古文の「動詞」を正確に識別できることは、古文読解の土台です。助動詞や形容詞と混同しやすい活用形を見極める力があれば、文の構造が読み取れるようになり、入試問題でも確実に点数を稼げます。
動詞の識別で最も大切なのは「活用の種類」を見極めることです。古文の動詞には四段・上一段・上二段・下一段・下二段・カ行変格・サ行変格・ナ行変格・ラ行変格という9種類の活用があります。この種類を正確に判断できれば、助動詞との識別問題も一気にクリアできます。
この記事では、動詞の基本知識から識別の手順、入試でよく問われる誤解ポイントまでを順番に解説します。例文を通じて感覚を身につけて、動詞の識別を得意分野にしてしまいましょう。
「動詞」の基本(意味・接続・活用)

動詞とは「事物の動作・作用・存在を表す自立語で、活用がある品詞」です。これが動詞の定義であり、識別の出発点になります。文の中で動詞を見つけるときは、まず「何をする」「どうなる」「ある・いる」を表す語を探します。古文の動詞も現代語と同様に文末や連体修飾語として使われますが、活用の形が現代語とは大きく異なるため注意が必要です。
古文の動詞の活用形は「未然形・連用形・終止形・連体形・已然形・命令形」の6種類です。現代語では「未然形・連用形・終止形・連体形・仮定形・命令形」と言いますが、古文には「仮定形」がなく「已然形」があるのが大きな違いです。已然形は「すでにそうなっている」という意味合いを持ち、已然形のあとに「ば」が続くと「〜したので」「〜したところ」という確定条件を表します。この已然形+「ば」の読み取りは古文読解の頻出ポイントです。
正格活用の5種類
活用の種類は大きく「正格活用」と「変格活用」の2グループに分けて整理できます。正格活用は規則的に変化するもので、四段活用・上一段活用・上二段活用・下一段活用・下二段活用の5種類があります。
四段活用は「ア・イ・ウ・ウ・エ・エ」と4段の段(ア段・イ段・ウ段・エ段)にわたって活用し、古文の動詞のなかで最も数が多く「書く」「読む」「走る」などが代表例です。上二段活用は「イ・イ・ウ・ウル・ウレ・イヨ」とイ段・ウ段の2段にわたって変化し、「落つ」「起く」「老ゆ」などが該当します。下二段活用は「エ・エ・ウ・ウル・ウレ・エヨ」とウ段・エ段の2段にわたって変化し、「助く」「受く」「越ゆ」などが代表例です。
上一段活用は常にイ段の音で活用する動詞で、わずか7語に限定されます。「ひいきにみゐる」という語呂合わせで覚えます:干(ひる)・射(いる)・着(きる)・煮(にる)・似(にる)・見(みる)・居(ゐる)の7語です(「嚏(ひる)=くしゃみする」「率(ゐる)=引き連れる」を含めて9語とする教科書もあります)。下一段活用は古文では「蹴る(け)」という動詞1語だけが該当します。
変格活用の4種類

変格活用は不規則に変化するもので、カ行変格活用・サ行変格活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用の4種類があります。カ行変格活用は「来(く)」という動詞1語だけで「こ・き・く・くる・くれ・こ(よ)」と活用します。サ行変格活用は「す(する)」「おはす」が該当し「せ・し・す・する・すれ・せよ」と活用します。ナ行変格活用は「往ぬ(いぬ)」「死ぬ(しぬ)」の2語だけで「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」と活用します。ラ行変格活用は「あり」「をり」「はべり」「いまそかり」の4語で「ら・り・り・る・れ・れ」と活用します。変格活用に含まれる動詞は数が少なく決まっているため、すべて丸暗記してしまうことが識別への近道です。
「動詞」の識別方法(ステップごとに解説)
動詞の識別、特に活用の種類を見極める手順を3つのステップで説明します。このステップを覚えれば、どんな動詞が出てきても対応できます。
ステップ1:変格活用かどうかを先に確認する
最初に確認するのは変格活用です。変格活用に該当する動詞は数が少なく決まっているため、先に確認するのが効率的です。「く(来)」ならカ変、「す・おはす」ならサ変、「いぬ・しぬ」ならナ変、「あり・をり・はべり・いまそかり」ならラ変と覚えてしまいましょう。これらに当てはまらなければ正格活用として次のステップに進みます。変格活用の動詞は決まった語だけですので、先に「リストの中にあるか」を確認するだけで一気に絞り込むことができます。
ステップ2:上一段・下一段かどうかを確認する
次に確認するのは上一段活用と下一段活用です。上一段活用の動詞は「干(ひる)・射(いる)・着(きる)・煮(にる)・似(にる)・見(みる)・居(ゐる)」の7語(拡張で「嚏(ひる)・率(ゐる)」を加えて9語)に限られす。語呂合わせとして「ひいきにみゐる(干・射・着・煮・似・見・居る)」が有名なので、これで覚えておきましょう。下一段活用は「蹴る(け)」の1語だけですので、「蹴る」以外で下一段はあり得ないと覚えてください。これらに当てはまらなければ、残りは四段・上二段・下二段のいずれかということになります。
ステップ3:「ず」をつけて未然形の段を確認する

正格活用のうち四段・上二段・下二段の判別には、未然形に注目するのが最も確実な方法です。動詞に「ず(〜ない)」を接続させたとき、語尾がア段(あ行)の音になれば四段活用、イ段(い行)の音になれば上二段活用、エ段(え行)の音になれば下二段活用と判断できます。
具体例で確認しましょう。「書く」に「ず」をつけると「書か(か)ず」となり語尾はア段なので四段活用です。「落つ(おつ)」に「ず」をつけると「落ち(ち)ず」となり語尾はイ段なので上二段活用です。「助く(たすく)」に「ず」をつけると「助け(け)ず」となり語尾はエ段なので下二段活用です。このように「ず」をつけて語尾の段を確認するだけで、3種類の活用を確実に区別することができます。この3ステップを流れとして身につけておけば、見慣れない動詞が出てきても活用の種類を正確に判断できます。
よくある誤解・ミスポイント
動詞の識別でよくある誤りには典型的なパターンがあります。あらかじめ知っておくことで、うっかりミスを防げます。
「ぬ」の識別を間違える
最もよくある誤解は「ぬ」の識別です。「ぬ」はナ行変格活用動詞「往ぬ(いぬ)・死ぬ(しぬ)」の終止形でもあり、打消の助動詞「ず」の連体形でもあり、完了の助動詞「ぬ」の終止形でもあります。「いぬ(往ぬ)」や「しぬ(死ぬ)」のような動詞の一部として登場する場合と、「読まぬ」のような打消の助動詞として使われる場合を混同しないようにしましょう。見分けるコツは直前の語の活用形に注目することです。未然形に続く「ぬ」は打消の助動詞であり、連用形に続く「ぬ」は完了の助動詞です。動詞の「往ぬ・死ぬ」はその語自体がナ変動詞として辞書に載っているものとして処理します。
「り」をラ変動詞と助動詞で混同する
次によくある誤りは「り」の識別です。ラ行変格活用の動詞「あり」「をり」などはその活用形に「り」が含まれます。一方で、完了・存続の助動詞「り」は四段動詞の命令形またはサ変動詞の未然形に接続するという独自のルールを持っています。ラ変動詞の「あり」はそれ自体が独立した動詞であることを意識しましょう。「あり」「をり」が文中に現れたとき、それ自体が述語や補助動詞として使われているなら動詞として扱います。助動詞「り」と区別する際は接続先の活用形を丁寧に確認することが重要です。
「す」をサ変動詞と助動詞で混同する
「す」の識別も注意が必要です。「す」はサ行変格活用動詞「す(する)」の終止形ですが、使役・尊敬の助動詞「す」の終止形でもあります。前後の文脈や接続する語の活用形を見て判断します。助動詞の「す」は四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に接続するというルールが判断の決め手になります。直前の語が未然形であれば使役・尊敬の助動詞、そうでなければサ変動詞の「す」と判断できます。
上一段と上二段を混同する
上一段・上二段の混同も頻繁に起こります。上一段活用の動詞は「い段」の音だけで活用しますが、上二段活用は「い段とう段」の2段にわたって活用します。たとえば「起く(おく)」という動詞は、「ず」をつけると「起き(おき)ず」となり語尾はイ段ですが、終止形が「起く(おく)」とウ段になることから上二段活用と判断します。一方「見る(みる)」は終止形・連体形ともに「みる」とイ段のままであり、上一段活用です。迷ったときは「ず」をつけて未然形を確認するだけでなく、終止形と連体形の形も確認する習慣をつけましょう。
例文で確認

実際の古文の例文を通じて、動詞の識別を練習しましょう。各例文で動詞の活用の種類と活用形を確認する習慣をつけることが、得点力の向上につながります。
例文1:花散りぬる春の夕暮れ
「散り」は「散る」の連用形で、ラ行四段活用動詞です。「ず」をつけると「散ら(ら)ず」となりア段なので四段活用と確認できます。「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形で、「散り(連用形)」に接続しているため完了の意味と判断できます。現代語訳は「花が散ってしまった春の夕暮れ」です。動詞の連用形に続く「ぬ」は完了の助動詞であるという判断の根拠を押さえておきましょう。
例文2:君がため春の野に出でて若菜摘む(百人一首・光孝天皇)
「出でて」は「出づ(いづ)」の連用形で、ダ行下二段活用動詞です。「ず」をつけると「出で(え)ず」となり語尾がエ段になるため、下二段活用と確認できます。「摘む」はマ行四段活用動詞の終止形です。「ず」をつけると「摘ま(ま)ず」となりア段ですので四段活用です。現代語訳は「あなたのために、春の野原に出て若菜を摘みます」です。
例文3:いとなやましければ、見る人もなくて(源氏物語・桐壺)
「見る」はマ行上一段活用動詞の連体形です。上一段活用の動詞として「ひいきにみゐる」の「み(見)」として暗記しておくものです。「ず」をつけると「見(み)ず」となり語尾はイ段ですが、上一段活用の動詞はステップ2で確認済みのものとして即座に処理できます。現代語訳は「たいそう気分が悪かったので、看病する人もいなくて」です。
例文4:風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ(伊勢物語・23段「筒井筒」)
「吹けば」の「吹け」はカ行四段活用「吹く」の已然形で、「ば」が続いて確定条件を表します。「越ゆ」はヤ行下二段活用動詞です。「ず」をつけると「越え(え)ず」となり語尾がエ段になるので下二段活用と確認できます。「らむ」は現在推量の助動詞で、終止形「越ゆ」に接続しています。現代語訳は「風が吹くと沖の白波が立つ竜田山を、夜中にあなたはひとりで越えているのでしょうか」です。
例文5:来し方行く末も知らず
「来し」の「来(き)」はカ行変格活用動詞「く(来)」の連用形です。カ変活用の動詞は「く(来)」1語だけですのでステップ1で即座に判断できます。「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。「行く」はカ行四段活用動詞の連体形で、「ず」をつけると「行か(か)ず」となりア段なので四段活用と確認できます。「知らず」の「知ら」はラ行四段活用「知る」の未然形で、打消の助動詞「ず」が続いています。現代語訳は「過ぎ去った過去も、これからの将来もわからず」です。
まとめ
動詞の識別の要点を最後にまとめます。
動詞を識別するときには、まず変格活用(カ変・サ変・ナ変・ラ変)に該当するかを確認してから、正格活用(四段・上一段・上二段・下一段・下二段)の見分けに進む順番が最も効率的です。変格活用に含まれる動詞は数が少なく決まっているため、すべて覚えてしまうことが識別の近道になります。
正格活用の判別では「ず」をつけて未然形を確認する方法が基本です。語尾がア段ならば四段活用、イ段ならば上二段活用、エ段ならば下二段活用です。上一段活用の動詞は「ひいきにみゐる」の語呂合わせで覚える限られた動詞として個別に暗記し、下一段活用は「蹴る」の1語だけと覚えてしまえば迷う余地がありません。
識別で迷いやすい「ぬ」「り」「す」については、直前の語の活用形(接続)をていねいに確認することが大切です。動詞の一部なのか、助動詞として使われているのかは、接続を見れば必ず判断できます。
動詞の活用と識別は古文読解の根幹です。この記事のステップと例文を繰り返し確認しながら、入試本番でも自信を持って解答できる力を身につけてください。


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