和歌の「序詞」をやさしく解説|枕詞との違いと訳し方・見つけ方

古典文法

この記事でわかること:和歌の「序詞(じょことば)」が何なのか、そして受験生がいちばんまちがえる「枕詞(まくらことば)」との違いが、すっきり整理できます。「何文字なの?」「訳すの、訳さないの?」「どんな言葉でも導けるの?」という3つの迷いを、対照表と有名な歌でひとつずつ解消します。最後には、本文の中から序詞を見つける3ステップも紹介します。

序詞とは? まず結論から

序詞(じょことば)とは、あとに続くある言葉を引き出すために置かれた、おおむね七音以上(多くは二句=十二〜十三文字以上)の長い前置きのことです。

もう少しかみくだくと、こういうことです。和歌のはじめのほうに、景色や自然のようすを描いたひとかたまりの言葉を置いて、その後ろに出てくる本当に言いたい言葉を、イメージごと引き出してくる――この「引き出し役の前置き」が序詞です。

たとえば「長い夜」と言いたいときに、いきなり「長い夜」と言うのではなく、「鳥の長い長いしっぽのような……」と前置きしてから「長い夜」につなげる。この前置きの部分が序詞です。前置きがあることで、ただの「長い夜」よりもずっと情景がふくらみ、心細さが伝わります。

ポイントは3つだけ覚えてください。

  • 長い(おおむね七音以上。二句にまたがることが多い)
  • 訳す(意味があるので、現代語訳のときは「〜のように」などと訳す)
  • 自由(「この前置きならこの言葉」という決まりがなく、作者がそのつど工夫してつくる)

この「長い・訳す・自由」が、次に説明する枕詞との大きな分かれ目になります。

いちばんの難所|序詞と枕詞のちがい

多くの人がつまずくのが、序詞とよく似た「枕詞(まくらことば)」との区別です。枕詞も「あとの言葉を引き出す前置き」という点では序詞と同じ仲間なので、混同しやすいのです。

まず枕詞を一言で説明します。枕詞とは、決まった特定の言葉の前に、いつもセットで置かれる五音の飾り言葉のことです。たとえば「ひさかたの」は必ず「光」「空」「天」などにかかり、「ちはやぶる」は必ず「神」にかかります。「この枕詞ならこの言葉が来る」という組み合わせが、昔から決まっているのが特徴です。そして、もともとの意味がはっきりしなくなっているものが多いので、枕詞は訳さなくてかまいません

では、序詞と枕詞のちがいを表で整理しましょう。古文は、こうした対照表でくらべると一気に頭に入ります。

くらべる点 枕詞(まくらことば) 序詞(じょことば)
長さ(字数) ほぼ五音(短い) おおむね七音以上。二句にまたがることが多い(長い)
訳すか訳さないか 訳さない(意味が薄れているため) 訳す(「〜のように」などと意味を出す)
導く言葉は決まっているか 決まっている(ひさかたの→光、など昔からの定型) 決まっていない(作者がそのつど自由につくる)
掛詞・縁語との連動 基本的にしない することが多い(同じ音や関係する言葉でつながる)

いちばん見分けやすいのは、「長さ」と「決まっているかどうか」です。前置きが五音ピッタリで、しかも昔からの定番の組み合わせなら枕詞。前置きが二句にもまたがるほど長くて、作者オリジナルの工夫なら序詞、と考えると整理しやすくなります。

おもしろい注意点|ひとつの歌に両方が入ることもある

じつは、ひとつの和歌の中に枕詞と序詞の両方が入っていることもあります。たとえば次に紹介する「あしびきの……」の歌は、出だしの「あしびきの」が枕詞で、そのすぐ後ろの「山鳥の尾のしだり尾の」が序詞、という二段構えになっています。「枕詞か序詞か、どちらか一方しかない」と思い込まないことも、まちがえないコツです。

有名な歌で見る序詞|現代語訳つき

ここからは、実際の有名な和歌で序詞を確かめましょう。タイプの違う3首を選びました。それぞれ前置き(序詞)と、そこから引き出される言葉に注目してください。

例1:純粋にイメージで導くタイプ

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む

(百人一首3番。『拾遺集』所収。百人一首では柿本人麻呂の作とされています)

現代語訳:山鳥の長く垂れ下がった尾のように、長い長いこの夜を、私はひとりさびしく寝るのだろうか。

  • 序詞:「(あしびきの)山鳥の尾のしだり尾の」
  • 引き出される言葉:「ながながし(夜)」

山鳥のしっぽが長く垂れているようすを描き、その「長さ」のイメージで「長い夜」を引き出しています。前置きの最後を「〜のように」と訳すと、自然な日本語になります。なお、出だしの「あしびきの」は「山」にかかる枕詞なので、ここは訳していません。先ほど説明した「枕詞と序詞が同居する歌」の代表例です。

例2:掛詞(かけことば)と連動するタイプ

風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半にや君が ひとり越ゆらむ

(『伊勢物語』筒井筒の段に出てくる、妻が詠んだ歌。『古今集』にも読人知らずとして入っています)

現代語訳:風が吹くと沖の白波が立つ――その「たつ」ではないが、竜田山(たつたやま)を、夜中にあなたはひとりで越えているのだろうか。

  • 序詞:「風吹けば沖つ白波」
  • 引き出される言葉:「たつ(た山)」

「波が立つ」の「たつ」と、地名「竜田山(たつたやま)」の「たつ」が同じ音になっています(これを掛詞といいます)。序詞「風吹けば沖つ白波」は、この「たつ」という音を引き出すための前置きです。ほんとうに言いたいのは、夫が夜ひとりで山を越えていないか心配する気持ちのほう。前置きの波の景色は、その心配へつなぐための導入なのです。このように序詞は掛詞とセットになって、音でつながることがよくあります。

例3:同じ音でつなぐタイプ

みかの原 わきて流るる 泉川(いづみがは) いつ見きとてか 恋しかるらむ

(百人一首27番。中納言兼輔(ちゅうなごんかねすけ)の作とされ、『新古今集』に所収。なお『古今集』には読人知らずとして見える歌でもあります)

現代語訳:みかの原を分けて湧き出て流れる泉川――その「いづみ」ではないが、いったいいつ会ったというので、こんなにあの人が恋しいのだろうか。

  • 序詞:「みかの原わきて流るる泉川」
  • 引き出される言葉:「いつ見(き)」

川の名前「泉川(いづみ)」の音が、次の「いつ見(いつみ)」を引き出しています。前半は川の景色、後半は人を恋しく思う気持ち。一見つながらない景色と心が、似た音でそっと結ばれているのがこの歌の工夫です。なお、まだろくに会ってもいないのに恋しい、という切ない気持ちがテーマで、序詞の清らかな川の景色がその純粋さをきわだたせています。

本文から序詞を見つける3ステップ

テストや入試では、「次の歌から序詞を抜き出しなさい」と問われます。次の3つの手順でさがすと、迷いにくくなります。

ステップ1:歌の「ほんとうに言いたいこと」を後半から探す

和歌は、作者の気持ちが後半(多くは下の句)に出てくることが多いです。まず「この歌で作者が言いたいのはどこか」を見つけましょう。例1なら「ひとりかも寝む(ひとりで寝るのだろうか)」という心細さ、例2なら「ひとり越ゆらむ(ひとりで越えているのだろうか)」という心配です。

ステップ2:前半の「自然・景色の描写」に注目する

気持ちが書かれた部分の手前に、自然や景色を描いたひとかたまりがあれば、そこが序詞の候補です。山鳥の尾、沖の白波、湧き流れる川――いずれも前半に置かれた風景でしたね。「景色の前置き+気持ち」という形が見えたら、前置きが序詞です。

ステップ3:「〜のように」か「〜ではないが」で訳せるか試す

候補の部分を、「〜のように」または「〜ではないが」でつなげて訳してみてください。うまく意味が通れば、それが序詞です。

  • 「〜のように」型:イメージで直接たとえているとき(例1の山鳥の尾=長さのたとえ)。
  • 「〜ではないが」型:同じ音や掛詞でつながっているとき(例2「たつ」、例3「いづみ」)。

この2つの訳し方を持っておくと、現代語訳の問題でもあわてずにすみます。逆に、五音ピッタリで訳さなくても歌が成り立ち、しかも昔からの定番の組み合わせなら、それは序詞ではなく枕詞だと判断できます。

まちがえやすいポイントのまとめ

  • 長さで迷ったら:五音くらいの短い前置きは枕詞、二句にまたがる長い前置きは序詞。
  • 訳で迷ったら:訳さなくてよいのが枕詞、「〜のように/〜ではないが」と訳すのが序詞。
  • 決まりで迷ったら:定番の組み合わせ(ひさかたの→光 など)が枕詞、作者の自由なつくりが序詞。
  • 掛詞が出てきたら:序詞が掛詞や縁語と連動していないか、後ろの言葉を確かめる。

序詞は「長い前置きで、景色から気持ちへとつなぐ橋」だとイメージすると、ぐっと身近になります。最初は3つの有名な歌(山鳥の尾・たつた山・泉川)を覚えてしまうのがいちばんの近道です。この3首が頭に入っていれば、初めて見る歌でも「あ、これは序詞のパターンだ」と気づけるようになりますよ。

和歌の修辞には、ほかにも掛詞・縁語・枕詞・本歌取りなどがあります。それぞれの違いを一気に整理したいときは、修辞のまとめ記事や句切れの解説もあわせて読むと、和歌の問題がもっと得意になります。

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