事は奇数ぞろいの日…3/3・5/5・7/7・9/9。日付の数字から季節を逆算できます。

古文常識は、覚えた分だけ場面が鮮明になり、敬語や心情の読み取りもラクになります。まずは時刻・方角の十二支と、月の異名の後半(神無月〜師走)から固めていきましょう。ほかの文法事項とあわせて学ぶと、得点力が一気に伸びます。

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